apocalypsis

さくら

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emitte lucem et veritatem

novem

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 薄れていく意識の中、大変ではあるがあの頃よりは遥かに幸せだ、そう思う。そして鮮やかに十年前の出来事が脳裏に浮かんだとたん、意識が途切れた。
 十年前の寒い冬の日、ボストンの片隅で飢えと寒さに震えていた。なぜ自分がそこに居るのかなど分かるはずも無く、生きるだけで精一杯だった。
 ただ一つ分かるのは、自分はそこでは異端だったということだ。子供心にも、他とは違う容姿に違和感を感じていた。ヒスパニック系や黒人ばかりのスラム街にただ一人、白人の子供がいるのだ。それはとても異質なものだった。だが、その容姿はある意味とても重宝がられていた。多少、見た目の良い白人の子供は、警戒心を持たれずに相手に近づく事が出来たからだ。
 親のいない子供達は、生きるためにお互いに身を寄せ合っていた。そして、飢えをしのぐ為に、色々な行為に手を染めた。引ったくり、スリ、置き引きなどを毎日のように繰り返していた。だが、一度も良心の呵責などというものを感じた事はなかった。自分達が生きるための、正当な行為だと思っていた。
 自分の役割は、駅やホテルのロビーなどで、置き引きの為にカモの気を引く事だった。この容姿のおかげで警戒されることなど殆ど無く、いつも簡単に事は済んでいたのだ。
 あの日、駅で目星を付けたのは東洋系の紳士然とした初老の男だった。いつものように、迷子のふりをして男に近づいた。男は特に警戒する様子も無く、話に耳を傾けてくれた。男は手にした鞄をすぐ脇の床に置き、目線を合わせるようにかがんだ。後は、いつも通りの流れ作業で簡単に終わるはずだった。
 鞄が無くなった事に気がついても、男は騒ぎ出さなかった。いつもなら、騒ぎに乗じてその場から消えるのだが、今回は違った。そして男は静かに手を伸ばし、腕を掴まれた。
「あの中には、君たちにとってはただの紙くずにしかならない物しか入っていない」
 男は、綺麗な英語でそうゆっくりと言葉を紡ぐ。
「仕方がない、明日にでも出直すとしよう」
 鞄のことは諦めたのか、腕を掴んだまま男はゆっくりと立ち上がった。これから自分はどうなるのか、そう思うと怖くて仕方がなかった。不安と恐怖で男の顔を見上げた。そのとたん、場の雰囲気を無視したように、空腹を知らせる音が鳴り響いた。男は、穏やかな顔で自分を見下ろすと、掴んでいる腕を手に変えそのまま引きずられるように歩き出した。
 ポリスに引き渡されるのだ。わざわざ危険を冒してまで、助けに来てくれる者などいるわけもなく、もう覚悟をするしかなかった。
 だが予想に反し、男が向かったのは一件のレストランだった。席に案内され、呆気にとられる自分に向かって男はメニューを差し出した。それを受け取り見てみるが、文字など読めるはずもなく、どうして良いのか分からずただジッとそれを見つめているだけだった。
 少しして男はウェイターを呼び、コーヒーを注文した。そして、自分へと視線が移った。その時、よほど困った顔をしていたのだろう。何かを察したかのように、男がいくつかの注文をウェイターに伝えた。
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