”牛追い女”と蔑まれた私 追放されたって長年心をこめて世話してきた可愛い牛たちと一緒なら大丈夫!

マリー

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牛追い女、作戦決行②

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できる限りのカモフラージュはしているけれど、もちろんなるべく誰にも見られたくはありません。
笛を途切れさせることなく正確に吹きつつ、かつ迅速に移動しなくてはいけません。ピリリと緊張感が走りますが、しかし同時に私には未知の冒険に出かけるかのようなワクワク感がありました。
自分で言うのもなんですが、これまで基本的に規律や模範から外れることなくやってきた大人しい人生。初めて平民街にやってきたあの日と同じように、不思議な高揚感がわくわくと私の中に湧いてきておりました。

「よおっし、一丁やってやりま・・・・・・」
「あああっ!クレアッ、ちょっとストップ!」
「ふえっ??」
虚空に向かって意気込んでいた私は、突如叫んだアッシュにぽっきりとくじかれます。
「ど、どうしましたかアッシュ。そんな大きな声を出しては・・・・・・」
「い、いやその・・・・・・。これ見て、牛が・・・・・・」
「へっ?」
アッシュが指差している先には、牛が何頭か集まり何やら樽のようなものに頭を突っ込んでいました。
「な、何をしてるの?」

慌てて覗き込むと、独特の酸味が混じった芳しい香りが、私の鼻腔を満たしました。それはうっとりするような果実感があり、まるで上質な香水のような・・・・・・。
「って、これ葡萄酒ですよー!牛さんっ!葡萄酒飲んじゃだめですー!」
のんびり笛など吹いておられず大急ぎで牛たちを引き剥がしましたが、さすがの巨体。そこにあった大量の葡萄酒は、ほとんど飲みつくされてしまっていました。

「起き抜けに葡萄酒を樽で・・・・・・。切符が良いというか・・・・・・」
「感心している場合じゃありませんわアッシュ!ど、どうしましょう、牛さんってお酒飲んでもいいのですか?それになんでこんなところにこんな葡萄酒が・・・・・・・?」
おたおたしている私たちに、ソルガ男爵が苦笑いしながら言います。
「牛にワインを飲ませることに危険はそれほどないけど、これはおそらく披露宴の際に列席者に振るまおうとして置いておいたお酒だろうね。牛たちはお酒の匂いに誘われて耐え切れなかったんだろう」
「ひ、披露宴のためのお酒・・・・・・?」
(そうか、ロバートさんは自身の成功の象徴として葡萄畑の横で披露宴をしようとしていた。同時に列席者に葡萄酒を振舞おうとしているということは・・・・・・)

私の胸の中に、良くない考えが浮かびました。非常に良くない考えが。
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