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ZERO Season - 輝く前途を目指して
マイナス四話 Origin-堤弦音「はじまり奏でるギターソロ」
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―――なんとなく、大きなことがしたかった。
好きなことで何かをして、脚光を浴びたら、それはきっとすごく楽しいんだろうな。
最初はそんな、ふわふわした気分。
けど、行きたい場所は突然に、降ってくるような出会いと共に―――
昔から、ギターを弾くのが好きだった。父親に教えてもらい小学校の高学年から始めて、以来買い与えられたギターとベースを五年間練習してきた。
演奏するのが楽しく、また誰かとセッションするのも好き。そんな気持ちを抱えながら生活していたこともあり、中学の卒業が見える頃には自然と、軽音部に入るかバンドを立ち上げるのだと思って暮らしていた。
正直成績はいい方ではないが、どこか楽しそうな高校に入って、三年間を音楽に打ち込めればそれでいい。ぼんやりとそう考えながら、残り少なくなった中学生活を送っていた。
そんな堤弦音の世界ががらりと変わったのは、二学期が始まってしばらくした頃。定期テストを終えて、お疲れ会と称しファストフード店で過ごしていた時だった。
「そだ、つるねんこれ見てよ」
友人の一人が最近ハマってると言って見せてきたのは、人気アイドルのコンサート映像だった。
最初は、相槌を打ちながら何気なくその映像を見ていた弦音だったが、しばらくしてその表情が一変し、友人の手からスマホをひったくった。
「おわ、なになに!?」
「……この人、ギター弾いてる」
それが予想外の光景であったことから、思わずといった形で口からこぼす。その言葉の示す通り、画面の中ではさっきまで激しいダンスを踊っていたアイドルが、エレキギターを弾きながら歌っていた。それまで一緒に歌っていたメンバーはステージにおらず、演奏のためのバンドメンバーに変わっている。
今までの人生でアイドルという存在に触れてこなかった弦音にとって、そのカルチャーショックはあまりに大きいものだった。「歌って踊るもの」だと思っていたアイドルが、自分のやりたかった「演奏して歌う」ことを成している。
「上手いでしょ。その子ギターだけじゃなくて、ピアノも弾けるんだよ。前にやったライブでは、その子がピアノ弾いて、他のメンバーがファンサしながら歌ってたりしたし」
「へぇ……アイドルって、楽器もやるんだ」
映像の中で演奏するアイドルの顔は晴れやかで、その瞬間を何よりも楽しんでいることが伝わってくる。見ているだけで体が疼きだし、今にもギターを手に取りたくなるような、こちらの心すら動かす勢いのある演奏だった。
しばらくその映像と音楽に釘付けになったあと、弦音は長く息を吐く。日常の中で訪れた大きな衝撃に、脳の理解が追いつけていなかった。
それでも、全身を駆け抜ける雷のような衝動と興奮は、確かに弦音の心を動かした。
「……あーしバンドやろうと思ってたけど、アイドルやってみようかな」
ほとんど無意識のうちにそう呟いたことで、お疲れ会だった場はお祭り騒ぎに早変わり。友人らは口々に応援の言葉を投げかけ、まるで決定事項のように祭り上げられてしまった。
☆
家に帰ったその日。弦音は早速、父である紀之に相談を持ちかけた。
「おとーさん? あーしさ……アイドルやるのもアリかなって思ったんだけど……どうかな」
改まって話したせいか、驚いているのか。紀之はしばらく口を開かなかった。
弦音が沈黙に耐えかね事の経緯を話しだそうとした時、厳しい口調で紀之は言った。
「お前、ダンスできるのか?」
「う……確かに物覚え悪いけど……そこはほら、練習すっから」
「友達とバンドやるのとは違うぞ。好きな曲歌えるわけじゃないし、事務所が楽器弾くなって言ってくる場合もある」
今まで言われたこともないようなことを、厳しい口調で言われる。もちろん、弦音自身もそれが理解できていなかったわけではない。むしろ、軽い口調で友達に勧められたから、という理由では甘いと感じて、現実的なアドバイスを求めていた節もある。
「アマチュアでやりたいなら好きにやればいい。でもな弦音、アイドルになるっていうのは芸能人として働くってことだ。社会人として責任を負うってことだ。楽器弾けないならやめますとか、この曲歌いたくないですなんて口が裂けても言っちゃいけない。それ全部わかっても、やりたいって言えるか?」
唇をきゅっと結び、自分の中で責任と好奇心を天秤にかける。父の言うことは正しい。得意なことだからと、やらせてもらえる訳ではない。思い通りに行かないことの方が多いと断じて挑むくらいの気概が必要だ。
しかし、それでも。楽器が弾けなくとも、例え打ちのめされようとも。
大きなステージに立ってみたいという衝動は、天秤を壊さんばかりの大きさに膨れ上がっていた。
「それでも……やれるとこまで、やってみたい」
「……わかった。弱音吐いても、後悔するなよ」
こうして、弦音はアイドルになる決心をしたのであった。
☆
決心から数日。弦音はどうやってアイドルになろうかと頭を悩ませていた。
一般的に、自分からアイドルになりたいというのであれば、オーディションを受けて合格するほかない。となれば、重要になるのはどこの事務所に入るかだ。
改めて、冷静になって自己分析する。自分にできることと言えば、ギターとベースを弾くことだ。歌もそれなりには自信がある。問題点としては、ダンスなどやったこともないことだろう。また、唐突にアイドルを目指したくなったばかりという点では、動機でも他人と比べれば劣ると言っていいだろう。課題は山積みだ。
「……けど、やるって決めたからには、やるしかないっしょ」
あれやこれやと調べて、様々な事務所のホームページを行き来する。
―――大手に入れたら、みんなに自慢できっかな。でもそれだとデビューまでめっちゃかかるよなー……
選択肢は無数にある。しかし、そのどれもが独自の欠点や危険性を孕んでいることもまた確か。メリットを見て探し、飛び込む際にデメリットも併せ呑む気で行かなければいけない。
弦音としては、大手事務所である必要性はあまり感じていなかった。なんとなく、その方がより縛られるイメージがあったからだ。同じことのできるアイドルが二人や三人ならともかく、ただ楽器ができるというだけなら大手事務所にはごまんといるはずだろう。そうした部分で埋もれてしまうのであれば、小さな事務所でも自分らしさを発揮していきたい。
そんなことを考えていると、友人からメッセージが届く。
『新しくできた事務所でアイドル募集してんだって! 一期生だよ一期生! ヤバくない!?』
との文言と共に貼られたURLをタップすると、聞いたこともないような名前の芸能事務所のページが現れる。そこには友人の言う通り、一期生として来年一月からデビューするアイドルのオーディションを行っている旨が書かれていた。
気になってホームページを隅々まで見てみると、新設の事務所にしては持っている敷地が広く建物も大きい。更には所属タレント用の寮まであるという。
―――寮生活、いいかも。
地図を見れば、受験しようと思っていた高校も電車で三駅とそう遠くない。どうせアイドルをやるなら、生活環境からがらりと変えてしまうというのも、悪くない……否。
「楽しいかもじゃん」
どうせなら、事務所を引っ張る大スターになってやる。そう意気込んで、友人グループにこのオーディションに出ると檄を飛ばした。
☆
それから一週間。弦音はランニングとダンスの基礎レッスンを始めていた。独学では不安な部分もあったが、話を聞いた友人の中にダンススクールの経験者がいたため、頭を下げて教えを乞うた。
これまでの弦音は、長距離走などもっての外、演奏したいと文句を垂れ流しながら走っていたものだが、今は違った。
あの日からずっと、ステージの上で輝くアイドルの姿が脳裏に焼き付いて離れない。大きなステージで、大勢の観客に囲まれて。その瞬間、アイドルとファンたちはどれだけ楽しく、幸せな時を過ごしているのだろう。そればかりが気になって、努力することの辛さがほとんど気にならなかった。
いつも楽譜やコード表を見ていたギターの演奏も、弾きながら体に覚えさせて暗記し始めた。物覚えはいい方でなかったが、それでもひたすらに練習を繰り返して自分に刷り込む。ダンスも同じように、通しでやると何度も振りが飛ぶところを練習量でカバーしていく。
今までの弦音からは考えられないような変貌ぶりに、友人らの応援や協力にも段々と熱が入ってきていた。
そんな中、ダンスレッスンの休憩中にコーチ役の友人にふと問われる。
「弦音さ、なんでそんな夢中になってるかって、自分で思い当たる節ある?」
言われて少し考え込む。ふと友人の背後にある、使い始めて五年目のギターが目に入った。
その瞬間、鍵が外れたかのように、吹き込む風のような感覚が弦音の脳を駆け抜けた。それはまるで、過去から吹いてくる思い出。
「……あーしさ、小学校四年くらいん時かな、友達のお姉ちゃんが文化祭で軽音やるっつーから見に行ったんよね。で、それがなんか、すっごい楽しそうでさ。なんかこー、青春が詰まってるって感じ? それでギター弾きたいっておとーさんに頼み込んで教えてもらったの」
当時見た光景を思い浮かべる。体育館で楽しそうに演奏する高校生たちの表情を、子供ながらに羨ましく思っていた。
「でもね、あのライブ映像見て思ったんだ。あーし……ああいうステージでやってみたい。欲張りで無茶かもしんないけど、あーしはステージに立ちたいだけじゃなくて、でっっっかいステージにめちゃくちゃお客詰め込んで、そこで死ぬほど演奏したいんだって」
「……無茶だねぇ」
友人が失笑する。それから弦音の背中を叩き、強い口調で言った。
「そういう無茶だから、みんな応援したくなっちゃうんだよ。せっかくなら、日本一くらいは取ってこいよ!」
「トーゼン!」
「っしゃもうひと頑張りすっか!」
それから一ヶ月、友人らの手伝いで体力をつけダンスを学び、紀之に今まで以上に厳しく楽器の演奏を指導されブラッシュアップを重ねた。
そしてオーディション当日。弦音はギターケースを背負い、緊張した様子で玄関に立っていた。
その背後から、母の琴音が声をかける。
「緊張してんでしょ」
「そりゃするし!」
「お父さんから伝言あるわよ」
思わぬ言葉に振り返ると、琴音は笑顔のまま言伝を口にした。
「『お前ならやれる』、それから……『仕事で出したもん、楽器置く部屋に飾るからな』」
「……言ったなー? あーしめっちゃ大人気になって、部屋じゃ収まらんくらい色々やったるし!」
笑顔で前を向きなおすと、両手を叩いて気合いを入れ直す。
そうして、右手を突き上げて家を出るのだった。
―――そこに行きたいって、強く思っちゃったら、行動せずにはいられない。
うまくいくとか、いかないとか、挑戦してみなきゃわかんないわけだし。
踏み出して、走り抜けて、ちゃんとゴールって思える場所まで行けたときって……
きっと、サイコーに楽しいに決まってんじゃんね―――
「ジュエリーガーデンプロモーション、オーディション一期生! 堤弦音、十四歳! よろしくお願いしまっす!」
好きなことで何かをして、脚光を浴びたら、それはきっとすごく楽しいんだろうな。
最初はそんな、ふわふわした気分。
けど、行きたい場所は突然に、降ってくるような出会いと共に―――
昔から、ギターを弾くのが好きだった。父親に教えてもらい小学校の高学年から始めて、以来買い与えられたギターとベースを五年間練習してきた。
演奏するのが楽しく、また誰かとセッションするのも好き。そんな気持ちを抱えながら生活していたこともあり、中学の卒業が見える頃には自然と、軽音部に入るかバンドを立ち上げるのだと思って暮らしていた。
正直成績はいい方ではないが、どこか楽しそうな高校に入って、三年間を音楽に打ち込めればそれでいい。ぼんやりとそう考えながら、残り少なくなった中学生活を送っていた。
そんな堤弦音の世界ががらりと変わったのは、二学期が始まってしばらくした頃。定期テストを終えて、お疲れ会と称しファストフード店で過ごしていた時だった。
「そだ、つるねんこれ見てよ」
友人の一人が最近ハマってると言って見せてきたのは、人気アイドルのコンサート映像だった。
最初は、相槌を打ちながら何気なくその映像を見ていた弦音だったが、しばらくしてその表情が一変し、友人の手からスマホをひったくった。
「おわ、なになに!?」
「……この人、ギター弾いてる」
それが予想外の光景であったことから、思わずといった形で口からこぼす。その言葉の示す通り、画面の中ではさっきまで激しいダンスを踊っていたアイドルが、エレキギターを弾きながら歌っていた。それまで一緒に歌っていたメンバーはステージにおらず、演奏のためのバンドメンバーに変わっている。
今までの人生でアイドルという存在に触れてこなかった弦音にとって、そのカルチャーショックはあまりに大きいものだった。「歌って踊るもの」だと思っていたアイドルが、自分のやりたかった「演奏して歌う」ことを成している。
「上手いでしょ。その子ギターだけじゃなくて、ピアノも弾けるんだよ。前にやったライブでは、その子がピアノ弾いて、他のメンバーがファンサしながら歌ってたりしたし」
「へぇ……アイドルって、楽器もやるんだ」
映像の中で演奏するアイドルの顔は晴れやかで、その瞬間を何よりも楽しんでいることが伝わってくる。見ているだけで体が疼きだし、今にもギターを手に取りたくなるような、こちらの心すら動かす勢いのある演奏だった。
しばらくその映像と音楽に釘付けになったあと、弦音は長く息を吐く。日常の中で訪れた大きな衝撃に、脳の理解が追いつけていなかった。
それでも、全身を駆け抜ける雷のような衝動と興奮は、確かに弦音の心を動かした。
「……あーしバンドやろうと思ってたけど、アイドルやってみようかな」
ほとんど無意識のうちにそう呟いたことで、お疲れ会だった場はお祭り騒ぎに早変わり。友人らは口々に応援の言葉を投げかけ、まるで決定事項のように祭り上げられてしまった。
☆
家に帰ったその日。弦音は早速、父である紀之に相談を持ちかけた。
「おとーさん? あーしさ……アイドルやるのもアリかなって思ったんだけど……どうかな」
改まって話したせいか、驚いているのか。紀之はしばらく口を開かなかった。
弦音が沈黙に耐えかね事の経緯を話しだそうとした時、厳しい口調で紀之は言った。
「お前、ダンスできるのか?」
「う……確かに物覚え悪いけど……そこはほら、練習すっから」
「友達とバンドやるのとは違うぞ。好きな曲歌えるわけじゃないし、事務所が楽器弾くなって言ってくる場合もある」
今まで言われたこともないようなことを、厳しい口調で言われる。もちろん、弦音自身もそれが理解できていなかったわけではない。むしろ、軽い口調で友達に勧められたから、という理由では甘いと感じて、現実的なアドバイスを求めていた節もある。
「アマチュアでやりたいなら好きにやればいい。でもな弦音、アイドルになるっていうのは芸能人として働くってことだ。社会人として責任を負うってことだ。楽器弾けないならやめますとか、この曲歌いたくないですなんて口が裂けても言っちゃいけない。それ全部わかっても、やりたいって言えるか?」
唇をきゅっと結び、自分の中で責任と好奇心を天秤にかける。父の言うことは正しい。得意なことだからと、やらせてもらえる訳ではない。思い通りに行かないことの方が多いと断じて挑むくらいの気概が必要だ。
しかし、それでも。楽器が弾けなくとも、例え打ちのめされようとも。
大きなステージに立ってみたいという衝動は、天秤を壊さんばかりの大きさに膨れ上がっていた。
「それでも……やれるとこまで、やってみたい」
「……わかった。弱音吐いても、後悔するなよ」
こうして、弦音はアイドルになる決心をしたのであった。
☆
決心から数日。弦音はどうやってアイドルになろうかと頭を悩ませていた。
一般的に、自分からアイドルになりたいというのであれば、オーディションを受けて合格するほかない。となれば、重要になるのはどこの事務所に入るかだ。
改めて、冷静になって自己分析する。自分にできることと言えば、ギターとベースを弾くことだ。歌もそれなりには自信がある。問題点としては、ダンスなどやったこともないことだろう。また、唐突にアイドルを目指したくなったばかりという点では、動機でも他人と比べれば劣ると言っていいだろう。課題は山積みだ。
「……けど、やるって決めたからには、やるしかないっしょ」
あれやこれやと調べて、様々な事務所のホームページを行き来する。
―――大手に入れたら、みんなに自慢できっかな。でもそれだとデビューまでめっちゃかかるよなー……
選択肢は無数にある。しかし、そのどれもが独自の欠点や危険性を孕んでいることもまた確か。メリットを見て探し、飛び込む際にデメリットも併せ呑む気で行かなければいけない。
弦音としては、大手事務所である必要性はあまり感じていなかった。なんとなく、その方がより縛られるイメージがあったからだ。同じことのできるアイドルが二人や三人ならともかく、ただ楽器ができるというだけなら大手事務所にはごまんといるはずだろう。そうした部分で埋もれてしまうのであれば、小さな事務所でも自分らしさを発揮していきたい。
そんなことを考えていると、友人からメッセージが届く。
『新しくできた事務所でアイドル募集してんだって! 一期生だよ一期生! ヤバくない!?』
との文言と共に貼られたURLをタップすると、聞いたこともないような名前の芸能事務所のページが現れる。そこには友人の言う通り、一期生として来年一月からデビューするアイドルのオーディションを行っている旨が書かれていた。
気になってホームページを隅々まで見てみると、新設の事務所にしては持っている敷地が広く建物も大きい。更には所属タレント用の寮まであるという。
―――寮生活、いいかも。
地図を見れば、受験しようと思っていた高校も電車で三駅とそう遠くない。どうせアイドルをやるなら、生活環境からがらりと変えてしまうというのも、悪くない……否。
「楽しいかもじゃん」
どうせなら、事務所を引っ張る大スターになってやる。そう意気込んで、友人グループにこのオーディションに出ると檄を飛ばした。
☆
それから一週間。弦音はランニングとダンスの基礎レッスンを始めていた。独学では不安な部分もあったが、話を聞いた友人の中にダンススクールの経験者がいたため、頭を下げて教えを乞うた。
これまでの弦音は、長距離走などもっての外、演奏したいと文句を垂れ流しながら走っていたものだが、今は違った。
あの日からずっと、ステージの上で輝くアイドルの姿が脳裏に焼き付いて離れない。大きなステージで、大勢の観客に囲まれて。その瞬間、アイドルとファンたちはどれだけ楽しく、幸せな時を過ごしているのだろう。そればかりが気になって、努力することの辛さがほとんど気にならなかった。
いつも楽譜やコード表を見ていたギターの演奏も、弾きながら体に覚えさせて暗記し始めた。物覚えはいい方でなかったが、それでもひたすらに練習を繰り返して自分に刷り込む。ダンスも同じように、通しでやると何度も振りが飛ぶところを練習量でカバーしていく。
今までの弦音からは考えられないような変貌ぶりに、友人らの応援や協力にも段々と熱が入ってきていた。
そんな中、ダンスレッスンの休憩中にコーチ役の友人にふと問われる。
「弦音さ、なんでそんな夢中になってるかって、自分で思い当たる節ある?」
言われて少し考え込む。ふと友人の背後にある、使い始めて五年目のギターが目に入った。
その瞬間、鍵が外れたかのように、吹き込む風のような感覚が弦音の脳を駆け抜けた。それはまるで、過去から吹いてくる思い出。
「……あーしさ、小学校四年くらいん時かな、友達のお姉ちゃんが文化祭で軽音やるっつーから見に行ったんよね。で、それがなんか、すっごい楽しそうでさ。なんかこー、青春が詰まってるって感じ? それでギター弾きたいっておとーさんに頼み込んで教えてもらったの」
当時見た光景を思い浮かべる。体育館で楽しそうに演奏する高校生たちの表情を、子供ながらに羨ましく思っていた。
「でもね、あのライブ映像見て思ったんだ。あーし……ああいうステージでやってみたい。欲張りで無茶かもしんないけど、あーしはステージに立ちたいだけじゃなくて、でっっっかいステージにめちゃくちゃお客詰め込んで、そこで死ぬほど演奏したいんだって」
「……無茶だねぇ」
友人が失笑する。それから弦音の背中を叩き、強い口調で言った。
「そういう無茶だから、みんな応援したくなっちゃうんだよ。せっかくなら、日本一くらいは取ってこいよ!」
「トーゼン!」
「っしゃもうひと頑張りすっか!」
それから一ヶ月、友人らの手伝いで体力をつけダンスを学び、紀之に今まで以上に厳しく楽器の演奏を指導されブラッシュアップを重ねた。
そしてオーディション当日。弦音はギターケースを背負い、緊張した様子で玄関に立っていた。
その背後から、母の琴音が声をかける。
「緊張してんでしょ」
「そりゃするし!」
「お父さんから伝言あるわよ」
思わぬ言葉に振り返ると、琴音は笑顔のまま言伝を口にした。
「『お前ならやれる』、それから……『仕事で出したもん、楽器置く部屋に飾るからな』」
「……言ったなー? あーしめっちゃ大人気になって、部屋じゃ収まらんくらい色々やったるし!」
笑顔で前を向きなおすと、両手を叩いて気合いを入れ直す。
そうして、右手を突き上げて家を出るのだった。
―――そこに行きたいって、強く思っちゃったら、行動せずにはいられない。
うまくいくとか、いかないとか、挑戦してみなきゃわかんないわけだし。
踏み出して、走り抜けて、ちゃんとゴールって思える場所まで行けたときって……
きっと、サイコーに楽しいに決まってんじゃんね―――
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