サ終直前のネトゲで推しに急接近されましたが、現実の自分がクソダサ陰キャのため最後の思い出だけ作って逃げようと思います

二一

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4月26日 最後の探索がはじまる

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『こっち、ついてきて!』
『ちょっと、ちょっと! おい!』
 走り出すカナタに焦ったコマの声がかかる。反応したのはユーリのほうが早かった。
『あんたベテランさん? ちょっとそこの子、助けたってよ』
『はぁ!?』
『パーティの仲間がログインできへんようになったんやって。最後の噴水も2人以上やないと仕掛け解除できんし、手ぇ貸したって』
『なんで俺が!?』
『もう1週間ほどしかないやん。せっかくやったら、アンスターチェ山脈のイベントまでクリアして欲しいもん』
 ほな、よろしく。
 コマの返事を聞くより先に、ユーリが部屋から走り出る。その背中を慌てて追いかけながら、ホッとしたと同時にうれしくなった。
 ユーリは優しい。
 アンスターチェ山脈のイベントをクリアすると、山頂から360度の景色を見ることができるようになる。それは、もう10年以上前のグラフィックでありながらも、いまだに語り継がれる美しさなのだ。
『俺も久しぶりに見に行きたくなったな』
 屋敷を出たところで体力ゲージがなくなったカナタに合わせて、ユーリも足を緩める。
『見に行く時間あるとえぇなぁ』
『ウワバミさんが合流したら移動魔法が使えるし、きっと行けるよ』
 みんな最後に見たいと言うような気がする。
 真っ暗な市場を並んで歩くと、この世界にふたりだけが取り残されたように感じる。実際は、昼夜逆転のプレイヤーとちょこちょことすれ違っているのだが。
 体力ゲージが回復するのを待って、また走る。それを繰り返しながら城に着く頃には、説明もしっかりと終わっていた。
『ここ?』
 牢屋のベッドがあった床にユーリがしゃがみ込む。そして、躊躇することなく紋章をくぼみにはめた。壁が2ヶ所、淡く光る。
『揃ってなくても進めるんやな』
『さっきいてたコマってやつが、ここはふたつめの地下水路だって言ってた。あいつはひとりで入ったみたいだし』
『そういや、なんで一緒におったん?』
『この先に進むパーティ探してるって……だから、俺の仲間を口説くってついてきてたんだ。なのに、ユーリが初心者プレイヤー押しつけたから』
 そこまで言ってから耐えきれず笑ってしまった。意図せず邪魔をしてしまったユーリも、悪いことをしたと言いつつ笑っている。
『ウワバミさんはログアウトしてるから、戻ってきてもしばらくは入れない。ミキニャがログインできるタイミングで4人揃って一気に友好度を上げないと』
『あとで掲示板に説明残しとくわ』
『『それでさ……』』
 同時に声が揃って、同時に黙ってしまう。視線が、ぽっかりと空いた階段に注がれていた。
『時間的にはそろそろ寝らなあかんのやけど……』
『4人揃ってないから進めないだろうしね』
 そう、今このダンジョンに進む理由はない。むしろいったんログアウトして、身体を休めて――。
 だけど、1年ぶりのイベントなのだ。しかも、それは誰も攻略したことがないマップで。そんなもの、後回しにできるはずがない。
『ちょっとだけ様子見とか……』
『せやな。ちょっとだけ』
 顔を見合わせて共犯者のように笑い合うと、ユーリを先頭に地下へと階段を下りた。
 薄暗い水路沿いの通路を進みながら、ランタンを取り出す。周囲がわずかに明るくなった。
『見た感じ、あっちの水路と似てるよな』
『水路やから、俺らは移動できんくても、水の流れは繋がっとるしな』
 とにかく、端から歩き回ってマップを完成させないと。いつもどおりの、ダンジョン攻略の手順で角を曲がる。
 その先に、見たこともないモンスターが襲いかかってきた。
『カナタ、どうする?』
『場所柄、水属性か闇属性だろうから……』
 浄化系の呪文で応戦する。予想どおり高ダメージを与えたものの、モンスターは2ターン目の攻撃を繰り出した。
『えらい強ない!?』
 攻撃を辛うじて躱したユーリが叫ぶ。ユーリの物理攻撃はあまりダメージを与えられないようだ。2ターン目の浄化呪文でモンスターが消えた。もう、いくら増えても意味がない経験値と金貨がパラメーター上に加算されていく。
『カナタちょっと待って。装備変えるわ』
 ユーリが背中の大剣を小ぶりな剣に持ち替える。古代の神殿で手に入れた神剣だ。物理攻撃は弱いが、光属性が強い。
『どうする? 戻る?』
『カナタ、発光虫持ってる? あと回復系のアイテム』
『発光虫は1個だけ。アイテムは普通に持ってるよ』
『ほな、もうちょっと進まん?』
 ワクワクが抑えきれないユーリがかわいらしくて、笑いを堪えながら了承する。発光虫は言葉通り小さな光を放つ虫で、虫かごから出すとダンジョンから強制排除される効果がある。いざとなれば、一瞬で外に逃げられる貴重なアイテムだ。もっとも、魔法使いのウワバミがいれば呪文で同じ効果が得られるため、常備の必要はあまりない。
『とりあえず、MPは気にしないでガンガン呪文使う。どうせいったん戻るし、アイテムも補充できるから』
 油断してゲームオーバーになるのは避けたい。改めて装備を確認すると、今度は慎重に角を曲がった。
『カナタ!』
 ユーリの警告と同時に、強い衝撃でコントローラーが震えた。画面のカナタが壁に叩きつけられている。体力ゲージが一気に減っていた。
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