サ終直前のネトゲで推しに急接近されましたが、現実の自分がクソダサ陰キャのため最後の思い出だけ作って逃げようと思います

二一

文字の大きさ
54 / 72
恋愛はかくも難しい

9

しおりを挟む
「は?」
 どういうことだとユーリに視線で問われ、気まずさに目を逸らした。翼の中のユーリは完璧な理想の男性で、それは間違っていない。ただ、それをどうコマに説明していいかは分からないし、説明しようとすると恥ずかしいことになりそうな気がする。
 だけど、そんな気遣いをしないのがコマだ。
「だって、カナタの話聞いてたら、超完璧イケメン王子だったもんな」
 ユーリの視線が翼を見つめ、翼は恨みを込めた目でコマを見た。コマが悪びれずに笑っている。
「絶対カナタが騙されてるって思ったもん。だって、簡単に騙されそうだし」
 そんなことはないと思う。だって、騙されるも何も、まず親しくなるまで関係が進まない。アーレジェだって、結局パーティメンバーとコマしか交流していない。
「だから、騙されてたら助けて、そのまま口説こうと思ってたわけ」
 さらりと笑いかけられ、なにを言われたのか理解できなくなった。
 そのまま――口説く?
 先に反応したのはユーリで、勢いよく立ち上がり、大きな目がさらに大きく見開かれている。
「だって、かわいいじゃん。ぜんっぜん慣れてないとことか、別にツラも悪かないのに自己肯定感低すぎるのとか……むちゃくちゃ甘やかして真っ赤にさせたくなる」
 こ、これは、誰のことを言っているのだろう。かわいい? 誰が?
「かわいいのは全力で同意する!」
 立ち上がったまま悔しそうに拳を握ったユーリに、コマが「だろう?」とばかりにふんぞり返っている。当事者のはずなのに、翼にはなにが起きているのかまだ飲み込めない。
「そやけど、翼は俺と付き合っとるんやからな!」
「まぁ、それはそうだけど……」
 意味ありげな視線が翼を見つめ、その真意に気づいてしまう。
 ――そんなので、付き合ってるって言えるのか?
 まともにしゃべれなくて、会うことさえ必死で、それで付き合っているなんて言えるのか?
「ご、ごめん……」
 本当にどうして付き合うなんてことになったんだろう。居たたまれなくなって小さくなった翼に、近づいたユーリがしゃがみ込んだ。
「謝るとこちゃうよ?」
 優しい声が俯いた翼に掛けられる。
「俺のこと、もう好きちゃう?」
 ユーリの言葉に、俯いたままブンブンと頭を左右に振る。ユーリのことを嫌いになったりしない。ただ、釣り合わない自分が嫌なだけで――。
「それやったら、別れてなんかあげへんで?」
「けど、俺……どうしていいか分からな……」
 恋人ってどんな存在で、何をしていいのか翼には分からない。いい歳して、これまで恋愛関係のかけらも経験していないのだ。
「翼にお願いしたいのは、嫌なことは嫌って言って欲しいだけ。翼は優しいから、嫌やって言われんかったらどんどん近づきたくなってまう」
「俺は優しくなんか……」
 翼のそれはただの優柔不断だ。
「優しいで。だって、さっきもゲーセンで俺が嫌な思いせんようにしてくれとった」
「あれは……!」
 バレてたんだ。一気に恥ずかしくなって、思わず顔を上げた。真正面のユーリは、いつもと同じ優しい顔で翼を見つめている。そう、カナタを見つめていたときと同じだ。ユーリの中ではカナタと翼が同じ存在だということを、もう信じるしかない。ちっとも似てないのに。
「ミキニャとかウワバミさんにも、そっとサポートしてたん知っとるよ」
 そんなんじゃない。余計なことをしたと思われるのが嫌で、言い訳ができるように黙ってやっただけだ。
「そやけど、誰にでも優しいから、こんなのに捕まるんや」
 一気に低くなった声が、コマのほうを向いている。こんなの扱いされたコマが心外だとばかりに両手を広げた。
「翼に近づかんといてって言いたいけど、言われへんし最悪や」
「なにそれ、むっちゃ素直じゃん」
 全力で悔しがるユーリに、さすがのコマも呆気に取られている。
「お似合いすぎて嫌になるね」
 コマが最後のビールを飲み干してニカッと笑った。
「カナタが王子様のこと大好きなの知ってるし、今はなにもしねぇよ」
 立ち上がったコマがテーブルに5千円札を置いたのを、ユーリがすかさず返している。借りを作りたくないとかなんとか。コマは飄々としたまま、それじゃ遠慮なくごちそうさまなんて答えている。
「カナタ、また恋バナしようぜ」
 言い残したコマが悠々と帰っていった。
 そこで、厨房からの視線が一気に逸れたことに気づいてしまう。二度とこの店には来られない気がする。同じことをユーリも感じたようで、珍しく口数少なく会計を済ませて店を出た。翼が渡した半額はすんなり受け取ってくれたことにホッとする。
 外はもう真っ暗で、駅までの道を並んで歩いた。生温かい風に、汗が滲んでいく。
 ユーリはあいかわらず無言だけど、その歩幅は翼に合わせてくれていた。駅が見えてきたところで、突然ユーリの手が翼を掴む。バランスを崩したと慌てたときには、すでにビルの隙間へと押し込まれていた。大きなユーリの身体に隠れて、一気に陰が広がる。
 なにか言いたそうなユーリがやっぱり無言のまま唇を噛んでいた。
 こういうとき、どうすればいいのだろう。
 翼なんかが何かをしたところで……。
「……っ今日はありがと」
 勝手に翼の口から飛び出した声に、自分で驚いてしまう。
「ゲームの中みたいにうまくしゃべれなかったけど、でも……会えてうれしかった」
 翼はゲームの世界ならいくらでもしゃべることができる。それでも、きっとこんな風に本音を口にすることはできない。
 ユーリはゲームでも表情豊かだったけど、実際のユーリはそれを上回っている。真っ直ぐに伝えられる優しさが、翼の不安を和らげてくれる。
 もっと、知りたい。
 もっと、会いたい。
「もっと……」
 翼を覆う陰が濃くなった。
「……ぎゅってしてえぇ?」
 ささやく声に心臓が止まりそうになる。
 それでも、震える身体でなんとか大きく頷いた。
「……っ!」
 むんとした湿気に息が止まりそうだ。夜明けの灯台での温度よりもっと高くて、もっと生々しくて、その力の強さに息が止まりそうだ。
「俺な、むっちゃ嫉妬しぃやねん……」
 心臓がうるさくて、ユーリの小さな声を聴き逃しそうになる。
「翼とコマがただのトモダチやっても、嫌やって思ってまうねん」
 それなのに、コマは翼のことを口説くなんて言うから。
 どんどん消えそうになるユーリの声に必死で耳を澄ませる。そうすると、心臓の音がどんどん大きくなった。
 あ、これってユーリの心臓だ。ユーリも翼と同じで、一生懸命伝えようとしていて――。
 翼なんかに嫉妬しなくても大丈夫。そんないつもの自虐が出そうになったけど、なんとか腹の中に封じることができた。
「もう、大丈夫だと思う……こっちのユーリとしゃべるのも……だから」
 幻滅されるのが怖くて、嫌われるのが怖くて、それなのに離れられなくてコマを頼ったけど。
「また今度、その……一緒に遊びにとか……」
 デートという単語は翼にはハードルが高すぎて、なんとか違う表現を探してしまう。それだって、ユーリはすぐに気づいてくれる。翼を抱き締める力がさらに強くなった。
「その、あの、俺がユーリを嫌になることとかないので!」
 早口で一気に言い切ると、少しだけ身体の力が抜けた。
「やっぱり翼は優しいわ」
「そんなこと……!」
 そんなことない。顔を上げた先のユーリは逆光で、それなのに大好きなその顔がハッキリと見えて。
 これは、これって。
「キスしてえぇ?」
 これはさっきの嫌がることはしないと言ったユーリの、翼への気遣いだ。ひとつずつ許可を取ることで、翼を怖がらせないようにしてくれている。
 ただし、それは必ず翼が返事をしなければいけないということで。
 嫌なはずがない。
 嫌じゃないけど、そんなのどうすれば――。
 心配そうなユーリの顔が近い。
「あ、ハイ。その異存はないのですが、ただなにぶん不慣れなもので、いろいろとご迷惑をおかけしてしまうかと存じますがご承知いただけますと……」
 なにを言っているんだ。
 無意識の早口は意味不明な言葉の羅列で、ますます焦ってしまう。パニックで焦点が合わない。というか、近すぎるユーリと目が合わせられない。
「なんで、敬語」
 ユーリがふにゃりと笑う。
 ユーリのどアップの笑顔とか、ご褒美でしかないじゃないか。
「っスクショ……!」
 そんな機能、現実にはない。悔しさに、せめて脳に焼き付けようと必死でユーリを見つめた。
「スクショ?」
「あ、ちが……ユーリが」
「俺が?」
 あまりにカッコよくて、スクリーンショットが取りたくなっただなんて言えるわけない!
「あ、え……えと、その……」
 言い訳が見つからなくてどもる翼にも、ユーリは黙って続きを待ってくれている。
 どうしよう。
 パニックのあまり、なぜかユーリの顔を両手に掴んで――。
 高さは、精一杯背伸びをすれば届いた。
 陰がさらに濃くなって、近づきすぎたユーリの顔が見えなくなる。
「ツバ……さ……」
 なにかを言おうとするユーリの唇が塞がった。
 少し冷たくて、しっとりとしていて――。
 ……って、なにしてんだよ。これじゃ、変態じゃないか。言い訳が見つからなくてキスとか、頭おかしい。って、俺が自分からキ……キスしてしまった!
 唇が重なったままで、それ以上動けなくなってしまった。
「ごめ……!」
 なんとか離れようとした翼を、強い力が引き止める。
 背中がビルの壁にぶつかった。
「あ」
 離れたばかりの唇がまた塞がれる。翼のキスなんかとは比べものにならないくらいの強い力だ。
 だけど、この感覚は初めてじゃない。
 あの灯台でなんどもキスをした。そう、こうやってユーリの背中を抱いて。
 ユーリの大きな身体にしがみつく。
 推しと、リアルでキスをしてしまった――!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」 身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。 死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。 カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。 「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」 献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。 これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

処理中です...