146 / 236
date et dabitur vobis
quindecim
しおりを挟む
乾いた声で、何とか言葉を紡ぎだすのが精一杯の事だった。
目の前の天弥の姿に、視線が釘付けになる。想い焦がれる相手ではないのは分かっているが、その相貌には無理やり心を奪われてしまう魅力があるのだ。必死に自分自身を律しながら、どうすれば想う相手を取り戻せるのかを考える。
斎の言葉に天弥は、少し嬉しそうな笑みを浮かべた。その表情が普段の天弥と少し重なり、思わずその身体を抱き寄せてしまいそうになる。
「先生のせいで、僕、凄く苦しいんです」
天弥は、斎に触れている手をゆっくりと動かし始めた。無駄の無い身体の上を滑らせるように、天弥の手が上へと移動していく。白く華奢な手から伝わる熱に、斎の体温も上がる。
「苦しい? 何でだ?」
斎が言い終わると同時に、天弥の指がその首筋に触れた。それはシャツの上から感じた熱や感触よりもハッキリとしたもので、斎の鼓動が跳ね上がる。
「先生が知る必要はありません」
「なぜだ? 分からなければ、どうしようもないだろ?」
目の前で微笑む天弥に、斎は望みを叶えるよりも先に自分が取り込まれてしまいそうになる。自分の理性を保つために、斎は恋焦がれる相手の事を想う。
「必要ありませんよ」
そう答える天弥の指先に少し力が込められる。斎は反射的に自分の首筋に食い込む天弥の手を掴む。
「だって、先生には消えてもらうのだから」
斎の視界に映る麗しい容貌が霞む。さらに力の込められた天弥の手から逃れようと、斎はもがくように自分の手に力を込めた。だが、細く華奢な指は構わず斎の首に食い込んでいく。必死にその手を引き剥がそうとするが、ビクともしない。それは、その細い腕のどこにそのような力があるのかと不思議に思う程のものだった。
苦しくなる呼吸と締め付けられる痛みに、心肺が酸素を求めて悲鳴を上げだす。
「illa me amabat……」
彼女? 薄れていく意識の中、耳に天弥の言葉が響く。彼女とは誰なのか、そして、その未完了過去の言葉が意味するものは何なのか、鈍くなっていく意識に疑問が浮かぶ。
自分の首を締め付ける天弥の手から逃れようと足掻き続けるが、それは叶わず意識と視界が暗くなっていく。
「だ…め……」
意識が途切れそうになった瞬間、新たな言葉が耳に届いた。それと同時に、首を絞める天弥の力が少し緩んだ。何度も否定の言葉を繰り返し呟く天弥の瞳から、涙が溢れ出す。天弥は空いている手で、自分の胸元を掴んだ。
「邪魔しないでください……」
そう言い、自分の中で騒ぎ出した存在を無理やり押さえ込もうとする。一刻も早く事を終わらせようと、天弥は再び斎の首を絞める指に力を込めようとする。
「だめー!」
天弥の搾り出すような叫び声が響いたとたん、斎の首にかかる力が無くなり一気に空気が流れ込む。激しい咳き込みと共に力なくその場に膝を付き、新鮮な酸素を求めて荒く呼吸を繰り返す。
「ご……ごめんなさい……」
謝罪の言葉が聞こえ、斎は気力を振り絞って顔を上げ声の主を見た。まだ意識は朦朧とし、酸素不足だった脳細胞は沸騰しそうなほどの頭痛を訴えている。それでも、不安と心痛に表情を曇らせながら自分を見つめる天弥の姿だけは、ハッキリと分かった。
目の前の天弥の姿に、視線が釘付けになる。想い焦がれる相手ではないのは分かっているが、その相貌には無理やり心を奪われてしまう魅力があるのだ。必死に自分自身を律しながら、どうすれば想う相手を取り戻せるのかを考える。
斎の言葉に天弥は、少し嬉しそうな笑みを浮かべた。その表情が普段の天弥と少し重なり、思わずその身体を抱き寄せてしまいそうになる。
「先生のせいで、僕、凄く苦しいんです」
天弥は、斎に触れている手をゆっくりと動かし始めた。無駄の無い身体の上を滑らせるように、天弥の手が上へと移動していく。白く華奢な手から伝わる熱に、斎の体温も上がる。
「苦しい? 何でだ?」
斎が言い終わると同時に、天弥の指がその首筋に触れた。それはシャツの上から感じた熱や感触よりもハッキリとしたもので、斎の鼓動が跳ね上がる。
「先生が知る必要はありません」
「なぜだ? 分からなければ、どうしようもないだろ?」
目の前で微笑む天弥に、斎は望みを叶えるよりも先に自分が取り込まれてしまいそうになる。自分の理性を保つために、斎は恋焦がれる相手の事を想う。
「必要ありませんよ」
そう答える天弥の指先に少し力が込められる。斎は反射的に自分の首筋に食い込む天弥の手を掴む。
「だって、先生には消えてもらうのだから」
斎の視界に映る麗しい容貌が霞む。さらに力の込められた天弥の手から逃れようと、斎はもがくように自分の手に力を込めた。だが、細く華奢な指は構わず斎の首に食い込んでいく。必死にその手を引き剥がそうとするが、ビクともしない。それは、その細い腕のどこにそのような力があるのかと不思議に思う程のものだった。
苦しくなる呼吸と締め付けられる痛みに、心肺が酸素を求めて悲鳴を上げだす。
「illa me amabat……」
彼女? 薄れていく意識の中、耳に天弥の言葉が響く。彼女とは誰なのか、そして、その未完了過去の言葉が意味するものは何なのか、鈍くなっていく意識に疑問が浮かぶ。
自分の首を締め付ける天弥の手から逃れようと足掻き続けるが、それは叶わず意識と視界が暗くなっていく。
「だ…め……」
意識が途切れそうになった瞬間、新たな言葉が耳に届いた。それと同時に、首を絞める天弥の力が少し緩んだ。何度も否定の言葉を繰り返し呟く天弥の瞳から、涙が溢れ出す。天弥は空いている手で、自分の胸元を掴んだ。
「邪魔しないでください……」
そう言い、自分の中で騒ぎ出した存在を無理やり押さえ込もうとする。一刻も早く事を終わらせようと、天弥は再び斎の首を絞める指に力を込めようとする。
「だめー!」
天弥の搾り出すような叫び声が響いたとたん、斎の首にかかる力が無くなり一気に空気が流れ込む。激しい咳き込みと共に力なくその場に膝を付き、新鮮な酸素を求めて荒く呼吸を繰り返す。
「ご……ごめんなさい……」
謝罪の言葉が聞こえ、斎は気力を振り絞って顔を上げ声の主を見た。まだ意識は朦朧とし、酸素不足だった脳細胞は沸騰しそうなほどの頭痛を訴えている。それでも、不安と心痛に表情を曇らせながら自分を見つめる天弥の姿だけは、ハッキリと分かった。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
霊和怪異譚 野花と野薔薇[改稿前]
野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。
静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。
『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。
一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。
語られる怪談はただの物語ではない。
それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。
やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。
日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。
あなたも一席、語りを聞いてみませんか?
完結いたしました。
タイトル変更しました。
旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる
※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。
本作は改稿前/改稿後の複数バージョンが存在します
掲載媒体ごとに内容が異なる場合があります。
改稿後小説作品はカイタとネオページで見られます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる