悪役令嬢と氷の騎士兄弟

飴爽かに

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ロシェルとユーリア

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婚約解除は、お互い成人してから。そのため、このような関係になっても、まだ婚約者としての務めはある。
今日はノア殿下と2人きりのお茶会の日だった。

波乱万丈の夜会が終わってから、早数日。
私は、ロシェルの動向を探ったり、レイアの様子の情報を仕入れたりと、忙しい日々を送っていた。

水晶のシャンデリアの輝く、一室に入る。
「お待たせいたしましたわ。」
赤色のドレスをたくしあげて歩く。もう耳にイヤリングを付けないことに慣れてしまった。

「やあ、ココ。待っていたよ。早速だけど重要な話があるんだ。」
「なんでしょう。」
侍女が出したハーブティーを手に取る。
ふわりと漂う香りは、スッキリとしたミントだった。

「これを見てくれ。」
にこやかにそう言いながらテーブルの上に広げられたのは、パンフレットと、いくつかの資料だった。
パンフレットには大きな文字で輝かしいクォーツ帝国と書かれている。

「なんでしょう。観光雑誌?」
「そうなんだ。」
手に取ったパンフレットの表紙には綺麗なクォーツ帝国の街並みが載っている。
中をペラペラとめくると、有名なレストランやホテル。観光名所などが載っていた。

「今年度観光客の訪れる国1位になっただろう?次のパンフレットは、これよりももっと高貴でゴージャスな感じにしたいんだと。だから、ココ、お前にパンフレットの監修を頼みたいんだ。」
「わたしですか?」

「あぁ、もとは私にきた仕事なのだがな。おまえは、この国を時折とても愛おしそうに眺めているから。」
見られていたのか。

「おまえから見えるこの国がどんな風なのか私が気になったんだ。」
優しく笑うその表情に一瞬見とれる。

「…分かりました。このお仕事お受けしますわ。中に載せる店や、観光名所は前とあまり変えないのですか?」
「あぁ。だが前のパンフレットよりも、王宮の中の紹介を増やしたいらしい。この王宮の水晶の装飾が綺麗だからだそうだ。」
「それは、そうでしょうね。」

水晶の国。クォーツ帝国の象徴のこの城は、外観も内観もすべてが輝いている。
この城に惹かれない人なんていない。

「表紙の写真から私が決めていいのですか?」
「あぁ。そう言っていたぞ。景色の資料ならそこにたくさんあるが、腕のいいカメラマンを呼ぶこともできる。」
置かれている景色の写真を1枚も見ることなく私は言った。
「カメラマンを呼んでください。高貴でゴージャス。人々に必ず目に留まる写真を思いつきましたわ。」

後日、水晶のひときわ輝く広い部屋で、撮影の準備が行われていた。
被写体は景色ではない。
侍女たちに服を当てられている、クリスフォード兄弟である。

様子を見に来たノア殿下が、感心したように声を掛けてきた。
「ロシェルとユーリアが表紙に載るのか。確かに彼ら2人がいる姿は人の目を惹くからな。」

この国の女性たちの人気を2分する彼ら。
白銀の髪に、白銀の瞳。神々しいまであるその姿は、二人揃うと、幻想的な雪景色のようで、美しい吹雪が吹いてくる気さえする。

カメラマンのポーズを取ってくれという指示に、ロシェルは楽しんで格好つけてみせるが、ユーリアは恥ずかしそうに、不慣れな姿を見せていた。

自分の容姿の良さを自覚しているロシェルと違い、自身が無さそうな表情を浮かべるユーリアもそれはそれでとても可愛い。

撮影が一旦、休憩に入る。
不安そうな表情で、ユーリアが私に確認しに来た。
「ココ様、あれで良かったのですか?ただ立ってポーズを取っていただけですけど。」
「いいのよ。とても良かったわ。」

「そうだぞ、ユーリア自信持て、俺たちが並んで映るだけで、画になるんだからな。」
ロシェルが自分でそう言いながら、ユーリアのストレートの髪を手で梳かす。

「おまえの髪質や瞳は母さん似だよな。」
「そうですかね。」
まっすぐ見つめられたのが恥ずかしくなったのか、照れるようにユーリアが視線を外す。

ロシェルは自分の目線少し下のその頭を優しく撫でながら聞いてきた。
「ココ様、今私たち兄弟どちらの方が人気が高いんですかね?」

「えー?」
「に、兄さん。」
どっちだろうと真剣に考えてみる。
貴族の令嬢たちは、ロシェルのような自信のある性格の美形には慣れているから、初心でクールなのに可愛い1面もあるユーリアを推している声が多い気がする。

一方で、平民の女性たちは、そのルックスと余裕のある包容感も感じられる雰囲気に、ロシェルを推す声が多い。

「甲乙つけがたいですものね。やっぱり好きずきではないかしら。」

「そ、そうなんですね…」
ユーリアが恥ずかしそうにそう言った。

「甲乙つけがたい、ですか。ココ様は迷う余地もなくユーリアの方が好みだと思っていましたけど、俺の魅力にも気づいて下さっているんですか?」
いたずらを思いついた子供のように、楽しそうにロシェルが聞いてくる。

はぁ、とため息をつく。
この人はなんで時々、街中にいるナンパみたいな言動をするのだろう。
まあそれも特上の美形なら許されるのか。

「そうね。ロシェルのことは胡散臭いとは思っているけれど、容姿は本当に綺麗だと思うわ。」

瞳をまっすぐ見つめて言うと、一瞬驚いたものの、楽しそうな挑戦的とも見えるような笑みを浮かべた。

「ありがたきお言葉です。」
そう言って頭を下げる。

「言うことを聞かない子は嫌いよ。」
そう付け加えると、似てると呟いて彼は笑った。
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