10 / 36
── 第一章 ──
9.悲しみの公爵閣下
しおりを挟むローエングリン公爵家の、妻&姉妹vs.当主の戦いは、俺も全てを知っている訳ではないが、戦いが終了した後の公爵を見て、恐怖した。
どうやったら、数ヶ月であれ程までに窶れ、10歳以上も老けてしまえるのだ?
結果だけ言えば、公爵の負けであった。が、それだけではない…。戦いが終わった後の公爵は、見るも無惨だった。自慢の髪の毛は薄くなった(様な?)、目の下には隈ができ、酷く窶れていたのだから…。
将来、もし結婚して、俺に妻と娘ができたとしても、敵に回すのは止めておこう。と心に誓った。
それにしても、恐れ入った。“女の一念岩をも通す”とはよく言ったものだ。
公爵に釘を刺されるまでもなく、次兄は、自分では彼女を幸せに出来ないと、初めから諦め、身を引く覚悟でいたのだった。
なのに、そんな頑なな次兄と、父親に次兄との結婚を認めさせたのだから…。
そこまで惚れた女に愛される次兄が羨ましくもあった。
**********
*********
ローエングリン公爵家から手紙を携えた従者が来た。差出人の名前を見たら、ルイーゼではなく、公爵本人からだった。思わず溜め息を吐く。
何ヵ月か前にも、公爵から俺を呼び出す手紙が来ていたからだが、あの時の話は俺が身を引く事で決着が付いた筈なのに、今更何の用があるというのだろう。
そう思い、封を切り手紙を読んだ。
また、呼び出し状だった。
( 一体何なのだ!これ以上俺に何を言いたいんだ!第一、公爵家の邸には、ルイーゼが…彼女がいる。身を引くと言ったのに…俺の気持ちが分かってて…。)
けれど、仕方がない。同じ公爵家でも、建国してからずっとあるローエングリン家の方が格上なのだから…。
急ぐらしいので、明日の午後にでも伺うと手紙に認め、従者に渡した。
そして次の日の午後、気が重い俺の足取りは重かった。
訪問すると、応接室に通された。
ソファーに腰を下ろし、暫くすると、公爵が入って来た。立ち上がり挨拶をしようとした。
が、俺はその姿に衝撃を受けた。あまりの変わり様に、一瞬誰か分からなかったのだ。
何処をどうすれば、あれだけ自信に満ち溢れ、年齢よりも若く溌剌とした公爵が、こんな風になってしまうんだ。
あまりの事に、絶句していると
「…驚き過ぎて、言葉も出ないか…。」
「…いえ…本日はお招き頂きありがとうございます。…ローエングリン公爵閣下におかれましては、ご機嫌麗しく、益々ご健勝の事とお慶び申し上げます。」
何と答えていいか分からなかったが、貴族として、先ずは挨拶だけはしておこうと思った。
「フン!卿には、私がご機嫌麗しく、ご健勝に見えるのか。」
「…申し訳…」
「まぁいい…。こんな事を言う為だけに呼び出した訳ではないのだし…。座ってくれ。」
「はい。」
返事をしてから座った。
「「 ……… 」」
お互いに沈黙したまま時間だけが過ぎた。仕方がないので、何か言おうとした。
「あー…その、先日は済まなかった。」
「…いえ、子を持つ父親として、当たり前の言葉です。お気になさらず…。」
そう言って公爵を見ると、俯いたまま指先が白くなる程、膝を握っている。
と、いきなり顔を上げて、此方を見たので驚いた。眼が合ってしまった…気不味い…。
なるべく平静を装ってお茶を飲む。
「アルフォンス君、先日は申し訳なかった。」
「 !? 」
驚いた。危うくティーカップを落とすところだった。
「君とルイーゼの結婚を認める。是非とも我が公爵家に婿入りしてくれ!」
益々驚いた。これ程までの窶れ様、まさか明日をも知れぬ病なのか?!
「な、何故気が変わったのですか?…まさか…」
「わ、私は、もう、耐えられないんだ!」
「一体、何があったと言うのですか?」
あの冷徹仮面と言われているローエングリン公爵が、子供の様に大粒の涙をポロポロと流しながら嗚咽した。
呆気にとられながらも、何とか宥めて続きを促した。
「涙される程の、何事かがあったのですか?」
テーブルの上に、両肘をつき、頭を掻き毟り、涙を流し、嗚咽混じりに話し出した。
「君に…婿…りし…て、次…期公…にな…資格…し。と言…た事を…その…事で、あ、愛す…つ…と娘が…口を…き、きい…く…なくて…」
そこまで聞いて、公爵が気の毒に思えた。
「さぞ、お辛かったでしょう。」
俺の言葉を聞いて、首を何度も縦に振る。
暫く、そうしていると、泣き止み、落ち着いてきたようだった。
「…ありがとう。大分落ち着いたよ。」
「いえ、お気になさらず。」
「娘しかいなかったから分からなかったが、その…息子がいるのも…良いもんだな。」
鼻水を啜り過ぎて赤くなった鼻と、泣き腫らした眼をした公爵が、照れ臭そうに微笑む。
まさか、そんな風に思って貰えるとは思わず、恐縮してしまうアルフォンスだった。
この日以降、公爵本人が、アルフォンスを、ルイーゼの婿にと、強く望むようになった。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる