サ終直前のネトゲで推しに急接近されましたが、現実の自分がクソダサ陰キャのため最後の思い出だけ作って逃げようと思います

二一

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5月6日 再会と戻れない旅

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『カナタ、そっち使って』
『え、悪いよ。俺のほうが小さいし、ソファのほうで大丈夫』
『あかん。カナタは脳に休んでるって信じさせなアカンから。それでちょっとでも休息せな』
 ユーリの意見はいちいち真っ当で、カナタに反論の余地はない。それでも、自分だけが優遇されてるような状況を受け入れるのは嫌だった。
『だったら一緒に使おう。ユーリは感覚がないんやったら、そのまま現実のベッドに横になれるし。それなら』
 そして、自分だけは作られた感覚でもユーリの温もりを感じられるという下心がなかったとはいえない。
 案の定、ユーリが戸惑ったようにカナタを見た。
『ごめん。変なこと言ったよな。気にしないで』
 そして、ヤバいと感じたらすぐに撤回する。ずるいカナタは、発言を一瞬でなかったことにして、ソファのほうへと移動した。
『それでえぇよ』
 背中の声に振り返ると、ベッドに座ったユーリが両手を広げている。逆に困惑で動けなくなったカナタに、ユーリがニッコリと笑いかけた。
『カナタは、カナタのときになりたい自分を演じてるって言っとったから。ほんなら、これもカナタが望んでることなんやろ?』
 ユーリの言葉をゆっくり噛み砕いて途端に恥ずかしくなった。ユーリの言っていることは事実だ。カナタは、翼ができないことを行動に移せる媒体で、翼が声に出せないことを口にする。いつだって逃げられるから、大胆になれるし、傷つかないで済む。その場限りだというデメリットと引き換えに。
『あ……うん……』
 顔が熱い。これは、どっちの自分が感じている熱なのだろうか。
 装備を外したユーリが小さなベッドにゴロンと寝転んだ。自業自得に逃げられなくなったカナタは、その隣に恐る恐る横になる。
『カナタが落ちたらアカンから場所変わろう』
 ユーリなら落ちても痛くないから。真っ当な提案にやっぱり反論できず、壁際に移動したカナタは、また動けなくなった。
 小さなランプの明かりが消える。窓からは月明かりがほんのりと差し込んでいた。
『……俺たちの会話って外の人にも聞こえてる……?』
 現実とちがって、ARK LEGENDの世界の夜は静寂に満ちている。宿屋の暗がりに、カナタのささやき声がやけに大きく感じた。
『聞こえへんよ。俺の声は横に来た人には聞こえるやろうけど』
『え!? それって……!』
 ユーリは自分がゲイだと声に出していた。それが聞かれているのだとしたら……。焦って振り返ったところに、ユーリの顔がアップで映る。慌てて元の向きに身体を戻した。
『基本は部屋にひとりやけど、1時間ごとに健康チェックしに来るねん。まぁ、俺は別に何聞かれてもかまへんけど、そのときにはカナタのことはしゃべらんようにする』
 カナタが翼の居場所を告げたなら、それをユーリが現実世界の人に伝えて、すぐに対処されるということだ。そして、きっとまともな関係者ならそれを望んでいる。そうすれば、ユーリにも迷惑をかけなくて済む。
『……ごめん』
 わがままばかりで。消えそうなカナタの声に、ユーリは返事をしなかった。かわりに、温かな吐息が首元にかかる。
『カナタがここにおりたいって言ってくれてちょっとラッキーって思ってしもた。まだ一緒におれるんやって……』
 胸が苦しい。カナタだって同じだ。まだユーリといられる。
 背中が温かい。このまま現実に戻れなくたっていいとさえ思ってしまう。
『ほら、はよ寝らな、疲れがとれへんから』
『うん』
 それでも、緊張しすぎて眠れるはずもなく、カナタはユーリに背中を向けたまま真っ暗な壁を見つめ続けた。
 ユーリが寝返りを打つ。その大きな身体がカナタにのし掛かる。リアルな重みと体温に息が止まりそうになった。ユーリに感覚がなくてよかった。もしあったなら、激しく暴れる心臓に気づかれてしまっただろう。
 あったかい……人間ってこんなに温かいんだ。
 あたりまえのことを偽物の温もりで実感して、それでも目頭が熱くなった。
 抱き枕のように回されたユーリの腕をそっと抱き締め、カナタはいつのまにか眠りについていた。
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