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── 第一章 ──
11.とある一日
しおりを挟むとある一日 ━━
あの日、帰宅してから少し熱が出てしまった。ベッドに横たわる俺を、脇に置いてある椅子に座った末弟が、物凄く心配そうに見ている。
椅子の背もたれ部分に両腕を置き、その上に顎を乗せている。いつも大人びた事を言う彼が、年相応に見えて可愛い。
「なぁ。大丈夫なのか?あの家の親娘喧嘩は、半端無いだろ?心配で仕方ないよ。」
「ふっ。大丈夫だよ。ルーイ(ルイーゼ)の拗ねた顔は可愛いだけだし。…ただ、舅殿は…食えないな。俺やルーイより何枚も上手だ。流石、冷徹仮面と言われてるだけあって。」
「…やっぱ考え直さねぇか?アル兄が心配で…。」
「心配してくれて嬉しいよ。だけど、本当に大丈夫だから。」
それでも、不安そうにしている末弟の頭をワシャワシャと撫でる。
すると、気持ちよさそうに眼を細める。まるで猫みたいだ。
ふふふ。と笑いながら癒されていく。確かに、あの舅殿を相手にするのは、骨が折れる。
お陰で、久方ぶりに熱を出す羽目になってしまった。
だが、このままではルーイが気の毒だ。俺と結婚する為に頑張った所為で、今も舅殿からネチネチと仕返しされているのだから…。
それに、折角の二人の時間を邪魔されるのは俺も嫌だし…。
そう言えば…
「ところで、ジジとはどうなってるの?」
!?
「え?いきなり?」
途端に、顔が赤くなる末弟を可愛いと思う。俺とは違って、剣術一筋の彼が恋に落ちるなど、誰が思うだろうか?
正直、俺も思っていなかった。
けれど、彼は恋に落ち、そして俺も恋に落ちた。
やはり兄弟だからだろうか?
他にも男兄弟はいるが、あの二人とはこういう所は似なかったのか…?
まさか、殆ど社交にも出ず、熱を出して寝込んでいるか、父の仕事を手伝っているか、邸からあまり出る事の無い俺が、恋に落ちるとは…。
彼女、ルイーゼを初めて見たのは、デビュタントの時だった。
そう、彼女はまだ13歳で少女と言うには少し幼さの残った、あどけない顔立ちで、物凄く緊張しているのが端から見て分かるぐらい緊張していた。
その日、俺は同じ13歳のフィアーナのデビュタントのパートナーとして舞踏会に来ていた。
会場の入口では爵位の順番に並んで入場を待つのだが、同じ公爵家の彼女が並んでいたのは、俺とフィアーナの後ろだった。
それは、最近できたリンドブルム公爵家と違って、ルイーゼのローエングリン公爵家は建国時からある由緒正しい、家格の高い公爵家だからだ。
ブリュックナー・ローエングリン公爵。冷徹仮面と一部(騎士)の間ではそう呼ばれ、恐れられている彼女の父は、見たことの無い笑顔で娘のエスコートをしていた。
そして、その日から俺は彼女を忘れる事が出来なかったのだ。
父の書類仕事を手伝っている時、ふと手を止めた時など、勝手に彼女の笑顔が頭に、瞼の裏に思い浮かんで戸惑った。
思春期のお子様じゃあるまいし…。と自虐的に笑ってしまう。
けれど、病弱で長生き出来そうにない俺は、この気持ちを彼女に告げる事は出来ない。
その時はそう思った。諦めるつもりでいたのだ。
なのに、あんな事が起きるとは…。
ルイーゼの妹、エリーゼにしつこく言い寄って来ていた男爵家の三男が、彼女を休憩室に引き摺り込もうとしている所に出くわした。
一緒にいた末弟とで助けに入ったので事無きを得た。実は、俺は彼女がルイーゼの妹だと知っていたのだ。だから、何としてでも助けるつもりだった。
しかし、まさかその一件でルイーゼに好意を寄せられる事になるとは思いもしなかった。
おまけに、彼女から積極的にアプローチを掛けられるとは…。
人生の皮肉を呪いたくなってしまった。
いくら彼女に好意を寄せられても、病弱な俺が相手では父親の公爵は結婚を認めはしないだろう事は、想像に難くなかった。
予想通り、公爵から釘を刺された。
『婿養子どころか、次期公爵の資格無し。よって娘に近付くな!』と…。
元より、彼女の事は始めから諦めるつもりでいた事は、この時に公爵に告げた。
その後が大変だった。それを知ったルイーゼに怒られた。泣きながら…。
俺は、彼女の説得を試みたが駄目だった。
そして、彼女は強攻手段(恐攻手段と言ってもいい)に出た。
僅か数ヶ月で公爵は10歳以上も老けてしまった。
俺は、それまでに何度も彼女を止め、説得しようとした。
**********************
━ リンドブルム公爵邸・アルフォンスの部屋 ━
「アル、会いたかった。」
勢い良く腕の中に飛び込んで来るルイーゼ。本当は嬉しい。抱き締め返したくなる。彼女の真っ直ぐさが愛しい。だが、今の俺には残酷過ぎる。
彼女よりも先に死ぬ事が分かっているのに、結婚など出来る訳が無い。
いつ死ぬかも分からないのに…。しかも、跡継ぎの問題もある。
結婚する前から子供の事は諦めてもらわないといけないかも知れないというのに…。
だから、俺は彼女が抱き締めて来ても、抱き締め返さなかった。
彼女が俺に口づけようとしても、身長差があるのをいい事に、避け続けた。
彼女に「私の事が好きじゃなくてもいいから…!」とまで言わせてしまった。
彼女が俺に愛を囁く度に、俺は病弱な我が身を呪った。彼女の気持ちに答えられない事が、情けなくて、苦しかった。
だが、彼女の粘り勝ちだった。
ローエングリン公爵は、折れた。ルイーゼと俺の結婚を認めたのだ。
その時の彼女の言葉を俺は一生忘れないだろう。
「私、きっとアルを幸せにしてみせますわ。」
満面の笑顔で言う彼女。
「もう、俺は既に、貴女に幸せにしてもらっているよ。」
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