apocalypsis

さくら

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alea jacta est

quattuor

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 私服に着替えた天弥は、ホテルの室内に備え付けられている椅子に座っていた。目の前のテーブルには、菓子や軽食、飲み物などが色々と置かれている。夕食をという斎の提案を断ったため、代わりにと途中で買い込んだものを置かれたのだ。
 天弥は俯いたまま微動だにしない。覚悟を決めたはずだったが、いざとなると決心が揺らいでしまうのだ。少しでも動けば、斎からなにか問われるのではと緊張が身体を支配していた。時の流れが早くも遅くも感じる。
 黙って座り込む天弥を、斎は同じく椅子に座り静かに見つめていた。いつ、話が始まっても良いようにと努めているが、楽しい話とは思えない状況に不安がゆっくりと支配していく。沈黙に耐えきれなくなり、斎は立ち上がる。突然、動き出した斎に天弥の身体がビクリと反応した。
「あ、すまん。コーヒーを淹れようとしただけだ」
 無理に話をさせるのもと思い待ち続けるが、少しだけ息抜きが必要となるほど、室内の空気は重かった。
「天弥もなにか飲むか?」
 一応、訪ねてみる。
「はい」
 天弥もこの重みから少しだけでも楽になりたいと思ったのか、斎に了承を伝える。すぐに、備え付けの小さな冷蔵庫から紙パックのオレンジジュースを取り出しガラスのコップに注ぐ。天弥の目にコップを置くと、斎のコーヒーカップもすぐ近くに置かれた。少し離れたところにある椅子を引き寄せ、天弥の近くに腰かけた。
「ありがとうございます」
 目の前のオレンジジュースが入ったコップを見つめる。温度差によって、ガラスの表面に水滴が浮いてくる。
「話すのがつらいのなら、別に話さなくても良い」
 天弥と同じく、斎も悩み考えていた。無理に聞き出し全てを知ったとしても、それで天弥を失うことになるのなら元も子もないのだ。それなら、このまま何も知らなくとも天弥と共に居られる方を選んだのだ。
「でも……」
 不安げな瞳を斎に向けた。
「俺は、お前を失うぐらいなら何も知らなくても良い」
 天弥は俯いた。
「ごめんなさい……」
 ダメだと何度、自分自身に言い聞かせても嬉しさで涙が溢れてくる。だからこそ、決意をした。
「僕……天弥じゃないんです……」
 予想が定まった。今までのことや、本来の天弥の言葉から二人は別人だというのは予想ができていた。だが、この天弥からはっきりと聞いたのは初めてだった。
「そうか……」
 だからといって、今、目の前にいるのが誰なのか正体を問いただそうとはしなかった。せめて名前ぐらいは知りたいと思うが、それもこの天弥を追い詰めることになるかもしれなかった。
「僕……全部、忘れちゃって覚えていないから、天弥の記憶からでしか分からないけど……」
 自然と天弥の手に力が入り、硬く握りしめる。
「僕の名前……由香子なんです」
 斎の表情が変わる。
「女性……?」
 俯いたまま、天弥が頷いた。
「ゆかこ……」
 先ほど、天弥が口にした名前を、斎も口にした。なにか引っかかりを覚え、記憶を漁る。
「……成瀬由香子……?」
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