悪役令嬢と氷の騎士兄弟

飴爽かに

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ユアン殿下

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「そうだったのね。」
ロシェルの話を聞き終わった私はそう言った。
裏ストーリーだったのだろうか。
ロシェルとリリアの話は物語に載っていなかったと思う。
そもそもリリアを不可思議な裏のあるキャラクターと表している所があるから、そういうこともあるのかもしれない。

どんどん、ロシェルへの見解が変わっていく。
ということは、彼は私たち姉妹への報復でレイアとユアン殿下との関係を築かせようとしている訳ではないのだろう。

この後、ユーリアにロシェルの思惑が探れたか聞こうと思っていた。
昔話のついでになにか考えがあるのならすんなり話してはくれないだろうか。

「ねぇ、ロシェル。思い出話を教えてくれたついでとは言わないけれど、ユアン殿下への認識を教えてくれないかしら。…特に婚約とか、彼の弟のことについて…」
私がそう言うと、ロシェルはレイアについて聞きたいのだと察したようだった。

「悩ませたようですみません。レイア様に初めて会った時の夜会の私の行動を不審に感じていましたよね。…私も少し焦っていたんです。ユアン殿下は俺とリリア様のことを気づいていて、結果的にはリリア様はこの国を去っていく形になったから。…俺はユアン殿下へ贖罪の気持ちで、新しい出会いが訪れないかなとずっと考えていたんです。」

ユーリアも真剣な表情でロシェルの次の言葉を待っている。

「もちろん、綺麗で聡明な女性がユアン殿下と仲良くなってくださればなという思いもあったんです。でもあの時は、純粋に咄嗟に守ろうとしてました。」
「…レイアを、私から?」
「…ふふ、そうです。ココ様とリリア様はよく似てる。リリア様の行き過ぎた行動を補完出来るように俺はいつも彼女には気を配っていたから。…その癖ですね。」

「…そう。」
それが本当かどうかは分からない。
そりやあ本音もあるのだろうけど、それが全てではないだろう。
人の想いっていうのは1本筋じゃないから。
恋をするために嘘を突き通してきたこの人には、きっと人に全てさらけ出せない贖罪があるのだろう。

だから今はこれでいいと思った。

「長く引き止めてごめんなさいね。」
そう言って彼らと別れた。
後でどこかのタイミングでユーリアと2人で話せるといいな。

歩きながら私は手に持つ手紙を握りしめた。
先程ロシェルに見せた姉からの手紙じゃない。
レイアから送られてきた手紙だ。

おそるおそる読んだその手紙には、レイアがこれまでこの物語を壊そうとしてやってきたいくつもの悪事が告白されていた。

王宮が機能しなくなるように、ユアン殿下への負担が増えるような悪事に手を広げてきた。
彼を悪者に仕立て上げる噂を街に広めたと書いてあった。
物語をよく知っている彼女の印象操作はそりゃあよく機能しただろう。

「どうすればいいのかって、私誰かに相談もできないのね。」
水晶の散りばめられた天井に手紙を透かす。
孤独が逆に私を強くしてくれる気がした。
私がこの物語を守ってみせる。

この後は、ノア殿下とのお茶会兼、観光パンフの話し合いだった。
お店や宮殿内の写真と、記事を載せて綺麗に纏まってきた。
話し合いが終わると私は、宮廷医師のもとに向かった。

この間体調を崩した時薬を貰っていたので、そのお礼をしに行こうと思っていたのだ。

「失礼するわ。イーサン、いるかしら。」
そう言って医務室に入るとイーサンの声が返ってこない。外出中かしら。

「…ココか。先程、イーサンは医務室を出ていったよ。」
「え、ユアン殿下?」
備え付けのベッドに横になっているのは、どこか疲れた表情をしているユアン殿下だった。

「どうなさったのですか?」
「街で暴動が起こったらしくてね、最近多くて、治めに言っていたら休む暇がなかったんだよ。…体調管理失敗だ。廊下で倒れているところを運ばれたんだ。」
「…そう、だったのですね。」

半身を起こしたユアン殿下のベッドの横の椅子に座る。
レイアが生み出した不安をこうして実際に疲れているユアン殿下を見るとどうしようもなく切なく、申し訳なくなる。

「…街で増えている最近の問題、私とレイアが尽力します。私たちに少しばかり頼ってください。」

そんな姿を見ていると自然に言葉が出ていた。

「レイア…?ノアの新しい婚約者になりそうな女性だったかな。…なぜ?この国の問題だから君たちが気負う必要は何一つ無いんだよ。」
それが気負うどころか発生源を知っていると言ったらどうなるだろうか。

「ですが、レイアには…私とレイアには、問題を解決する考えがあるんです。それに、私は…これがこの国のためにできる最後のことかもしれませんし。」
にこっと笑って言った。
正式に婚約解消して、レイアが新しい婚約者になったら、私はこの国ともうなんの関係もないただの令嬢になる。
これが最後のバトンパスなのかもしれない。

「…そうか。分かった。君たちに助けてもらおう。だけど、1つお願いがあって。」
「はい。」
「その中に、ノアも入れて欲しい。おかしな組み合わせかもしれないけど、あの子にもやっぱり頑張って欲しいんだ。」
「…はい。」
「私はこんな体だから、ずっとあの子がクォーツ帝国の王になるべきだと思っていた。」
「え?」
「ノアは人を惹きつける力があるし。でも、甘えてばかりのあの子のままじゃきっと何も出来ないばかりだろうから、ちゃんと力をつけていて欲しいんだ。私の為にもね。」
「分かりました。」
「こうまでならないとあの子に口出し出来ないんだから、私は君の姉にも嫌われるんだよね。」

最後にそんなことを笑いながら彼は呟いた。
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