”牛追い女”と蔑まれた私 追放されたって長年心をこめて世話してきた可愛い牛たちと一緒なら大丈夫！

牛追い女、日常に戻る④

そう。あの日、まさに私の運命は変わりました。一人で牛と共に生きてきた私が、牛に乗ってやってきた新しい土地で、新しく始めた人生。
彩ってくれたのは、間違いなく目の前にいるこの彼なのです。

「アッシュ、私は、私はあなたが･･････」
たかぶる感情に、言葉がついていかなくなってまいりました。だんだん自分でも何を言っているか分からなくなってきました。でも今さらどうしてよいか分からず、やや焦り気味になってきたところに･･････。

カランッ。
来客を告げるドアの鈴が鳴りました。はっとして、私たちは二人同時に店の入り口を見ます。
「あ、あわわっ。いらっしゃいま･･････、え？」
そこに立っていたのは、およそ一ヶ月ぶりに顔を見るソルガ男爵でした。和やかに笑ってはおられましたが、ややきまずそうな表情をされており･･････。

「ああー。す、すっかりご無沙汰してすまない。そのー、ちょうどロバート氏の調査が一段落ついたから報告に伺ったのだが･･････。ちょっとお邪魔のようだしその辺でちょっと時間を潰してきたほうがよさそうだな？」
完全に苦笑いされています。さっきまでのやり取りを窓から見られていたに違いありません。

「とっ、ととと、とんでもない！」
「そ、そうですわソルガ男爵！私たちは全く構いませんの！！さあどうぞ！」
慌てて男爵を招き入れました。･･････そういえば、窓を開けっぱなしにしていたことに今気が付きました。どうしましょう。もしかして、さっきの会話往来に筒抜け･･････？

（か、考えないことにいたしましょう･･････）

男爵にお茶を淹れつつ、残りの昼食をかき込みます。その間、男爵は店に飾られている品物を興味深げに眺めておられました。
「お待たせ致しました。どうぞおかけになってください」
アッシュが熱々のティーカップをセットします。
「いやはや、悪かったな。食事の途中だったというのに」
相変わらず、なんだか親戚の優しいおじさんのような雰囲気をまとうソルガ男爵です。
「ええと、それで男爵、調査の結果を教えてくださるのですか･･････？」
やや急いた私の質問にも、男爵は優雅に紅茶を一口すすって答えました。

「うむ。この一ヶ月間、ロバート氏追求の捜査本部だけでなく、近隣の署からの応援の手まで借りて多方面からロバート氏を取り調べ、やつの身辺を洗ったよ。そのかいあって、ようやく彼の悪事を八割方明るみにすることができた。まず先日のことについてだが、やはりあやつらは行きずりのコソ泥の仕業と見せかけて王国の牛たちを全て処分してしまおうと考えていたようだ。自身の功績としてこの国の造酒業を成長させるために、伝統的な牛を使っての農耕ではなく馬を大量に導入しようとしていたんだな」