サ終直前のネトゲで推しに急接近されましたが、現実の自分がクソダサ陰キャのため最後の思い出だけ作って逃げようと思います

二一

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4月27日 隠しイベント発生?

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『行こか』
 ユーリが立ち上がるのに、カナタも倣った。今日から少なくとも4日間はユーリとふたりきりなのだ。
『あ、俺ちょっとバルトライン鉱山の道具屋まで行ってくる』
『発光虫?』
『アタリ。探索するし多めに持っておきたい』
 しばらく2人パーティというハンデで探索をするなら、準備しておくにこしたことはない。ゲームオーバーになった場合が想定できない以上、余計なリスクは抱えないほうがいいだろう。
『俺も行くわ。ひとりで水路はさすがに自殺行為やし』
 笑い合って、ひとまず行き先がハーミット城に決まる。移動の泉は各地にあって、一度訪れれば泉同士を自由に行き来することができる。
『徒歩と汽車で行きたいとこやなぁ』
 城内を進みながらユーリがつぶやく。
『ホントだね。けど時間がなぁ……でも、炭鉱トロッコには乗れるじゃん』
 泉へと同時に足を踏み入れると、周囲がまぶしいほどに光り出す。まぶしさに目を閉じれば、次の瞬間には別の場所に到着しているのだ。
 そこは、ごつごつとした岩肌が剥き出しの洞窟だ。洞窟はすぐに外へ繋がっていて、山の中腹から荒れた大地が目の前に広がった。山裾から吹き上がる風が、カナタたちの髪を服をはためかせる。
『やっぱりグラフィックがいいよなぁ。最近のゲームももちろんキレイなんだけど、こっちのほうが温かみがあるっていうか……』
 バルトライン鉱山は翼がゲームをはじめたころすでに実装されていたから、少なくとも10年以上前の技術だ。
『なんか分かる。グラフィックはアンスターチェ山脈が人気やけど、バルトライン鉱山もやし、エルミナ海峡のヨキ島も好き』
『夜明けの灯台!』
『そう! 最高やんなぁ!』
 盛り上がりながら足場の悪い鉱山の道を進んでいく。この先には鉱山を走るトロッコの発着場があるのだ。
『……思い出すわー……』
 現実なら怖くて絶対乗らないような簡易トロッコを前に、ユーリの声が沈む。
『分かる……ちなみに、ユーリは何回リトライした?』
 ここでは光る石の伝説が回収できた。ただ、その坑道に行くためのトロッコは、魔物の襲撃によって時間内に通過できなければ落下するという、タイムトライアルイベントだったのだ。
『何回? 覚えとらん……最後のほう目ぇ血走っとったもん。カナタは?』
『俺は3日かかった。学校から帰って、夜中までずっとやってた。早くメシ食えとか怒られながらさ』
 そう、しかも中学3年の受験期だった。ここをクリアしたら受験勉強するからと、親と大げんかしながらやっていた。どうしても途中で止めたくなかったのだ。
『難易度高くても、続けてたら最後はクリアできるんだよなぁ』
 その塩梅がこのゲームのすごいところだと思う。だからこそ、次のストーリーもそのまた次のストーリーも止められないのだ。
 しょぼいトロッコに乗り込むと、大きな揺れと同時にトロッコがゆっくりと動き出す。もう魔物が襲ってくることはない。ただ、渓谷の荒々しい景色が夕焼け色の中をゆっくりと動いていった。
 この景色ももう見られなくなるのだ。
『サ終しても、残して欲しいよな……』
『サーバーが限界やから』
『え、そうなんだ?』
 情報はくまなくキャッチしているはずなのに、そんな話がどこかに載っていただろうか。思わずユーリを見上げた。
『……ホンマかどうかは分からんけど、そういう噂あったで。けど、tsukiさんやったら、可能な限り残そうとしてくれるような気ぃするから……』
『だよな。tsukiさんってすごいよな。かっこいいし』
 インタビュー記事などの写真を思い出して、ほんわかしてしまう。30年になるヒットを生み出してなお、止まることなく進むバイタリティは、翼にはまぶしいばかりだ。
『スゴい人なんは100パー同意やけど……かっこええか?』
『かっこいいじゃん。おっきくて、熊みたいで』
 そう、包容力を全身で体現しているような男性なのだ。不審さを隠さないユーリに、つい反論を力説してしまった。
『カナタの感覚って変わっとるな』
『かもね。自分が貧相だからどうしても、体格のいい人に憧れるのかも』
 懐かしいキレイな景色の中の雑談だと、ついつい警戒が緩んでしまった。翼自身の情報は出さないようにずっと注意を払っていたのに。
 まぁ、でもいいか。どうせ現実で会うことなんかないんだし、この世界だってあと少しで消えてしまう。なにもかも消えてしまうのだ。
 ふたたび大きな振動でトロッコが止まった。坑道の中をショートカットすることはできないため、一応の戦闘態勢を取って奥へと進む。終点には炭鉱の町があって、たくさんのNPCの住人が生活をしていた。
 ワイヤーを使った大型機械、威勢のいい炭鉱夫たち。だけど、この住人たちの多くは、この町から出ることなく一生を終える設定だ。そして、それはゲームがなかった場合の、翼自身の生き方に重なる。
 能力がなければどこにも行けない。なにもできない。
 さらには、積極性、コミュニケーション、運……どれも翼にはないものだ。
『発光虫を10個』
『はいよ、まいどあり』
 同じことしかしゃべらない店主から発光虫を受け取り、荷物へ収納する。虫かごのようなアイテムなのに、別に重たくもならない。これが感覚的VRになれば、なにか変わるのだろうか。
『俺も、念のため3個。あと、木彫りのブタ5個』
 ユーリも同じようにアイテムを収納し、道具屋の外に出る。
『なんで、ブタ?』
 それは、この炭鉱の町にしか売っていないアイテムだが、ただのジョークアイテムで、使うと大きな木製のブタがしばらく移動に使えるというだけの効果しかない。しかも、敵と遭遇すると即座にその効果は切れてしまう。
『なんか、味のある見た目しとるやん? 定期的に見となんねん』
『ユーリの感覚も変わってるよ、それは』
 思わずさっきの仕返しのようにツッコんでしまう。ユーリがわざとらしくそんなことはないと言い張って、音声に笑い声が響いた。
 
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