悪役令嬢と氷の騎士兄弟

飴爽かに

文字の大きさ
24 / 25

姉の城

しおりを挟む
早速、コルチカム帝国の建国500年式典の話し合いのため、ユアン殿下、ノア殿下、私、それからそれぞれの側近としてロシェルとユーリアでコルチカム帝国に訪れた。

「いらっしゃいココ、皆さん。」
出迎えてくれたのは姉様だった。

「姉様、相変わらずこの国は花々が綺麗ね。」
コルチカムは、薄紫の可愛い花の名前。
城の周りにはその花を中心としたたくさんの紫色の花で統一されている。

城の中の絨毯やカーテンも紫色で統一されていて、可愛らしく、女の子ならときめく内装となっている。

通された部屋には、ラベンダーで飾られた長テーブルとその上には、紫色のハーブティーが置かれていた。

「帰りにはラベンダーの花束のお土産もあるわ。」
乙女チックな姉様主催のお茶会は、気が利いていて可愛らしくて胸が踊る。

「リリア殿、ミレサ王子は?」
ユアン殿下がそう言うと、リリアが答えた。

「この式典は私が主催者なの。すべて私の好みにしていいと言われているのよ。だからミレサは、話し合いには参加しないわ。今は違う国の接待をしているところよ。」
「そうなのですね。」

1人で主催できるなんてさすがの姉様だ。
きっと自分だけでやりたいと、ミレサ王子に駄々を捏ねたのだろうと想像できた。

「だから、ここには気の知れた人間だけ。ユアン殿下私の呼び方は前みたいにリリアでいいわよ。せっかくだから昔話もしたいわ。」
「…そうか、分かったリリア。」

王妃モードを解いて、リラックスして話す姉様にロシェルが少し警戒するように彼女を見る。

その視線に気づいた姉様がいじわるモードに入った。
にこりと楽しそうに笑って話しかける。
「ロシェル。あなたとこうして話すのも久しぶりね。」
「…そうですね。」
「緊張してるの?」
2人の関係性を知らないノア殿下だけがほのぼのと会話を聞いている。
私とユーリアは、ユアン殿下の前でそんなふうに話すリリアにドキマギしていた。

「…あなたも、お元気そうで楽しそうに王妃をやっていて安心しました。」
ロシェルが優しい表情でそう言う。
小さな子供を見るような表情を浮かべるロシェルがリリアのことを遠く離れていても想っていたのが伝わった。

「ふふ。私は、どこに居たって周りのこと振り回して楽しくやっていけるんだから安心して。」
「それもそうですね。…リリア様ですからね。」

二人の間に流れる素敵な空気に、彼らが離れ離れになったのが今更切なくなった。
ユアン殿下もハーブティーを飲みながらにこやかに話を聞いている。
関係を知っていたのかもしれなくても、こうやって許容してくれるのが嬉しかった。

「というか、ユアン殿下、あなた達の国はどうなっているの?どうしてそんなに短期間で治安が悪化したのよ。」
「…それには、本当に困っているんだ。だからこうして話を受けてくれて本当に感謝しているよ。」
「式典の話ならむしろ有難いのだけど、あなた達の派閥分裂の諍いが面白いことになっているわよね。」
「そうなのです。」
ノア殿下も申し訳なさそうに答える。

「ココがノア殿下と婚約解消する前に解決しないとさらに複雑になるわよ。」
「そうですわよね。…一体なんでこんなことに。」
原因はレイアだと分かっているのだが、わざとそう言ってみた。

「でも、いずれはそんな風になるんじゃないかとも私は思っていたわ。」
「え?」
リリアの意外な言葉に驚く。

「ユアン殿下とノア殿下は違いすぎるもの。それに、ほのぼのとしたあの国がずっとそのままじゃいられないって皆分かっていたはずなのよ。」
ハーブティーを一口飲んでリリアは続けた。

「なにがきっかけになったのかは分からないけど、変わらないままじゃダメって風潮になったのは、いいことなのかもね。」
そう言う彼女の視線は私に向いていた。

「私の力が必要なら言ってねココ。あなたなら、何とかできるような気がしてるわ。」
その言葉になぜかノア殿下も頷いた。

そんなことを言われたって私がなにかできるわけが無い。

「あなたにだって導く力はあるわ。」
私がレイアの力ばかり信じていたことを見抜かれているような気がした。

その後話し合いは、クォーツ帝国がコルチカム帝国の建国を記念した新しい試みに手を貸すということまで決まった。
これを機にもっと助け合う形になればいい。
大体の骨組みが決まったところで話し合いは解散になった。

迎えの馬車が来るまで待っている間、皆それぞれ城で過ごしていた。
私は、式典の予告を監修しているパンフレットに載せようと思って、考えた記事とレイアウトの案を姉様に見せに行こうとしていた。

姉様の部屋に行くと、先に来客が居たようだ。
中から声が漏れ出てくる。
「…ユアン殿下、あまり不安に思う必要はないと思いますわ。ロシェルも知っての通り、仕事もできて人を想う気持ちがちゃんとある人間なのだから、力を合わせていけばそこまで悪くはならないわよ。」
「…そうだね。」
「この立場だから言わせてもらいますけど、もっと歩み寄らないと行けないのはあなたの方なのですからね。」

そんな会話が聞こえた。
ユアン殿下が歩み寄る存在というのは、ノア殿下なのだろう。

王国の一番の問題、派閥争いは実は単純な形をしているのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

〘完〙なぜかモブの私がイケメン王子に強引に迫られてます 〜転生したら推しのヒロインが不在でした〜

hanakuro
恋愛
転生してみたら、そこは大好きな漫画の世界だった・・・ OLの梨奈は、事故により突然その生涯閉じる。 しかし次に気付くと、彼女は伯爵令嬢に転生していた。しかも、大好きだった漫画の中のたったのワンシーンに出てくる名もないモブ。 モブならお気楽に推しのヒロインを観察して過ごせると思っていたら、まさかのヒロインがいない!? そして、推し不在に落胆する彼女に王子からまさかの強引なアプローチが・・ 王子!その愛情はヒロインに向けてっ! 私、モブですから! 果たしてヒロインは、どこに行ったのか!? そしてリーナは、王子の強引なアプローチから逃れることはできるのか!? イケメン王子に翻弄される伯爵令嬢の恋模様が始まる。

処理中です...