Vegetables

二一

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Vegetables―スピンオフ―

鬼の霍乱と甘い蜜 2

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「ただの風邪だって。よかったな」

 あんまり熱が高いからインフルエンザとかそんなのじゃないかと心配したけど、検査の結果はいわゆる風邪だって診断が下りた。それにしても律にとり付くウィルスってツワモノだよな――。

 病院の帰りに律の家へ行くかと聞いたらおれの部屋がいいと言う。あ、そっか――家にはツルさんがいるし、いくら元気でも80歳を過ぎたツルさんに移ってしまったら大変なことになるかも知れないもんな。

 今日が休みでホントよかったよ――。

 昼にとりあえず柔らかく煮込んだうどんを食べさせて、処方された薬を飲ませる。普段の律からは想像できないほどの食欲のなさにちょっと心配になった。

「大丈夫か?」

「ノド痛ぇ――」

 呟く律の声はかなり掠れている。そういえば夕べも咳が酷かったよな。

 まだ熱が下がらない律はどこかぼうっとしていて普段とのギャップにどこかドキリとしてしまう。病人に対して何言ってるんだって感じなんだけど……。

 無言で布団に戻って寝息を立てる律にクスリと笑いがこぼれる。なんだか怪我した動物が回復する為に休んでるみたいだ。







 再び目覚めた律はややスッキリとした表情で、計りなおした熱も37度後半まで下がっていた。熱が下がった代わりにノドの痛みが酷いのかしゃべるのも辛そうにしている。

「何してるんだ?」

 キッチンで立っていると律の掠れた声が背後からかかる。

「こら、寝とけって――」

 熱が下がったと思ったらこれかよ――。呆れたように布団を指差すと律は憮然とした顔で文句を言う。

「これ以上寝てられるかよ――もうノド痛いだけだって」

 言いながらおれの手元に視線を落とす。何かと目で問いかけられ、ちょうど出来上がったマグカップを手渡した。怪訝そうな律に飲むように促す。

「――うまいな、コレ」

「だろ? はちみつレモン」

 ちょうど料理に使ったレモンが半分、冷蔵庫に残ってたのを見つけ、はちみつと一緒にお湯で割ったんだ。はちみつはノドに気持ちがいいだろうから。

「もうちょっと飲みたい」

 一気に飲み干した律がこちらにカップを返してくる。レモン汁はまだ余ってるしもう一杯くらいだったら作れそうだ。

 マグカップを軽くゆすぎ、残りのレモン汁と瓶のはちみつを入れる。

「あ――っしまった……」

 慌てたせいかスプーンですくったはちみつが零れ落ち、マグカップから外れておれの左手にかかってしまった。はちみつって手につくとベタベタして取れ難いんだよ。

 とりあえず先に律の分を作ろうと手を洗うのは後回しにして、落ちそうになってる左手のはちみつを舐め取った。うん、甘い。

「うまそうだな」

「っちょ……律」

 椅子に座った律がすかさずおれの左手を捕まえ指を口に入れた。そのまま指の蜂蜜がなくなるまで丹念に舐め取っている。

 律の口内はまだ熱がこもっていて普段よりも熱い。敏感な指先を何度も舐められて思わず身体が震えてしまう。

 ぞくりとした刺激に思わずスプーンを落としそうになって慌てて持ち直す。すると右手までスプーンのはちみつがベットリと付いてしまって……その手で何かを触るわけにもいかずにおれは律にされるがまま立ち尽くしていた。

 思う存分左手を舐めた律がふと口を離し、おもむろにスプーンを握りしめた右手を掴まえる。右手のスプーンを取り上げそのままおれの口へと咥えさせた。

 甘いはちみつが口の中に広がる。

 律はというと当たり前のようにおれの右手の指を丹念に舐めとっていく。

「ん――っ」

 ぞくりとする刺激に思わず声がでてしまう。そんなおれを律はいたずらっぽい目で見上げて笑った。

「すげぇ、うまい……」

 引き寄せられた耳元で囁かれ更にぞくりとする。吐息はいつもよりも熱いし、掠れた声が耳をくすぐるんだ……。
律はギュッと目を閉じたおれの手を再び口に入れる。指を舐める唾液の音だけが部屋に響いてなんともいえない気分になってしまった。

「指、感じんのか」

 咥えたまま呟かれて身体が跳ねる。律の視線は言い逃れできない部分に注がれていた。

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