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第21章 ジェシー

第139話 怪我

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「ジェシーが怪我を!?」「ああ。クエストを完了させて王都に戻る途中でな」

 マックス先生へ月1報告をしに来た際にそう教えてもらった。

「魔物達に襲われて退治している最中に足を滑らせ、坂道を転げ落ちてしまったみたいでな」「それで、怪我の方は?」「身体に軽い打撲や擦り傷を負ってこちらは直ぐ治るとの事だが、顔に少々深い傷を負ったみたいでな」「顔に······」「一生残るというものではないんだが、それで心に傷を負って今は城の自室に閉じ籠っているんだ」

(ジェシー)マックス先生の説明を聞いて心の中でジェシーの事を心配した。

「ドクトリー先生も多少時間を置けば大丈夫だろうと仰られてたからそちらは様子を見る事にしたんだが、我々が心配しているのはの方なんだ」「同行者って?」「実は、ジャックなんだ」

「ジャックが!?」「ああ。怪我は彼女自身が自分の不注意が原因だと言っているんだが、それでも負い目を感じてあいつも寄宿舎の自室に閉じ籠っているみたいでな。今日の発表会にもいなかっただろ?」確かに、姿を見てなかったなぁ。

「まぁこっちもハインリヒ先生と話し合って暫く様子を見る事にしたんだ。それで2人と親交の深い君には伝える事にしたんだよ」「そうですか」「だから他の者には話さないでくれよ」「分かりました」と言ってマックス先生の下を離れた。


 そしてベアーズの所に行ってジェシーの事を伝えた。

「ベアーズ、暫くジェシーとは会えなくなったんだ」それを聞いてベアーズは目を見開いて僕を直視した。

「顔に少々深い傷を負ってお城の部屋に籠っちゃったんだって」それを聞いた直後、ベアーズは出入口から普通に出て来て僕のズボンの裾を咥えてクイッ! クイッ! と引っ張った。

「お、おいベアーズ! どうしたんだ?」そのすぐ後裾から口を離して走り出した。

「どこ行くんだよ!」と言いながらベアーズを追った。


 そのベアーズが向かった先は寄宿舎の僕の部屋だった。僕が部屋の近くに着いたらドアの前で早く開けろと言わんばかりに僕を睨んでいた。

「ハイハイ、開ければ良いんだろ?」と少し開けたらすぐ部屋に入り、今度は机の引き出しを見上げた。

「今度は引き出しの中か?」と引き出しを取り出して床に置いた。するとすぐに白い羽ーーヨートス様の里への移動の羽ーーを咥えた。

「今度はそれを使えって?」と聞くと数回頷いた。

「ハイハイ」すぐ外に出てヨートス様の里に飛んだ。里に着いた直後、僕の腕から飛び降りて奥に走り出した。

「今度はどこ行くんだー!」と叫びながらまた追った。

 そうしてヨートス様の屋敷も通り越し、ご神木が生えている所まで来てそのご神木に額を当てた。

 ちょうど僕が追い付いた時にご神木の正面が割れてベアーズはその中に入って行った。仕方なく僕も後に続いた。


 中の空洞を抜けてエルフの王国に出たのだが、そのままベアーズは走り続けていた。「どこまで本当に行くんだよー!」と叫びつつ僕も後を追った。

 王国入口の門番も前方から何かが近付いて来ているのが分かって警戒したが、それがベアーズだと分かると気を許したが、直後に僕が「本当に待てー!」と叫びながら走って来た事に不思議がり、僕が通り過ぎた後振り返って僕らを見続けていた。

 そのままベアーズは王国を走り抜けてお城の脇の道を進み、そのまた奥の、以前ベアーズが見つけた苗木が成長した世界樹の下まで走り続けた。

 世界樹の根元には何人かエルフの民がいたのだが、ベアーズはその人達の事なんかお構い無しと言わんばかりに世界樹の根元に着いた直後、「ガウガウ! ガウガウ! ガアガア! ガウ!······」と世界樹に何かを必死に訴えるように叫び続けていた。

 当然その場にいた人達は何だ? 何事だ? など不思議がっていた。

 ようやく僕も世界樹の下に着いた。その直後、世界樹の葉っぱが揺れ出し、1枚の葉っぱがゆっくりと落ちてきた。

 その光景を見た人達は全員がとても驚いていた。そしてベアーズの顔近くまで葉っぱが落ちて来た直後、パクッ! とベアーズはその葉を咥えた。

 その直後また来た道を走り出した。「す、少しは休憩させろー!」僕の叫びも聞かず走り続けたので、僕も仕方なくまた走って後を追った。

 そんな僕達の一連の行動を、その場にいた人達全員があ然となって見続けていた······。

 そしてベアーズは王国を抜け空洞を通り、里に戻って飛んで来た場所にて佇んだ。

 少しして僕も飛んで来た場所に近付いたら、またベアーズが僕を睨んでいた。

「わ、悪かったな。遅くて」とベアーズを抱き上げ白い羽を使った。その直前、ヨートス様から「レ、レックス君、ベアーズが咥えているそれはも······」と尋ねられたのだが、ヨートス様が言い終わる前に飛んで行ってしまったのだった。


 王都に着いてまたすぐ僕の腕から飛び降りて走り出したので、僕も後を追った。

 次にベアーズが向かったのはドクトリー先生の診療所だった。診療所に着いて他の人が診療所の中に入って行く時追随して中に入って行ってしまった。

 僕も慌てて中に入り、ベアーズを探したら奥の診察室の方に向かっていた。受付にいた人にひと声掛けてベアーズを追って僕も奥へ向かった。

 ベアーズを追って奥に行ったら診察室前にベアーズが座っていた。

(よ、ようやく、追い付いた)と僕が近付いて捕まえようとしたら、「それではお大事に」「先生、ありがとうございました」と中にいた患者さんが出てきた直後、診察室内に入った。

(ま、前の人が終わるのを待ってたのね)と思いつつ僕も診察室に向かった。

 中にいたドクトリー先生は突然ベアーズが入って来た事に驚いたが、「どうした? ベアーズ」と尋ねた時ベアーズが口に何か咥えているのに気付いた。

「それは?」とベアーズが口に咥えていた物を渡してもらって見てみて、「これは、まさか!」「はい、世界樹の、葉です」「っ! レ、レックス君!?」と息を切らしながら診察室の入口にいたレックスにドクトリー先生が気付いた。

「ど、どうしたんだ? そんなに息切れて」「コ、コイツに、あちこち、振り回された、だけです」「そ、そうか。それより世界樹の葉って、あのエルフ族の?」「そうです」「よく取ってこれたな。でこれをコイツはどうしろと?」「それで、恐らくジェシーの、顔の傷を、治して欲しいんだと、思います」

「ジェシー王女の?」とベアーズを見たら真剣な顔つきで見ていたので、「分かったよ。有り難く使わせてもらうよ」と言ってベアーズの頭を撫でてやった。

 それを聞いて安心したのかベアーズは診察室をトコトコと出て行った。

「ほ、本当に身勝手な、奴だな」「お前も大変だな」「もう慣れましたよ。それじゃあ、ジェシーの方お願いしますね」「ああ、任せろ」と聞いて僕も診療所を出て行った。

 診療所を出た所にベアーズがちょこんと座っていたので、「もう良いのか?」と聞いたらベアーズは首を縦に振ったので、ベアーズの首根っこを片手で掴んだ。 

 そして、「それじゃあ、ヨートス様やフィンラル様に状況を説明しにいくぞ」と言ってヨートス様の里に飛んだのだった······。



 その日の診療時間終了後、ドクトリーは文献などを参考にしてジェシーの顔の傷に効く塗り薬を調合した。

 そして翌日、ドクトリーはお城のジェシーの下を訪れて塗り薬を渡した。

「本当に、このお薬でこの傷がすぐ治るのですか? ドクトリー先生」ジェシーは不安な思いをドクトリーにぶつけた。
 
「ええ。間違いなく明日には傷痕はキレイに無くなっておりますよ、ジェシー王女」と自信を持って伝えた。

「間違いないのかね、ドクトリー君」当然国王様も念押しする意味で尋ねた。

「ご安心下さい国王様。このお薬の材料はあの世界樹の葉でございますから」「何! あの世界樹の?」「ええ、それを用いて色々な文献などを調べて調合致しましたので、効果は間違いなく期待出来ます」と国王様にも伝えた。

「それなら確かに······」と国王様は納得したようだが、ジェシー自身は未だに不安な表情をしていた。

 そこでドクトリーは「なら、今のジェシー王女にとって一番のお薬となる事を言いましょうか?」「一番のお薬となる事?」「その世界樹の葉を取ってきたのは、ベアーズとレックスなんだよ」

「ベアーズとレックスが!?」それを聞いてジェシーは驚きつつ表情が明るくなった。

「ああ。最もレックスの方はベアーズに付き合わされて、あちこち振り回されただけの様だったけどね」

 それを聞いてジェシーは改めて握った塗り薬を見つめ、(レックス、ベアーズ。ありがとう)と思ったら自然に涙が出てきた。

 そしてドクトリーに「先生」「ん?」「本当に、今のお言葉が一番のお薬になりました」「なら、2人にお礼を言うためにも早く治さないとね」「はい!」

 その後ジェシーは塗り薬を顔に塗ってひと晩経ったら、本当に傷が完全に消えたのだった······。
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