”牛追い女”と蔑まれた私 追放されたって長年心をこめて世話してきた可愛い牛たちと一緒なら大丈夫!

マリー

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牛追い女、犯行計画を耳にする②

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「ロバートが牛を殺そうとしてる!?」
予定の時刻よりだいぶ遅く帰ってきた私を心配そうに迎えてくれたアッシュでしたが、私の話を聞くと驚愕の声をあげました。
「確かなのかい?」
「確かに聞きましたわ」
私は込み上げる感情を抑えながら頷きます。
「そうか、君が言うことなら疑う余地はないけれど・・・・・・」
アッシュはお店のカウンターに背を預けます。
「あのロバートが・・・・・・。王国の酒造委員長に就任した人物が、そんなことを・・・・・・」
「ありえない話ではないと思うよ」

「えっ?」
慌てて振り向くと、そこにはなんと・・・・・・。

「ソルガ男爵!」
二週間前にお会いしたソルガ男爵が、店の入り口に立っておられるではありませんか。
「ど、どうしてここに・・・・・・?」
「なぁに、ちょいと買い物ついでにね」
ソルガ男爵は目を細めると、声を潜めて言います。
「店の奥にでも案内してくれないだろうか。あまり人に聞かれるのはまずい話だろう?」

店の奥の事務所にご案内し、お茶をお出しするのもそこそこに、ソルガ男爵は切り出しました。
「さて、単刀直入に申し上げると、私は海上警察としての顔も持っていて、ロバート氏のことを追っていたんだ。やつが酒の先物取引で財を成したことはご存知だろうが、数年前からやつには詐欺の疑いがかけられていた」
「え、ええええー!!???」

怒涛の展開すぎて、頭の整理が追いつきません。

「ソルガ男爵、警察だったんですか?」
アッシュも呆然とした様子です。
「あくまでそういう一面もあるというだけだ。普段はこのように地方の小さな街を治める男爵として、細々とやらせてもらってるよ。あえてこうすることで手に入りやすくなる情報と言うのもあるしねえ。まあ、定期的に仲間が遊びに来がてら報告なんかしてくれるから、これまでに困ったことはないよ」
なんでもないことのように言ってのけるその姿に、私はただただ唖然としてしまいます。

「さて、本題に入ろうか。二年ほど前から、ロバート氏から高値で葡萄酒を買い付けたにも関わらず、そのクオリティに疑問符をつけるレストランが出てきていたんだ。葡萄酒というのはもちろん産地などのブランド的価値もあるから、値段が高いからと言って必ず美味しいというわけでもないのだが、中には明らかに不良品と呼べそうなものが一定数以上混じっていたりね」
ソルガ男爵の話を、私たちはまるでおとぎ話か何かを聞くかのような気持ちで聞いていました。
「そして、これはかなり色濃く囁かれている噂だが、どうもロバート氏が酒の評論家を買収して自分の思い通りの値段がつくような評価をさせるよう仕向けていたとリークもされている。いずれにしてもなかなかにずる賢い男でな、これまで決定的な証拠がなくて我々も手を下せずにいたのだが・・・・・・。クレアさん、先ほどの君の話を聞くに、やつが依頼した人間が明後日の夜に王国管轄の牛舎に忍び込むのだな?あらかじめ来ると分かっていれば張り込んでおいて偶然を装って捕まえることができる。そこからロバート氏の尻尾がつかめるかもしれない。どうだろう、おとり捜査のようなものだ。ぜひ我々に協力してもらえんかね?」
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