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4月27日 隠しイベント発生?
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「うわ……ひどい顔」
カーテンの隙間から強い朝日が差し込んでいる。洗面所で歯磨きをするほぼ完徹明けの顔は、酷いものだった。高揚した気分とは真逆の、疲れ果てた陰キャダサ男――。
「これが現実だもんな……」
理想から現実に引き戻されるこの瞬間が大嫌いだ。10代のころはゲームの世界に行ったまま、戻ってこられなくなる妄想をなんども繰り返した。クソダサい自分を見続けるのが苦痛になってメガネを外す。途端にぼんやりとした視界に不安を感じた。
「なんか、目冴えた……」
もう少し寝ようとベッドに潜り込んだものの、疲れているはずの身体と逆に、興奮した脳のせいか一向に眠れなかった。枕元に放置していた携帯端末で、SNSをぼんやり眺める。翼の視界で、いくつものつぶやきが流れていった。
「やっぱ、みんなログインしてるんだよな……あ、公式だ」
お知らせの文字をタップして、公式のサイトへと移動する。
「へぇ、N1くじあるんだ。12日発売って、サ終のあとじゃん」
景品のラインナップはなかなか豪華で、何回引こうかなんて考え出してしまう。
「シークレット……なんだろ、これ。今さら隠しても意味ないんじゃね?」
サ終後のくじだというのに、真っ黒なシルエットが意味深だ。
「あ、眠くなってきた……」
ギリギリで端末を充電器に載せると、次の瞬間、翼は意識を手放していた。
夢の中で、またコンビニのレジにアレックスが並んでいる。近づきたくないのに、なぜか夢の中の翼は、そのうしろに並ぼうとする。SNSを見たせいか、レジのうしろにはN1くじのポスターが掲示されていた。
――1回お願いします。
うそだろ。アレックスがARK LEGENDのくじ引くとか。F賞のクリアファイルを選んだアレックスが振り向いた。
――翼は何回やる?
は? え? 翼?
なんでこんな親しげに話かけられたんだ?
真っ白になったところに、口が勝手に動いた。
――え、やるわけないじゃん。
「だから! なんでだよ!?」
汗だくで飛び起きた翼の目に、部屋の不自然な空間が飛び込んだ。どうやらベッドから落ちかけていたらしい。
「やっべ……」
ロフトベッドから落ちたらシャレにならない。翼は、冷や汗の身体をなんとかベッドに戻した。
「しかも、またあの夢。寝た気しねぇ……」
ぶつぶつ文句を言いながらベッドを下りると、窓の外はすでに真っ暗だった。
「何時……? うわ、5時って……」
もうユーリはログインしただろうか。ぼんやりしたままの頭を軽く振りつつメガネをかけ、シャワーを浴びるためのっそりと動き出した。
雑なシャワーを済ませ着替えたところで、干しっぱなしだった洗濯物を思い出す。どこかしっとりした衣服を取り込むと、ベッドの上に積み上げた。麦茶を一気に飲んで、冷凍庫を覗き込む。冷凍の麻婆豆腐を取り出し、パックのご飯と温める。食べ物にはあまりこだわりがない。レトルトの春雨スープを作って、パソコンデスクに移動した。
狭いワンルームにデスクトップタイプのパソコンを置く都合上、ゲームも食事も同じ机だ。掻き込むように食事を済ませると、翼は少し考えてからエナジードリンクを一気に飲んだ。
「なんか、余計なこと言った気もするけど別にいいか……どうせリアルで会うこともないし」
浮き沈みの大きい心情が上を向いたタイミングで、VRヘッドセットを装着した。途端に世界が切り替わる。
『あ、カナタや!』
酒場のテーブルではユーリとウワバミが大きなジョッキを傾けている。横には奇妙な動きをする自動行動のミキニャがいた。
『遅くなってごめん。爆睡してた』
『俺も今きたとこやから一緒』
会話をしながらメニュー画面を確認する。昨日、ユーリが書き込んだメッセージにミキニャからの返信があった。さらに追加でN1くじの情報URLが張りつけられている。
『ミキニャの休み2日だけなんだ。結構先だね』
『ということは、儂もそこまでは例の水路に入れんということじゃな』
つまり、しばらくはユーリとふたり、水路のマップ作りをすることになりそうだ。
『俺も、1日が仕事なんよなぁ。リモート会議やから終わるまでログインできへん』
『さすがにひとりであの水路はキツいから、1日は俺も休養日みたいにしようかな』
『儂も急に孫が来るらしいから、昼間はログインできそうにない』
『『孫!?』』
思わず声をそろえたふたりに、ウワバミが意地の悪い笑いで応える。
『定年退職してゲーム熱が再燃したクチじゃよ』
毎日毎日ヒマでな。そう高らかにウワバミが笑った。
翼の職場は定年退職というと65歳だ。ウワバミと出会った2年前、ウワバミはすでに金紋章だった。下手すると70歳を超えているのでは?
驚きに呆然としつつ、現実では絶対に接点がなさそうな人と交流していた事実が感慨深い。それはユーリも同じ気持ちだったようで、こちらはカナタと違ってそれを言葉にする。
『こういうん、オンラインの醍醐味やなぁ』
『ボケ防止にもちょうどいい。さてと、ほしたら一応スケジュールでも決めるかの』
あからさまなじじい口調はさすがにわざとだろうが、いつもどおりの老人がいつもより深みを増したように感じた。
『ミキニャのログインにまず合わせるから、2日はできたら全員でログインしたいとこだね。俺はゴールデンウイーク中は有休使って繋げてるのでいつでも大丈夫』
『俺も1日以外はオールオッケーやで』
『なんとしてでも参上するぞ。とにかく金紋章を4つ集めんと始まらんしの』
その代わり連続ログインは難しいかもしれない。残念そうなウワバミを慰め、それ以外の探索は任せてくれと請け負った。
『まずは揃わないと、先が予測できないし。幸い、俺とユーリでもなんとか倒せてるから、揃ったあとはミキニャとウワバミさんが自動行動で同行してくれたら余裕だと思う』
そのためには、やはり一度友好度をマックスにしなければならず、それが可能なのが5日も先だ。
『ほな、それまでに俺とカナタでできる限りのマップを完成させとくわ』
今の段階では地下に下りられるのはふたりだけなのだ。そして、地下はほかのプレイヤーもいない、実質のふたりきりで――。
タイムロスを悔しがるメンバーに同調している振りで、翼は願ったりかなったりな状況に心が躍った。
『儂は今の段階ではなにもできんし、前倒しで孫サービスじゃ。必ず2日は来るからの! もちろん最後の伝説は一緒に見るぞ!』
2日に酒場集合。そう誓い合って、ウワバミがログアウトした。
カーテンの隙間から強い朝日が差し込んでいる。洗面所で歯磨きをするほぼ完徹明けの顔は、酷いものだった。高揚した気分とは真逆の、疲れ果てた陰キャダサ男――。
「これが現実だもんな……」
理想から現実に引き戻されるこの瞬間が大嫌いだ。10代のころはゲームの世界に行ったまま、戻ってこられなくなる妄想をなんども繰り返した。クソダサい自分を見続けるのが苦痛になってメガネを外す。途端にぼんやりとした視界に不安を感じた。
「なんか、目冴えた……」
もう少し寝ようとベッドに潜り込んだものの、疲れているはずの身体と逆に、興奮した脳のせいか一向に眠れなかった。枕元に放置していた携帯端末で、SNSをぼんやり眺める。翼の視界で、いくつものつぶやきが流れていった。
「やっぱ、みんなログインしてるんだよな……あ、公式だ」
お知らせの文字をタップして、公式のサイトへと移動する。
「へぇ、N1くじあるんだ。12日発売って、サ終のあとじゃん」
景品のラインナップはなかなか豪華で、何回引こうかなんて考え出してしまう。
「シークレット……なんだろ、これ。今さら隠しても意味ないんじゃね?」
サ終後のくじだというのに、真っ黒なシルエットが意味深だ。
「あ、眠くなってきた……」
ギリギリで端末を充電器に載せると、次の瞬間、翼は意識を手放していた。
夢の中で、またコンビニのレジにアレックスが並んでいる。近づきたくないのに、なぜか夢の中の翼は、そのうしろに並ぼうとする。SNSを見たせいか、レジのうしろにはN1くじのポスターが掲示されていた。
――1回お願いします。
うそだろ。アレックスがARK LEGENDのくじ引くとか。F賞のクリアファイルを選んだアレックスが振り向いた。
――翼は何回やる?
は? え? 翼?
なんでこんな親しげに話かけられたんだ?
真っ白になったところに、口が勝手に動いた。
――え、やるわけないじゃん。
「だから! なんでだよ!?」
汗だくで飛び起きた翼の目に、部屋の不自然な空間が飛び込んだ。どうやらベッドから落ちかけていたらしい。
「やっべ……」
ロフトベッドから落ちたらシャレにならない。翼は、冷や汗の身体をなんとかベッドに戻した。
「しかも、またあの夢。寝た気しねぇ……」
ぶつぶつ文句を言いながらベッドを下りると、窓の外はすでに真っ暗だった。
「何時……? うわ、5時って……」
もうユーリはログインしただろうか。ぼんやりしたままの頭を軽く振りつつメガネをかけ、シャワーを浴びるためのっそりと動き出した。
雑なシャワーを済ませ着替えたところで、干しっぱなしだった洗濯物を思い出す。どこかしっとりした衣服を取り込むと、ベッドの上に積み上げた。麦茶を一気に飲んで、冷凍庫を覗き込む。冷凍の麻婆豆腐を取り出し、パックのご飯と温める。食べ物にはあまりこだわりがない。レトルトの春雨スープを作って、パソコンデスクに移動した。
狭いワンルームにデスクトップタイプのパソコンを置く都合上、ゲームも食事も同じ机だ。掻き込むように食事を済ませると、翼は少し考えてからエナジードリンクを一気に飲んだ。
「なんか、余計なこと言った気もするけど別にいいか……どうせリアルで会うこともないし」
浮き沈みの大きい心情が上を向いたタイミングで、VRヘッドセットを装着した。途端に世界が切り替わる。
『あ、カナタや!』
酒場のテーブルではユーリとウワバミが大きなジョッキを傾けている。横には奇妙な動きをする自動行動のミキニャがいた。
『遅くなってごめん。爆睡してた』
『俺も今きたとこやから一緒』
会話をしながらメニュー画面を確認する。昨日、ユーリが書き込んだメッセージにミキニャからの返信があった。さらに追加でN1くじの情報URLが張りつけられている。
『ミキニャの休み2日だけなんだ。結構先だね』
『ということは、儂もそこまでは例の水路に入れんということじゃな』
つまり、しばらくはユーリとふたり、水路のマップ作りをすることになりそうだ。
『俺も、1日が仕事なんよなぁ。リモート会議やから終わるまでログインできへん』
『さすがにひとりであの水路はキツいから、1日は俺も休養日みたいにしようかな』
『儂も急に孫が来るらしいから、昼間はログインできそうにない』
『『孫!?』』
思わず声をそろえたふたりに、ウワバミが意地の悪い笑いで応える。
『定年退職してゲーム熱が再燃したクチじゃよ』
毎日毎日ヒマでな。そう高らかにウワバミが笑った。
翼の職場は定年退職というと65歳だ。ウワバミと出会った2年前、ウワバミはすでに金紋章だった。下手すると70歳を超えているのでは?
驚きに呆然としつつ、現実では絶対に接点がなさそうな人と交流していた事実が感慨深い。それはユーリも同じ気持ちだったようで、こちらはカナタと違ってそれを言葉にする。
『こういうん、オンラインの醍醐味やなぁ』
『ボケ防止にもちょうどいい。さてと、ほしたら一応スケジュールでも決めるかの』
あからさまなじじい口調はさすがにわざとだろうが、いつもどおりの老人がいつもより深みを増したように感じた。
『ミキニャのログインにまず合わせるから、2日はできたら全員でログインしたいとこだね。俺はゴールデンウイーク中は有休使って繋げてるのでいつでも大丈夫』
『俺も1日以外はオールオッケーやで』
『なんとしてでも参上するぞ。とにかく金紋章を4つ集めんと始まらんしの』
その代わり連続ログインは難しいかもしれない。残念そうなウワバミを慰め、それ以外の探索は任せてくれと請け負った。
『まずは揃わないと、先が予測できないし。幸い、俺とユーリでもなんとか倒せてるから、揃ったあとはミキニャとウワバミさんが自動行動で同行してくれたら余裕だと思う』
そのためには、やはり一度友好度をマックスにしなければならず、それが可能なのが5日も先だ。
『ほな、それまでに俺とカナタでできる限りのマップを完成させとくわ』
今の段階では地下に下りられるのはふたりだけなのだ。そして、地下はほかのプレイヤーもいない、実質のふたりきりで――。
タイムロスを悔しがるメンバーに同調している振りで、翼は願ったりかなったりな状況に心が躍った。
『儂は今の段階ではなにもできんし、前倒しで孫サービスじゃ。必ず2日は来るからの! もちろん最後の伝説は一緒に見るぞ!』
2日に酒場集合。そう誓い合って、ウワバミがログアウトした。
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