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守っていたい
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「えっ本当に?あなたが作者なの…?」
「そうよ。信じられないかもしれないけど。作者だって証明できるものはここにはないし、信じなくてもいいけれどね。」
そう言う言葉をなんとなく信じてしまいそうな自分がいた。
薄々思っていた、この人は物語をよく掴んでいるなって。それが作者なら納得する。
「でもだったらなんであなたはこんなことするの?自分で書いた作品の世界が大切じゃないの?」
レイアはふふ、と自虐的に笑う。
「レイアと星の国。私あの物語の最終回だしていないでしょう?」
「ええ。…ずっと気になってはいたの。」
レイアと星の国はシリーズものだが、3巻で止まっている。
それ以降もうずっと何年も続きは出ていなかった。
「あれはね、私最終回書けなかったのよ。」
「え?」
ティーカップを撫でながら彼女は言った。
「クォーツ帝国は、水晶の国。それなのになぜ題名が星の国なのか考えたことはある?」
「…たしかに。」
私の答えを聞く前に続けた。
「本当の豊かさってなんだと思う?」
彼女は自分に問うようにそう言う。
「物質的?本質的?なんだかそういうの考えていると自分のこと馬鹿みたいに思えてくるのよね。」
何が言いたいのかよく分からなくて、ただ黙って次の言葉を待った。
「資源にも恵まれていてお金も豊かな派手な国、ノア殿下は女遊びが激しかったり、見た目は派手だったりするけれど、本当は質素な人が好きで、彼は星が好き。でも、豊かさを目指していくたびに、空なんか目につかなくなる。」
「この物語ってハッピーエンドだったのかな。」
呟くように彼女は言った。
「私、この国が幸せになる未来が見えなくなってしまったの。」
そう言って笑う表情がとても切なく見えた。
「…そうだとしても、それで、なぜこの物語の世界を困らせるようなことするの…?」
「私が生み出したものを私の手でばらばらにしてしまいたかったの。思い切り壊せばもうどうでも良くならないかなって思って。」
「そんなこと…そんな酷いこと。」
抽象的な思いだからって否定なんて出来なくて、それでも、それを言っているのがこの人だから私はどうしようもない気持ちになった。
「この世界は私にとって大切なものなのに…小さい頃から嫌なことがあった時はこの物語を読んで、レイアやノア、ロシェルやユーリアに会って、元気を貰ってた。一人ぼっちでもこの世界に入り込んだら1人じゃなくて、何度も皆に助けて貰ってた。」
嫌なことがあったら、ノア殿下やユーリアが守りに来てくれる気がしてた。
暖かくて綺麗なこの物語が、私にとってはひとつの居場所みたいに大切だった。
「私の大切な世界をあなたが否定しないで。」
こみ上がってきそうになる涙を堪えてそう言った。
彼女は、無言で寂しそうな笑顔を浮かべていた。
正直この人にこの物語を否定されるのが1番悲しかった。
周りになんて言われてもこの人だけはこの物語を守ろうとして欲しかった。
多分私はそんなふうに信じていたんだ。会ったこともないこの人のことを。
彼女は椅子からそっと立ち上がって私の目の前に立った。
その腕をのばして、私の頭を優しく撫でた。
「そんなふうに思ってくれている子もいたのね。」
「…」
「だからあなたが呼ばれたのかも。」
「え?」
「私がもう嫌になっちゃってこの物語をぐちゃぐちゃにしようと思った時に転生できて、それを止めるために、私以上に物語を想ってくれるあなたがココとして呼ばれたのかも。」
「…そうなのかな。」
そうかもしれないと思った。
私はこの人を止めるために、この物語を守るために転生してきたのだと思った。
だったら
「ねえ、この物語の未来が見えないなら、ハッピーエンドに出来ないかもと思うなら、私と一緒にこの物語を最後まで導こうよ。」
「え?」
「私と一緒にレイアと星の国を完結させよう。」
とても明るい前向きな意味で言ったのに、口に出してみると、それはとても切ないことを言ってるようにも思えた。
なんだかやっぱり泣きそうになりながら、彼女の手を握った。
彼女1人が悪だったら簡単だったのに、そりゃあそんなはずは無かった。
生み出したのも壊そうとするのも彼女だなんて、信じたくなかった。
しばらくすると彼女は私の手を握り返した。
驚いて顔を上げると、優しげな笑顔が浮かんでいた。
「…分かった。」
その時トントンとドアがノックされる音がした。
なにか返事をしようとする前にそのドアが開く。
「すまない、待たせたなレイア…ココ?なんでこんなところにいるんだ?」
入ってきたのはノア殿下だった。
手を取り合っている私たちの様子を見て不思議そうにしている。
「あ、」
「ココ様が私とお話してみたいと言って訪ねてきて下さったの。とても楽しい時間でしたわ。」
そう言うとレイアは、私の手を離す。
「そうなのか…そういえばココ、もうミレサ王子たちがお帰りになるそうだぞ。」
「まあ、そうですのね。見送りにいかなくちゃ。」
レイアに1度軽く頭を下げたあと、早足で部屋を出る。
情報過多で頭が朦朧としていた。
「そうよ。信じられないかもしれないけど。作者だって証明できるものはここにはないし、信じなくてもいいけれどね。」
そう言う言葉をなんとなく信じてしまいそうな自分がいた。
薄々思っていた、この人は物語をよく掴んでいるなって。それが作者なら納得する。
「でもだったらなんであなたはこんなことするの?自分で書いた作品の世界が大切じゃないの?」
レイアはふふ、と自虐的に笑う。
「レイアと星の国。私あの物語の最終回だしていないでしょう?」
「ええ。…ずっと気になってはいたの。」
レイアと星の国はシリーズものだが、3巻で止まっている。
それ以降もうずっと何年も続きは出ていなかった。
「あれはね、私最終回書けなかったのよ。」
「え?」
ティーカップを撫でながら彼女は言った。
「クォーツ帝国は、水晶の国。それなのになぜ題名が星の国なのか考えたことはある?」
「…たしかに。」
私の答えを聞く前に続けた。
「本当の豊かさってなんだと思う?」
彼女は自分に問うようにそう言う。
「物質的?本質的?なんだかそういうの考えていると自分のこと馬鹿みたいに思えてくるのよね。」
何が言いたいのかよく分からなくて、ただ黙って次の言葉を待った。
「資源にも恵まれていてお金も豊かな派手な国、ノア殿下は女遊びが激しかったり、見た目は派手だったりするけれど、本当は質素な人が好きで、彼は星が好き。でも、豊かさを目指していくたびに、空なんか目につかなくなる。」
「この物語ってハッピーエンドだったのかな。」
呟くように彼女は言った。
「私、この国が幸せになる未来が見えなくなってしまったの。」
そう言って笑う表情がとても切なく見えた。
「…そうだとしても、それで、なぜこの物語の世界を困らせるようなことするの…?」
「私が生み出したものを私の手でばらばらにしてしまいたかったの。思い切り壊せばもうどうでも良くならないかなって思って。」
「そんなこと…そんな酷いこと。」
抽象的な思いだからって否定なんて出来なくて、それでも、それを言っているのがこの人だから私はどうしようもない気持ちになった。
「この世界は私にとって大切なものなのに…小さい頃から嫌なことがあった時はこの物語を読んで、レイアやノア、ロシェルやユーリアに会って、元気を貰ってた。一人ぼっちでもこの世界に入り込んだら1人じゃなくて、何度も皆に助けて貰ってた。」
嫌なことがあったら、ノア殿下やユーリアが守りに来てくれる気がしてた。
暖かくて綺麗なこの物語が、私にとってはひとつの居場所みたいに大切だった。
「私の大切な世界をあなたが否定しないで。」
こみ上がってきそうになる涙を堪えてそう言った。
彼女は、無言で寂しそうな笑顔を浮かべていた。
正直この人にこの物語を否定されるのが1番悲しかった。
周りになんて言われてもこの人だけはこの物語を守ろうとして欲しかった。
多分私はそんなふうに信じていたんだ。会ったこともないこの人のことを。
彼女は椅子からそっと立ち上がって私の目の前に立った。
その腕をのばして、私の頭を優しく撫でた。
「そんなふうに思ってくれている子もいたのね。」
「…」
「だからあなたが呼ばれたのかも。」
「え?」
「私がもう嫌になっちゃってこの物語をぐちゃぐちゃにしようと思った時に転生できて、それを止めるために、私以上に物語を想ってくれるあなたがココとして呼ばれたのかも。」
「…そうなのかな。」
そうかもしれないと思った。
私はこの人を止めるために、この物語を守るために転生してきたのだと思った。
だったら
「ねえ、この物語の未来が見えないなら、ハッピーエンドに出来ないかもと思うなら、私と一緒にこの物語を最後まで導こうよ。」
「え?」
「私と一緒にレイアと星の国を完結させよう。」
とても明るい前向きな意味で言ったのに、口に出してみると、それはとても切ないことを言ってるようにも思えた。
なんだかやっぱり泣きそうになりながら、彼女の手を握った。
彼女1人が悪だったら簡単だったのに、そりゃあそんなはずは無かった。
生み出したのも壊そうとするのも彼女だなんて、信じたくなかった。
しばらくすると彼女は私の手を握り返した。
驚いて顔を上げると、優しげな笑顔が浮かんでいた。
「…分かった。」
その時トントンとドアがノックされる音がした。
なにか返事をしようとする前にそのドアが開く。
「すまない、待たせたなレイア…ココ?なんでこんなところにいるんだ?」
入ってきたのはノア殿下だった。
手を取り合っている私たちの様子を見て不思議そうにしている。
「あ、」
「ココ様が私とお話してみたいと言って訪ねてきて下さったの。とても楽しい時間でしたわ。」
そう言うとレイアは、私の手を離す。
「そうなのか…そういえばココ、もうミレサ王子たちがお帰りになるそうだぞ。」
「まあ、そうですのね。見送りにいかなくちゃ。」
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