サ終直前のネトゲで推しに急接近されましたが、現実の自分がクソダサ陰キャのため最後の思い出だけ作って逃げようと思います

二一

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4月26日 最後の探索がはじまる

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『不意打ちかよ……!』
 このレベル帯になってからは、不意打ちなんてされることがなかった。慌てて回復呪文を唱えると、次の攻撃はなんとか防ぐことができた。
 浄化呪文があまり効かない。ヘドロの塊みたいなモンスターは水属性みたいだ。
 アイテムボックスから火属性を与えるアイテムをユーリに使う。物理攻撃は効いているようだから、ここはサポートに回るほうがいいと判断した。
 ユーリの動きはいつ見ても惚れ惚れする。カナタも決してゲームが下手な方ではないが、接近戦での操作はどうしても単調になってしまう。ユーリはというと、回避アクションからのカウンターが流れるように決まっていくのだ。
 ヘドロのモンスターは、ある一定の攻撃を受けると分裂するようだった。その小さな一体がカナタへと飛びかかってくる。
『キリがないよ!』
『溜めゲージもうすぐ溜まる! ちょっとずつ削るわ!』
 分裂するギリギリまでモンスターの体力を削る。ユーリが攻撃を受けることで溜まる怒りのゲージは、あと少しでマックスだ。
 そのとき、モンスターが見たことのない動きをし始めた。コントローラーが激しく振動する。
『防御せぇ!』
 ユーリの叫び声に合わせて、カナタも防御モーションに入る。それでも、ジリジリと削られていく体力ゲージに、冷や汗が出た。
『カナタ! 大丈夫か!?』
 大きな波が去って、なんとか瀕死手前で持ちこたえた体力にホッとする。そこで、画面の違和感に首を傾げた。カナタの白い装束がいつもと違う?
『え、なんで……こんな効果なかったよな?』
 目の前に両腕を持ち上げ、全身を眺める。
『どうしたん? って、カナタの服、破れてるやん。なんで?』
 同じように驚いたユーリの声に、もしかしてとユーリをまじまじと見つめた。ユーリのほうは頑丈な鎧のおかげか、ほとんど変わりなく見える。
『新しい要素ってことは、やっぱりここが隠しイベントな感じかな?』
 そんなことをつぶやきつつ、回復呪文のモーションをしたところで、目の端になにかが横切った。
『二段階攻撃!?』
 普通、大技を出した直後は動けなくなる。だから油断してしまった。あの攻撃は、大技と連続して通常攻撃を重ねてくる嫌なものだったのだ。
『間に合わない!』
 神官の回避能力で躱すのは不可能だ。ゲームオーバーが脳裏にちらつき、思わず目を瞑った。
『あれ?』
 握りしめたコントローラーには振動がこない。おそるおそる目を開けると、画面いっぱいに、ユーリの鎧が映っていた。
『うわ……』
 焦りに声が上ずりかけて、慌てて口をつぐんだ。
 戦士のスキルのひとつである「かばう」が発動したのだ。ユーリの大きな身体が、カナタに覆い被さるようになっている。熱も重みも感じるわけじゃないのに、抱き締められているような錯覚で動けなくなった。
 しかも、今度はユーリの装備がボロボロになって、ところどころ頑強な肉体が露出しているのだ。つまり、生身のユーリに抱き締められている生身のカナタ、というシチュエーションが完成しているわけで……。
 感触なんかもちろんない。だけど、VRごしの視界には、限りなく接近したユーリの身体が、自分を抱き締めていて。心臓があり得ないくらいリズムを早めている。
 次の瞬間、立ち上がったユーリがマックスになった怒りのゲージを解放する。特殊必殺技でモンスターがやっと消滅した。
『死ぬかと思ったわ……』
 座り込んだままのカナタの前にしゃがんだユーリは、さすが戦士の体力で余裕はあるものの、アバターはキズだらけになっている。そう、キズだらけの戦士がまた色っぽいのだ。ましてや、今は破損した装備のあいだから、最高にかっこいい筋肉が見えている。翼の指は、無意識にショートカットボタンを押し、いい感じの角度に視点を調整してスクリーンショットを取っていた。
『ユーリ。ありがとう』
 裏返りそうになる声をなんとか宥めて、かばってもらったお礼を言いつつ、回復呪文を唱える。ユーリの傷がみるみるきれいになると同時に、どんな作用なのか装備の破損も直っていた。ちょっと残念だ。
『服も直るんやな。ってことは、先にカナタのほう治さんとあかんやん。それ、むっちゃ破れとるし』
 どこか焦ったようなユーリが、カナタの傷に触るように手を伸ばした。
 距離が、近い――。
 ユーリの手がカナタの肌に触れそうだ
 間近に迫る推しの顔に、心臓が情けなく騒いでいる。むしろこれでトドメを刺されそうだ。
 あらためて自分を見ると、ユーリ以上に酷い有り様で、ボロボロの布からはきれいな肉体が傷を作っている。好みの身体が傷を負ったビジュアルが良さ過ぎて、カナタはまたスクリーンショットを撮っていた。
『ほら、はよ呪文』
 ユーリになぜか急かされ、自分を回復させると、今度はアイテムでMPを回復させる。やっと落ち着いたとばかりにユーリが胸を撫で下ろすアクションをした。
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