サ終直前のネトゲで推しに急接近されましたが、現実の自分がクソダサ陰キャのため最後の思い出だけ作って逃げようと思います

二一

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4月26日 最後の探索がはじまる

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『やっぱ、ふたりじゃ限界かな』
 金紋章4人でクリアできるイベントだとすると、無謀としかいいようがない。そう笑ったカナタに、ユーリが無言でどこかを指差した。
『カナタ、あそこ部屋になってへん?』
 暗闇に目を凝らすと、確かに扉のようなものが見えている。
『けど、さすがにヤバいよ』
 もし、扉を開けることでなんらかのイベントが発動してしまえば、ふたりだけの状態でクリアできる可能性は低い。
『そやなぁ……けど』
 気になる。悔しそうなユーリがまたかわいくて、止めようと言いづらくなってしまった。
『ヤバかったら、秒で発光虫使うよ?』
『うん! カナタさんきゅ! 好き!』
 大げさに喜ぶアクションと一緒に、大きな身体がまた抱きついてきた。ゲームじゃなかったら多分心臓麻痺を起こしている。
 なんとか、自分を宥めながら、扉を開けるユーリのうしろで戦闘の構えをとった。
『あれ?』
『え?』
 一気に視界が明るくなって、おそるおそる中に入ったふたりで顔を見合わせた。
『セーブポイントや』
『移動用の泉もある』
『あと、あれ……』
 小手が持ち上がり、広い部屋の奥を指している。そこには、のれんのようなカーテンの奥で、もうもうと湯気がたっていて――。
『どう見ても、風呂やんな?』
『う、うん。なんか、このゲームのテイストと違う気もするけど』
『温泉っちゅうか、銭湯?』
 首を傾げたユーリが滾々と湧き立つ風呂らしき場所へと近寄った。
『カナタ、これ回復やで!』
 こっち来て。ユーリの手招きにのって、お湯らしきものに手を入れた。すると、宿屋のベッドで横になったときとよく似た振動がコントローラーに届く。
『浸かったらもっと回復するんとちゃう?』
 これまでも、回復効果のある泉などは存在した。だけど、こんな現実的な風呂はARK LEGENDの世界観とはかけ離れている。
『なんか、風呂もなんだけど、この部屋自体……現実っぽいっていうか』
 例えば、壁に付けられたソファはシンプルで、貴族の屋敷などにある豪華な装飾のものとは全く違う。むしろ一般家庭のリビングによくあるようなソファに見える。
 風呂から離れて、隣接した部屋を覗く。
『確かに……机の上のあれパソコンっぽいし、あっちはもしかしてストーブ?』
『うん。ストーブにヤカン……って、昔の日本って感じかも』
 とにかく探索してみようと、さらに奥へと続く扉を開ける。
『畳!』
『こたつ!』
 思わず顔を見合わせて、これはどういうことだろうと戸惑った。これはまさに、隠し部屋だ。
『まぁ、とりあえず安全みたいやし、俺ちょっと風呂入ってくる』
 アッサリと切り替えたユーリが、湯気の立つ風呂の脇に立つと、おもむろに装備を解除し始めた。
『ちょ、ちょっと! ユーリ!』
 重たい鎧が消えて、布の服が現れる。そうすると、ユーリのキャラメイクされた立派な肉体がリアルに見えてしまう。そう、さっきの鎧のすきまから覗いていたのとは比べものにならない面積……というか、裸だ。
 最初にアバターを作る際は、人形のような素体から開始する。つまり、衣服のない状態にすることが可能なわけで……。カンスト勢の全裸プレイなんてのも、動画サイトに上がっているが、が!!
 ユーリの半裸……!?
『脱がなくても入れるじゃん!』
 あたりまえのように布の上衣を解除したユーリが、振り返る。
『そこは、雰囲気ってやつやん』
『わぁぁああ!』
 完全な裸体になったユーリが堂々たる仁王立ちをしている。あれは、作られたキャラクターで現実の裸体じゃない。分かっているのに、見てはいけないような気分になってしまう。
『カナタも入る?』
 にこやかに手招きするユーリから、必死でカナタの顔を背けさせる。視界を部屋の壁にしたところで、やっぱりユーリが気になって少しだけ顔を戻した。
 ユーリの肉体には、大小いくつもの傷痕が付けられている。そこまで濃くはないが、胸元の体毛も髪と同じ淡い金髪で……。視線がついつい下に移動してしまう。深く割れた腹筋から、引き締まった下腹部、その下の股間部分だけは不自然につるんとぼかされている。
 当然ではある。キャラクターは女性も設定できわけだし、局部をリアルにするなら成人指定ゲームになってしまう。
 ホッとしたような残念なような気分で、ユーリの太股へと視線を落とした。隙間なく張った筋肉がかっこいい。筋がはっきりと浮き出して、そのラインは惚れ惚れするくらいキレイだ。
 翼の好みは筋肉質で大柄な男だ。だけど、自分がそうなりたいとは思わない。ガッチリとした男にぎゅっと抱き締められたい願望を持っている。もちろん、そんな願望が現実になるはずもなく、だからこそゲーム内でのユーリとの交流が癒やしなのだ。
 そう、これはゲームだ。カナタのキャラメイクだって、翼の自分がなりたい理想の身体を細かく作り上げた。恥ずかしがる必要なんかないし、恥ずかしがるほうが不自然というものだ。
 一生懸命自分に言い聞かせ、カナタは気持ちよさそうに風呂に浸かるユーリのほうへと近づいた。緊張しすぎて呼吸を忘れてしまいそうだ。
 コントローラーを操作して装備を外していく。男性アイドルのような細身でかつ、均一に筋肉がついた身体が現れる。こんな身体だったらなと常々思ってはいるが、実際の翼はというと、細身というよりガリガリで、脂肪はないが筋肉もない。運動は苦手を通り越して嫌いだし、ときおり思い立ってはじめる筋トレすら三日坊主までも続かない。
 これはただの移動だと言い聞かせながら湯に入り、ユーリから少し離れた位置でしゃがみ込んだ。コントローラーへの振動が、パラメーターが全回復したことを伝えてくる。
『風呂で回復とか、日本人って感じやなぁ』
『けど、アーレジェって考えたら、日本っぽい感じは変っていうか……』
 推しと一緒に風呂に入って会話をしているなんて! これはもはや、恋人妄想してもいいのではなかろうか。その前に、いい角度でスクショを撮っておこう。斜めアングルで撮れば、並んで風呂に入っているように映せる。
 装備がなければ背景もあいまって、現実世界に見えなくもない。そう、恋人同士が旅行に行って、大浴場にふたりきりになって――。
 人もいないしって、ちょっとイチャイチャできたり……。ありえない妄想に鼻の下が伸びてしまう。
『ここって、多分やけどメインイベントとは違う、なんちゅうかな、番外編みたいなもんなんちゃう? おまけってやつ』
 コッソリと何枚ものスクリーンショットを撮っているところ、自然とユーリに話かけられ焦った。
『……あ、うん! そうだね。開発者の隠れ家作ったみたいな感じ?』
『そうそう! お遊び。知らんけど』
 断言しつつ堂々と曖昧に言い切る。これはあれだ。有名な関西人の言い回し。
 知らんのかい。なんてツッコむところだと気づきつつも、完全にタイミングを逸してしまった。
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