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5月6日 再会と戻れない旅
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『カナタ、そっち使って』
『え、悪いよ。俺のほうが小さいし、ソファのほうで大丈夫』
『あかん。カナタは脳に休んでるって信じさせなアカンから。それでちょっとでも休息せな』
ユーリの意見はいちいち真っ当で、カナタに反論の余地はない。それでも、自分だけが優遇されてるような状況を受け入れるのは嫌だった。
『だったら一緒に使おう。ユーリは感覚がないんやったら、そのまま現実のベッドに横になれるし。それなら』
そして、自分だけは作られた感覚でもユーリの温もりを感じられるという下心がなかったとはいえない。
案の定、ユーリが戸惑ったようにカナタを見た。
『ごめん。変なこと言ったよな。気にしないで』
そして、ヤバいと感じたらすぐに撤回する。ずるいカナタは、発言を一瞬でなかったことにして、ソファのほうへと移動した。
『それでえぇよ』
背中の声に振り返ると、ベッドに座ったユーリが両手を広げている。逆に困惑で動けなくなったカナタに、ユーリがニッコリと笑いかけた。
『カナタは、カナタのときになりたい自分を演じてるって言っとったから。ほんなら、これもカナタが望んでることなんやろ?』
ユーリの言葉をゆっくり噛み砕いて途端に恥ずかしくなった。ユーリの言っていることは事実だ。カナタは、翼ができないことを行動に移せる媒体で、翼が声に出せないことを口にする。いつだって逃げられるから、大胆になれるし、傷つかないで済む。その場限りだというデメリットと引き換えに。
『あ……うん……』
顔が熱い。これは、どっちの自分が感じている熱なのだろうか。
装備を外したユーリが小さなベッドにゴロンと寝転んだ。自業自得に逃げられなくなったカナタは、その隣に恐る恐る横になる。
『カナタが落ちたらアカンから場所変わろう』
ユーリなら落ちても痛くないから。真っ当な提案にやっぱり反論できず、壁際に移動したカナタは、また動けなくなった。
小さなランプの明かりが消える。窓からは月明かりがほんのりと差し込んでいた。
『……俺たちの会話って外の人にも聞こえてる……?』
現実とちがって、ARK LEGENDの世界の夜は静寂に満ちている。宿屋の暗がりに、カナタのささやき声がやけに大きく感じた。
『聞こえへんよ。俺の声は横に来た人には聞こえるやろうけど』
『え!? それって……!』
ユーリは自分がゲイだと声に出していた。それが聞かれているのだとしたら……。焦って振り返ったところに、ユーリの顔がアップで映る。慌てて元の向きに身体を戻した。
『基本は部屋にひとりやけど、1時間ごとに健康チェックしに来るねん。まぁ、俺は別に何聞かれてもかまへんけど、そのときにはカナタのことはしゃべらんようにする』
カナタが翼の居場所を告げたなら、それをユーリが現実世界の人に伝えて、すぐに対処されるということだ。そして、きっとまともな関係者ならそれを望んでいる。そうすれば、ユーリにも迷惑をかけなくて済む。
『……ごめん』
わがままばかりで。消えそうなカナタの声に、ユーリは返事をしなかった。かわりに、温かな吐息が首元にかかる。
『カナタがここにおりたいって言ってくれてちょっとラッキーって思ってしもた。まだ一緒におれるんやって……』
胸が苦しい。カナタだって同じだ。まだユーリといられる。
背中が温かい。このまま現実に戻れなくたっていいとさえ思ってしまう。
『ほら、はよ寝らな、疲れがとれへんから』
『うん』
それでも、緊張しすぎて眠れるはずもなく、カナタはユーリに背中を向けたまま真っ暗な壁を見つめ続けた。
ユーリが寝返りを打つ。その大きな身体がカナタにのし掛かる。リアルな重みと体温に息が止まりそうになった。ユーリに感覚がなくてよかった。もしあったなら、激しく暴れる心臓に気づかれてしまっただろう。
あったかい……人間ってこんなに温かいんだ。
あたりまえのことを偽物の温もりで実感して、それでも目頭が熱くなった。
抱き枕のように回されたユーリの腕をそっと抱き締め、カナタはいつのまにか眠りについていた。
『え、悪いよ。俺のほうが小さいし、ソファのほうで大丈夫』
『あかん。カナタは脳に休んでるって信じさせなアカンから。それでちょっとでも休息せな』
ユーリの意見はいちいち真っ当で、カナタに反論の余地はない。それでも、自分だけが優遇されてるような状況を受け入れるのは嫌だった。
『だったら一緒に使おう。ユーリは感覚がないんやったら、そのまま現実のベッドに横になれるし。それなら』
そして、自分だけは作られた感覚でもユーリの温もりを感じられるという下心がなかったとはいえない。
案の定、ユーリが戸惑ったようにカナタを見た。
『ごめん。変なこと言ったよな。気にしないで』
そして、ヤバいと感じたらすぐに撤回する。ずるいカナタは、発言を一瞬でなかったことにして、ソファのほうへと移動した。
『それでえぇよ』
背中の声に振り返ると、ベッドに座ったユーリが両手を広げている。逆に困惑で動けなくなったカナタに、ユーリがニッコリと笑いかけた。
『カナタは、カナタのときになりたい自分を演じてるって言っとったから。ほんなら、これもカナタが望んでることなんやろ?』
ユーリの言葉をゆっくり噛み砕いて途端に恥ずかしくなった。ユーリの言っていることは事実だ。カナタは、翼ができないことを行動に移せる媒体で、翼が声に出せないことを口にする。いつだって逃げられるから、大胆になれるし、傷つかないで済む。その場限りだというデメリットと引き換えに。
『あ……うん……』
顔が熱い。これは、どっちの自分が感じている熱なのだろうか。
装備を外したユーリが小さなベッドにゴロンと寝転んだ。自業自得に逃げられなくなったカナタは、その隣に恐る恐る横になる。
『カナタが落ちたらアカンから場所変わろう』
ユーリなら落ちても痛くないから。真っ当な提案にやっぱり反論できず、壁際に移動したカナタは、また動けなくなった。
小さなランプの明かりが消える。窓からは月明かりがほんのりと差し込んでいた。
『……俺たちの会話って外の人にも聞こえてる……?』
現実とちがって、ARK LEGENDの世界の夜は静寂に満ちている。宿屋の暗がりに、カナタのささやき声がやけに大きく感じた。
『聞こえへんよ。俺の声は横に来た人には聞こえるやろうけど』
『え!? それって……!』
ユーリは自分がゲイだと声に出していた。それが聞かれているのだとしたら……。焦って振り返ったところに、ユーリの顔がアップで映る。慌てて元の向きに身体を戻した。
『基本は部屋にひとりやけど、1時間ごとに健康チェックしに来るねん。まぁ、俺は別に何聞かれてもかまへんけど、そのときにはカナタのことはしゃべらんようにする』
カナタが翼の居場所を告げたなら、それをユーリが現実世界の人に伝えて、すぐに対処されるということだ。そして、きっとまともな関係者ならそれを望んでいる。そうすれば、ユーリにも迷惑をかけなくて済む。
『……ごめん』
わがままばかりで。消えそうなカナタの声に、ユーリは返事をしなかった。かわりに、温かな吐息が首元にかかる。
『カナタがここにおりたいって言ってくれてちょっとラッキーって思ってしもた。まだ一緒におれるんやって……』
胸が苦しい。カナタだって同じだ。まだユーリといられる。
背中が温かい。このまま現実に戻れなくたっていいとさえ思ってしまう。
『ほら、はよ寝らな、疲れがとれへんから』
『うん』
それでも、緊張しすぎて眠れるはずもなく、カナタはユーリに背中を向けたまま真っ暗な壁を見つめ続けた。
ユーリが寝返りを打つ。その大きな身体がカナタにのし掛かる。リアルな重みと体温に息が止まりそうになった。ユーリに感覚がなくてよかった。もしあったなら、激しく暴れる心臓に気づかれてしまっただろう。
あったかい……人間ってこんなに温かいんだ。
あたりまえのことを偽物の温もりで実感して、それでも目頭が熱くなった。
抱き枕のように回されたユーリの腕をそっと抱き締め、カナタはいつのまにか眠りについていた。
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