Vegetables

二一

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Vegetablesー2ー

嫉妬と葛藤 1

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 由乃屋の営業は順調な滑り出しをみせた。元々の由乃屋を知ってる人たちが、敷居の低くなった料理屋にこぞってやってきたお陰だ。

 そして、俺はというと忙しさで目が回る思いだった。

 料理を作ること自体は慣れているし、不都合はないのだけど、いくつか重なる注文を、順序良く素早く仕上げていく組み立てが難しい。それに加えて常連さんの顔や好みを覚えたり――しばらくプーだったせいで、くもの巣の張っていた脳みそがオーバーヒートを起こしそうだ。

 顔見知りのやつらも食べに来てくれたが、あいさつをするだけで精一杯という感じだった。





 それも二週間を過ぎたころにはやや落ち着きを見せ始め、固定のお客さんは来店する曜日や時間がうまい具合にずれていった。

 繁忙時間を過ぎた午後一時すぎ、律が顔を出した。開店当初はあまりにもの忙しさに遠慮してくれてたようだ。

「日替わりあるか?」

 俺の担当メニューを頼んでくれる。今日の日替わりは定番のから揚げ定食だった。一食分では律には足りないかも知れない。俺は全体をやや多めに盛り付けて(これが俺の融通できる精一杯なんだ)カウンターの律に渡した。

「おまえの作るメシ、久しぶりだな」

 周囲に他の客がいないのをいいことに、律が絡んできた。そんなことを言われても、ツルさんのとこに行かなきゃ作る機会もないんだし。

「味のほうはどうなんだよ?」

「それは文句なし」

 あっ、かなりうれしいかも。

 律の家で作ってたときは、幸子さんたちもいたせいか「おいしい」とかそういった感想は一切聞けなかったんだ。

「ただ、量がちょっと足りない」

 やっぱり――。

「普通の人はそれで充分足りるんだよ」

 そんなやり取りをしていると、社長が横から「律君、おまけ」と小声で揚げ出し豆腐を出してきた。

 社長の料理はどれも絶品なんだ。俺も真似しようと練習しているけど全く以って敵わない。あまり俺のと比べられると嫌かも知れないと思った。

「休憩二時からだっけか?」

「ああ、四時まで」

「ちょっと付き合えよ」

「昼、食ってからな」

 まもなく二時になる店内にはもう律しか客はいなかった。二時でいったん店を閉めたら、やっと俺たちの食事だ。賄いはいつも社長が作ってくれる。これがまた旨いんだ。

 律はそのまま店内で待つつもりらしく、カウンターで新聞を広げた。

「社長、ちょっと出てきます」

 賄いを食べてから一声かけて律と外に出る。昼間はまだまだ暖かい。

 缶コーヒーを買って、律の車で海岸のほうまで出る。防波堤に造られた階段を下りて浜辺で寝転んでいると――やばい、眠くなってくる。

「千章」

「……ん」

「起きろ、風邪ひく」

 うっかりウトウトとしてしまっていたようだ。慌てて起き上がり、目を覚まそうと缶コーヒーを飲んだ。

「しんどいか?」

「まぁね、身体なまってるし」

「おまえ体力ないもんな」

「うるせぇよ」

 痛いところをグサグサと――。

 海風にヒヤッと感じて俺は首をすくめた。律がそのまま背中から腕をまわして、俺はソファにでも腰かけたような体勢になる。

「律、だれかに見られる」

「海しか見てねぇよ」

 久しぶりの律の体温が心地よくて、俺はそのまま律にくっついていた。落ち着く――。

「千章……おい、起きろって」

「んー……もうちょい……」

「おい、遅れるぞ!」

 俺は結局、律の腕の中で寝てしまっていた。慌てて起き上がる

「律、ごめん。おまえ仕事……」

 サボらせてしまったかも知れない。時計は三時半になっていた。

「大丈夫だから一緒にいる。気にすんな」

 そういって俺にキスした。約二週間ぶりのキス。なんだか名残惜しくて、俺からもキスしてしまった――。





 店に戻ると社長から「佐倉君は律君と仲がいいんだねぇ」と言われた。

 他意はないのだろうけど、俺は一瞬ドキッとしてしまったんだ。

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