悪役令嬢と氷の騎士兄弟

飴爽かに

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俺とリリア

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弟のユーリアが俺と口を聞いてくれなくなってしまった。

きっかけは、2人でココ様のお見舞いに行った時だ。
寝ぼけていたココ様が、俺を褒めたり、2人の時間があったことを仄めかしたりしてしまったのだ。

「ユーリア、ココ様の言っていた事だが、別に深い意味はなくて…」
「いいですよ。兄さん。私は別に気にしていません。」

だったらなんでいつもより冷たい態度を取るんだよ。
はぁ、とユーリアに聞こえないようにため息をつく。
意外と、意地が強くてなんでも1人で出来るようになる、あまり手のかからない弟だったと思う。

だけど人一倍不器用で、女性とも関わるのが苦手で、いつまで経ってもウブで。
俺はこいつのことをずっと心配していた。

最近はココ様という、女性と楽しげに話せるようになったと思っていたのに、弟の初めての恋心が成熟して欲しいと思っていたのに。

まさかこんな展開になるなんて。

すると丁度、ノア殿下とのお茶会に向かっているのであろう、ココ様とすれ違った。

「ココ様、こんにちわ。体調はもう戻ったのですか?
「あら、ロシェル偶然ね。…ええ。もう元気よ。お見舞いもありがとうね。」

ユーリアは無言で頭を下げる。
こいつは、ココ様自信にも拗ねてみせるつもりなのだろうか。

そんな態度を気にせず、ココ様はユーリアにも話しかけた。

「ユーリア、後で話があるわ。」
驚いた表情を見せたユーリアは、
「…はい。」
と心無しか嬉しそうにそう答えた。

ほら、やっぱりココ様が頼るのは、俺じゃなくておまえなんだって。

「…?」
ココ様に視線を戻すと、彼女はなぜか少し切なそうな表情で俺を見ていた。
彼女は同等に、ユーリアにも同じような視線を向ける。

ついこの間まで、思いっきり私はあなたを疑っていますよという視線を向けていたのに、どういう心境の変化なのだろうか。

掴めたと思ったら、掴めない。
この人はそんな不思議な人だ。

そういうところもよく似ている。
俺はやっぱり、ココ様にあの人を重ねてしまっている。
もう気持ちに終わりを告げた想いなのに。

「ねえ、そういえばロシェル。」
「はい。」
「姉様とユアン殿下って仲は良かったわよね?姉様がミレサ王子のもとに嫁いだのは純粋に恋心なのよね?」
「え…」

いきなり出てきた名前に驚く。
その一瞬の様子を読み取ってココ様が、疑うような表情をみせる。

「なにか知っているなら教えてくれない?」
「…そう、ですね。」

彼女についての話なら複雑になりざるを得ない。

「リリア様は、ココ様に話してもいいと思っているのでしょうか?私が勝手に話していいものなのか正直分からないです。」

考えながら言葉を絞り出すと、ココ様が手紙を突きつけた。
それはどうやら、リリア様がココ様に出した手紙のようだった。

「私がこの間会談の後に姉様に手紙を出したの。…そしたらすぐに返事が返ってきてね。」

その手紙をそのまま俺は受け取る。

「姉様、私の秘密は全部ロシェルに聞いてだって。」
「…え?」

俺は急いで手紙を読む。
ココ様の言った通り、そこには、そんな言葉が書かれていた。
動揺を隠すために片手で髪をかきあげる。

ココ様はそんな俺の様子を黙って見ていた。

「ロシェル。あなた姉様とどんな関係だったの?」

ココ様のまっすぐな視線に加え、隣から好奇心いっぱいのユーリアの視線も感じる。

「…はぁ」
手紙を持ったまま天井を仰ぐ。
何であの人はどこまで行っても俺のことを追い詰めるのが好きなのだろう。

「誤魔化したって無駄よ。」
楽しそうにココ様が笑う。

「…分かりました。言いますよ。…俺とリリア様は、恋仲でした。」

1泊置いて2人の驚く声が廊下に響いた。






俺がリリア様と話すようになったのは、ユアン殿下の側近になった頃だった。
ユアン殿下は基本ほのぼのとしていて優しい方だから、俺は彼を慕っていて、彼を守ることに使命を感じていた。
そんな優しい王子に似つかわしくない令嬢が婚約者だと知った時はひたすらがっかりしたし、彼女をどうにか婚約者の立場から去るようなことにならないかといつも考えていた。

リリア様はS気質の、いじめっ子気質で、ユアン殿下を困らせることばかりをしていたし、そうすることでどんな反応をするかということを楽しんでいた。

試すようにわざわざ隣国の問題を持ち込んで、その国の王太子殿下と秘密裏に会っていたりした。
きっとミレサ王子にもその繋がりで会っていたのだろう。

「リリア様、なぜお優しいユアン殿下にいじわるばかりするのですか。」
2人きりの時に、彼女に聞いてみると、
「あの人が退屈だからよ。」
と言っていた。

今思うと、恋仲だと思っていたのは俺だけで、あちらからしたら俺は遊びのうちの1人だったのかもしれない。

とんでもない女だと思っていたけれど、俺が彼女に恋に落ちるのはすぐだった。



ある夜会の日、彼女は綺麗な淡い藤色のドレスを着て、キラキラ輝く水晶の飾りをつけて、参加していた。

リリアの美貌にまわりのどの貴族達も彼女の噂をしていたが、リリアはそれすらも退屈そうだった。
その夜会の時は特に、リリアもユアン殿下に仕掛ける悪巧みが無かったようで、つまらないという感情が顔に書いてあった。

夜会が始まってしばらくすると、リリアが1人で俺のところにやってきた。
「ねぇロシェル。気分が悪くなってしまったの。一緒に外まで着いてきてくれる?」
「はい。もちろんですよ。」

そう言って、会場の外までついて行き、城の広間までやってきた。
「リリア様、医務室に行かれますか?それならあちらですけれど…」
「しっ!」
リリアは人差し指を俺の口に当てた。
柱の影に隠れるようにして、会場の方を見ていた。

「どうなさいました?」
「あの人、どんだけとろいのよ。」
「え?」

リリアと同じように会場の方を覗いてみると、ユアン殿下が何かを探すように、歩き回っていた。

「何をなさっているのですか?」
「…きたきた。ほら、行くわよ。」
リリアは俺の腕を引っ張って、ユアン殿下から逃げるように走り出す。

「ちょっ、ちょっと待ってください。なにがしたいのですか?体調が悪いのでは?リリア様。」
「体調なんて悪くないわよ。今かくれんぼしているの。」
「かくれんぼ?」

そう言うとリリアは俺をつれてまた物陰に隠れる。
そこから、ユアン殿下の様子を窺っていた。
「あはは。焦ってる焦ってる。」
「…?ユアン殿下は何をそんなに急ぐことがあるのですか?」
「私を探してるのよ。私がユアン殿下の名を勝手に使って、…あ、まずいこっち気づいたかしら。」
「えっ?」
ぱっと立ち上がるとリリアが俺を引っ張って走り出す。
「あはは、走れ~ロシェル。」
笑いながら彼女は全力で走り出す。
「うわっリリア様待ってください。」

いつも退屈そうでツンツンとした態度の女の子の無邪気な笑顔を見てしまった。
大声で笑いながら走る姿はすごく可愛らしいけど王太子殿下の婚約者の令嬢様には見えなくて、俺もつられて笑ってしまった。

「それで、何をしたんですか?」
階段の影に座って息を整える。
「私が、ユアン殿下の名前を使ってライム王国との保留してた貿易、許可しちゃったのよ。」
「はぁ?!」
「焦ってるわねー。」
「俺もその要件で探しているユアン殿下から一緒に逃げていたんですか…?」
「ええ、そうよ。だってユアン殿下何かあったらすぐあなたのこと頼るもの。…ロシェルこっちに連れてきたら困るだろうと思って。」
にこっと花が咲いたかのように広がる笑顔が純粋に可愛らしいのが逆に怖い。

「…はぁ。どうすればいいんですか俺は。」
「ふふ。さぁ…私に振り回されとけばいいんじゃない?」

その強引な笑顔で俺は馬鹿みたいに見事に恋に落ちた。
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