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5月6日 再会と戻れない旅
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『そろそろ行こうよ。せっかくだから、もっといろんな場所を回りたい』
立ち上がると、少しだけ迷ってユーリに手を差し出した。さぁ、行こう。そんな思いを込めて、カナタは自分勝手なリアクションをしている。
感覚のないユーリの手が、ぎごちなく触れるのをすかさず握った。それは硬いけど弾力があって、本当に生身が存在するみたいだ。
『ユーリって結構体温高いんだね』
握った手のひらから伝わる熱は、汗ばむほどに熱い。
『そんなんも分かるんや』
『不思議だよね』
『俺には、カナタの体温が分からへんから悔しい』
『どうかな、結構平熱は低いけど』
『知りたい』
真剣な声にドキリとして、ごまかすようにユーリの手を引っ張った。数メートルほど進んだところで、慌てたユーリが自分のうしろへ誘導する。危ないから。そんな言葉がくすぐったかった。
『う、わぁ……』
ユーリに守られながら山頂に着くころには、カナタのレベルも少し上がったようで、回復サポートくらいはできるようになっていた。
なんども見た景色なのに、周囲に自分たち以外が存在しない状況なんかはじめてで、その静かな美しさに感嘆の声が止まらない。
頬をぬける風の冷たさが心地良い。額にあたる前髪が邪魔で、あたりまえに髪を掻き上げる。両手を大きく広げ、その空気を全身に吸い込んだ。
『ちょっと肌寒いね』
『そうなんや。じゃあこれ』
ユーリが自分のマントを外してカナタにかける。
『いや、いい! ユーリが寒いし、だいじょぶ……っ』
この感覚が作られたものなのか、カナタの錯覚なのか自信がない。だけど、なんとなくユーリの肌で温められたようなぬくもりを感じてしまったし、なぜか自分のものとは違う匂いがするような気がしたのだ。
『俺は寒ないからえぇよ。けど、こういう細かいアクションができるのはえぇなぁ』
今までなら、自分の着ているものを相手に渡すなんてアクションはできなかった。手を繋ぐことだって、意識しなければすぐに外れてしまうようなものだった。
『日没や……』
真っ直ぐ前を向いたユーリが、そっとカナタの手を握る。それが、あまりに自然で、カナタは焦ることもできず、ただ沈む夕日を見つめた。
『なぁ、カナタの住んでるとこを教えてくれへん? カナタの現実の身体のほうが心配やねん。救急隊の手配してもらいたいから』
キレイな景色の中で、現実の話なんかしないでほしい。そんな自分勝手が湧き上がって、その情けなさに落ち込んだ。だけど、当然といえば当然だ。昨日の午後、ログインしてからもう24時間以上経っている。
『夜になったね。山脈の村、ここから近かったし移動しようか』
ユーリの手を離し、先に歩き出す。
『カナタ!』
非難を含んだユーリの声に申し訳なくなった。
『俺はやっぱり現実とこっちを繋げたくない。tsukiさんががんばってくれてるって言ってたじゃん。きっともうあとちょっとだよ。だから……』
このままでいさせてほしい。
ユーリが戻れないなら大変だけど、このまま戻れない可能性があるのはカナタだけだ。それなら、最後までユーリとただ過ごすほうがいい。
『嫌になったらユーリはアッチに戻ってくれていいから』
理由がわかった今なら、ひとりで静かに過ごすのだってきっと悪くない。
『俺、カナタのままでいたい』
翼の存在なんか知ってほしくない。知られたらもう今までみたいには笑えない。
ユーリが好きになってくれたカナタのままで、最後まで存在し続けたい。
『……わかった。けど、俺は戻らへんから。カナタが無事に戻れるまで一緒におる』
ユーリの手がカナタの手を強く握る。そのまま、カナタを追い越して山道を下り始めた。遮るもののない空には、たくさんの星が輝いている。
山脈の村はひっそりと沈んでいて、夜のNPCが珍しい旅人に驚いた声をかけてくる。その村人にユーリが宿屋の場所を尋ねた。普通ならNPCのセリフは決まっていて、こちらからのアクションに応対できるものじゃない。
それなのに、村人は身体の向きを変えると、村の奥を指差した。あちらですよ。そんな返答にカナタは驚いてユーリを見上げた。
『新しいアーレジェのテーマは交流やねん。槻間さんのも瀬古さんのも、そこだけは変わらへん』
それだってやっぱりプログラムされたものではある。それでも、よりリアルな世界がここに広がるのだ。
――狭いですが、ごゆっくり。
宿屋の主人に案内されて、小さな宿屋の2階へと上がる。案内の通り部屋は狭くて、小さな寝台が1台あるだけだった。
立ち上がると、少しだけ迷ってユーリに手を差し出した。さぁ、行こう。そんな思いを込めて、カナタは自分勝手なリアクションをしている。
感覚のないユーリの手が、ぎごちなく触れるのをすかさず握った。それは硬いけど弾力があって、本当に生身が存在するみたいだ。
『ユーリって結構体温高いんだね』
握った手のひらから伝わる熱は、汗ばむほどに熱い。
『そんなんも分かるんや』
『不思議だよね』
『俺には、カナタの体温が分からへんから悔しい』
『どうかな、結構平熱は低いけど』
『知りたい』
真剣な声にドキリとして、ごまかすようにユーリの手を引っ張った。数メートルほど進んだところで、慌てたユーリが自分のうしろへ誘導する。危ないから。そんな言葉がくすぐったかった。
『う、わぁ……』
ユーリに守られながら山頂に着くころには、カナタのレベルも少し上がったようで、回復サポートくらいはできるようになっていた。
なんども見た景色なのに、周囲に自分たち以外が存在しない状況なんかはじめてで、その静かな美しさに感嘆の声が止まらない。
頬をぬける風の冷たさが心地良い。額にあたる前髪が邪魔で、あたりまえに髪を掻き上げる。両手を大きく広げ、その空気を全身に吸い込んだ。
『ちょっと肌寒いね』
『そうなんや。じゃあこれ』
ユーリが自分のマントを外してカナタにかける。
『いや、いい! ユーリが寒いし、だいじょぶ……っ』
この感覚が作られたものなのか、カナタの錯覚なのか自信がない。だけど、なんとなくユーリの肌で温められたようなぬくもりを感じてしまったし、なぜか自分のものとは違う匂いがするような気がしたのだ。
『俺は寒ないからえぇよ。けど、こういう細かいアクションができるのはえぇなぁ』
今までなら、自分の着ているものを相手に渡すなんてアクションはできなかった。手を繋ぐことだって、意識しなければすぐに外れてしまうようなものだった。
『日没や……』
真っ直ぐ前を向いたユーリが、そっとカナタの手を握る。それが、あまりに自然で、カナタは焦ることもできず、ただ沈む夕日を見つめた。
『なぁ、カナタの住んでるとこを教えてくれへん? カナタの現実の身体のほうが心配やねん。救急隊の手配してもらいたいから』
キレイな景色の中で、現実の話なんかしないでほしい。そんな自分勝手が湧き上がって、その情けなさに落ち込んだ。だけど、当然といえば当然だ。昨日の午後、ログインしてからもう24時間以上経っている。
『夜になったね。山脈の村、ここから近かったし移動しようか』
ユーリの手を離し、先に歩き出す。
『カナタ!』
非難を含んだユーリの声に申し訳なくなった。
『俺はやっぱり現実とこっちを繋げたくない。tsukiさんががんばってくれてるって言ってたじゃん。きっともうあとちょっとだよ。だから……』
このままでいさせてほしい。
ユーリが戻れないなら大変だけど、このまま戻れない可能性があるのはカナタだけだ。それなら、最後までユーリとただ過ごすほうがいい。
『嫌になったらユーリはアッチに戻ってくれていいから』
理由がわかった今なら、ひとりで静かに過ごすのだってきっと悪くない。
『俺、カナタのままでいたい』
翼の存在なんか知ってほしくない。知られたらもう今までみたいには笑えない。
ユーリが好きになってくれたカナタのままで、最後まで存在し続けたい。
『……わかった。けど、俺は戻らへんから。カナタが無事に戻れるまで一緒におる』
ユーリの手がカナタの手を強く握る。そのまま、カナタを追い越して山道を下り始めた。遮るもののない空には、たくさんの星が輝いている。
山脈の村はひっそりと沈んでいて、夜のNPCが珍しい旅人に驚いた声をかけてくる。その村人にユーリが宿屋の場所を尋ねた。普通ならNPCのセリフは決まっていて、こちらからのアクションに応対できるものじゃない。
それなのに、村人は身体の向きを変えると、村の奥を指差した。あちらですよ。そんな返答にカナタは驚いてユーリを見上げた。
『新しいアーレジェのテーマは交流やねん。槻間さんのも瀬古さんのも、そこだけは変わらへん』
それだってやっぱりプログラムされたものではある。それでも、よりリアルな世界がここに広がるのだ。
――狭いですが、ごゆっくり。
宿屋の主人に案内されて、小さな宿屋の2階へと上がる。案内の通り部屋は狭くて、小さな寝台が1台あるだけだった。
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