サ終直前のネトゲで推しに急接近されましたが、現実の自分がクソダサ陰キャのため最後の思い出だけ作って逃げようと思います

二一

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最後の思い出

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『俺もっ……ユーリが好き、です』
 今の「カナタ」が告白ソレを断れるはずなんかない。
 だって、ユーリがカナタに触れる温度を知っている。
 侑利が翼に触れる温度も知っている。
 笑い声の響きも、優しい声も、それから、会いたくて仕方ない気持ちも。
 触れられない腕が、カナタを包み込む。
『ごっつ、うれしい……おおきに、カナタ』
 掠れたユーリの声に、翼の胸まで苦しくなった。
『俺も、うれしい。ユーリありがとう』
 ダメだ。ゴーグルの中で涙が……視界が曇ってしまう。
 あの日の約束だったら成就しなかった告白。
『カナタ、アンスターチェ山脈行かん?』
 あのあと、一緒に行こうと思ってた。少し花を啜りながらのユーリに、もちろんとこちらも鼻声で返す。
 城の泉から移動して、アンスターチェ山脈からの景色を並んで見つめる。夕日に染まる山々を眺め、言葉を交わさないまま、また泉に戻る。
 行き先はなぜか分かってしまった。
 ヨキ島の夜明けの灯台。
 ギリギリの状態で、最後の時間を一緒に過ごした場所だ。
 どちらからともなく、あの日と同じ場所に並んで座った。
『ホントのホントにサ終なんだよね』
 人生まるまる一個分くらいが詰まったARK LEGENDが本当になくなってしまう。
『カナタは今もこっちのほうがえぇって思う?』
 静かなユーリの声に、ゆっくりと首を振った。
『ゲームの世界は今も好きだよ。でも、今は現実の自分でもいいのかもって思ってもいいのかなって、思ってるような……』
『変な日本語になっとるよ?』
『うん。なんか上手く言葉にできないんだけど、俺はユーリがいる世界にいたいから』
 ゲームの中のユーリとカナタが見つめ合っている。だけど、それはなぜか客観的なものとして、冷静に見ていられた。
『だから、もしユーリに嫌われても、俺はユーリがいてるほうの世界がいいな』
 いつ呆れられてもしょうがないけど、それでも翼として前に進めるようになった世界が、今はちょっと好きになっている。
『ほな、俺が翼のこと嫌いにならへんかったら、ずっと一緒におる?』
 ――翼。
 カナタは今日で消えてしまうから。ユーリと過ごすのはもう翼しかいない。
 ユーリとずっと一緒?
 そんなこと、あり得るはずがない。
 ないないない。ここで勘違いしたら痛いヤツじゃないか。しかも、未来の自分が大ダメージを受けることになる。高望みなんかしちゃダメだって。
『や、そんな夢みたいなことあるはずないし。さすがに現実ともなると、そんなバカなこと思わないですよ。そもそも、なんの取り柄もない平凡なサラリーマンかっこコミュ障陰キャですよ? そのうち絶対に……』
 そのうち絶対?
 ユーリと離れて……。
 そんなの嫌だ。
 言葉がでなくなったところで、カナタの視界が暗くなった。
 ユーリが言っていた「エラーが起きるかも知れない」のエラーだろうか。それはすぐに違うと分かった。
『ゆ、ユーリ……』
 戦士の大きな身体がカナタに覆い被さっている。もちろん、重さも温度もなにも感じないし、カナタが動けばそれは簡単に離れられてしまう。
『翼はそれでもえぇの?』
 離れても、ひとりになっても。
 だって仕方ない。翼なんかがいくら嫌だと思っても、そんなの――。
『ゃ……やだよぉ……』
 ユーリがいなくなるなんて。
『ユーリがいないのは嫌だ。一緒にいたい』
 一生懸命まわした腕は、あるはずのユーリをすり抜けてしまう。
『けど、うまくできないんだよ。嫌いにならないで欲しいけど、俺なんかそもそも好きになってくれてるのがおかしいって思うし』
 連絡先だって明日にでもブロックされるかも知れない。されたっておかしくない。
『自信ないんだ。どうしたらいいか分かんない。でも――』
 頭の中がグチャグチャだ。だけど、これが今の正真正銘偽りのない気持ちだ。
『ユーリが好き……!』
 掴もうとした手がまた空を切る。
『側にいたい!』
『翼!』
 カナタの身体をユーリの腕がすり抜ける。悔しそうな呻き声が小さく聞こえる。向かい合って見つめ合って、だけど伸ばした手は繋げなくて。
 あのときは、ここで確かにユーリの体温を感じていたのに。
 今すぐ会いたい!
『ユーリ……俺!』
 ふたりの横を灯台の研究者が歩いていく。ここにいるふたりは、彼からすれば幽霊みたいなものだ。
 じゃあ、どこで存在してるかなんて、考える必要もない。
『『会いたい!』』
 声が重なる。
 もどかしい。
『翼、今から出れる?』
『どこ行ったらいい?』
『っ駅は? 北口の! 地図あるとこ!』
『すぐ行くから・・・…待ってて』
 早く行きたい。
 ヘッドセットをかなぐり捨て、マンションの部屋を飛び出した。
 全力疾走もすぐに疲れて足が動かなくなって、夏の日差しが翼の水分を絞り取っていく。カナタなら疲れてももっと走れるのに。今の翼の足は、意思とは別にどんどん動かなくなっていく。
 早く会いたい――。
 早く、早く。
「翼!」
 見慣れた観光地図の前から、ユーリが走ってくる。
 その腕に無我夢中で飛び込んだ。
「……ユーリ……だ。ユーリ……」
 ちゃんとそこにいる。汗ばんだユーリの身体を必死に掴んだ。
「翼。俺の部屋、連れて行ってえぇ?」
 抱き締められた耳元でささやかれ、必死に頷いた。
 とにかく、側にいたい。もっとユーリを感じたい。
「うわっ」
 身体が浮き上がった。
 ユーリに抱えられてる……!
「かんにん。翼が歩くの待ってられへん!」
「……っ!!!!」

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