悪役令嬢と氷の騎士兄弟

飴爽かに

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リリア姉様の来訪

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室内のテーブルや椅子のセッティング、飲み物やスイーツの内容はどうするかなど、慌ただしく侍女たちが話している。

なにか近々会議があったかしらと考えてみても思い当たらない。

王宮の廊下を歩いていると忙しそうにしているノア殿下と鉢合わせた。
「あら、ノア殿下、何かお忙しそうね。」
「ココ、ちょうど良かった。明日の予定は何か入っているか?」

「明日?何もないですけれど。」
「よかった。実は明日急に、ミレサ王子とリリア王妃が国の資源や政治資金について相談に来るそうなのだ。」
「明日ですか?まあ、姉様はいつも急ですわよね。」
「あぁ。なにやらクォーツ帝国の近くを通る予定があるから、ついでに寄ることにしたそうだ。」

天真爛漫でわがままな姉らしい。

「明日出来ればココも出席してくれないか?」
「もちろんいいですわよ。姉様の来る理由も半分は私の顔を見たいからなのでしょうし。」
「よかった。クォーツ帝国からの資源の輸入などの話もするから兄さんも立ち会うのだが、最近は身体が特に弱っているようでな、私も来るように言われているんだ。」
「そうなのですね。」

概要を説明し終わったあと、困ったように視線を揺らす。
「しまったな。明日は、レイアを城に呼んでしまっているんだ。」
その言葉を聞いてバッと彼の瞳を見つめる。

「レイアを呼んでいるんですか?」
「あ、あぁそうなんだ。でもこうなったらレイアには予定をキャンセルしてもらうしかないな。」
もう既に私の公認の仲とは言え、気まずそうに彼は言う。

「いいのではないですか?」
「え?」
「姉様の話もずっと立ち会っていないと行けない訳では無いでしょうし、レイアには他の部屋で待ってもらっていてはどうでしょう?」

チャンスが舞い降りてきた。レイアと話す時間を作れるかもしれない。
「レイアだって普段はなにか街での仕事があるのでしょう?2人の時間を作ることは簡単ではないはずよ。」

押しが強い私にノア殿下がたじろぐ。
そう彼は私が怒った時も言い返さない程押しに弱いのだ。

「そ、そうだろうか…」
「そうですわ。それに、城に来るだけで景色やスイーツで彼女を楽しませることができますわよ。」
「…それもそうだな。せっかくのスイーツを無駄にしてしまうのも心苦しいし…」

折れてきたノア殿下にこくこくと頷いてみせる。
「レイアだって、ノア殿下が忙しい間を縫って時間を作って下さってること分かっているはずよ。…お呼びなさったら喜ぶはずよ。」
そう言うと、ノア殿下は少し考えてから頷いた。

ユアン殿下も会議に出るということは、ロシェルもついて出るはずだ。
ということはその間に私が会議を抜け出たら、誰にも邪魔されずにレイアと2人きりで腹を探り合う話ができる。

明日が運命の分かれ目。
大丈夫。絶対に全部うまく成功させてみせる。

当日、ドレスの着替えを済ませると、早くに城についた姉様が私だけに先に挨拶に来た。

「ココ、ご機嫌よう。夜会ぶりね。元気にしてた?」
「ええ。元気でしたわ。」
「そうだ、これをあげようと思っていたの。」

そう言って彼女が手渡してきた物を受け取る。
手の中には、蝶の繊細なモチーフのついた水晶でできたイヤリングだった。

「イヤリングですか?」
「そうよ。水晶の飾りのものってこの国にいたらたくさん増えるけど、私は重くて好きじゃないのよね。」
「そうなんですね。…」
太陽にかざすと光を反射してキラキラと光る。

「あら、ココ今ちょうどイヤリングしていないじゃない。会談に付けていったら?」
「最近は、付けていないんですの。ノア殿下が派手なのがお嫌いらしくって。」
もう婚約解除するのだから、彼の好みは気にしなくてもいいはずなのだが、彼のそう言う意思はなんとなく聞いておいてあげたい気持ちがある。

「そうなの?へー、あなたそういうの律儀に聞いて気にしてあげるところ昔から変わらないわよね。」
「え?」
「というか、ノア殿下って意外とそういう所あるわよね。派手なのが嫌いって、ユアン殿下と真逆の性格してるわね。」
そう感心したようにリリアが言う。
ユアン殿下と真逆ならば、そのユアン殿下の気に入らないところがあるリリアにとって、ノア殿下は息が合うのでは無いかと思った。

夜会で少し口に出していたことを詳しく聞きたいと思ったが、それは次の機会にしよう。
今はそれどころじゃない。

「ねえ姉様、お願いがあるの。」
「あら、なあに?」
「会談の間、途中で私に席をはずすような提案をしてくれないかしら。」
「…どうして?」

私はノア殿下と婚約解除を本格的に予定していること、新しく婚約者になるかもしれないレイアが今日城に来るから、話す時間を作りたいということを簡潔に伝えた。

「なるほどね。いいわよ。やっぱりあなたしっかりしてるわよね。そしてこの国が誰よりも好きよね。」
「ありがとう。…そうかしら?」
「そうよ。普通なら、婚約解除するのだから、相手のことも国のこともどうでもよくなるわよ。」

「…普通なら、そうなのかしら。」
でもキラキラ輝くこの国は私の大好きな物語の場所だから。

「席を外せるようにしてあげるから、後でどうなったか教えてね。」
すごく面白そう。そう呟いた彼女は確実に私の修羅場をエンタメとしていた。
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