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── 第一章 ──
13.最終決戦 ①
しおりを挟むサロンでは、ルイーゼの父親ブリュックナーとアルフォンスがチェスをしていた。
そして、サロンと続きになっているテラスでは、ルイーゼが母親のアガーテとお茶を飲んでいる。
「いいの? あれ。」
母のアガーテが、父親と婚約者に視線だけ向けて聞いた。
「まぁ、たまにはいいんじゃないかと。」
「そう?結婚したらあんな時間いくらでも…って、ルイーゼにも言える事でしたわね。」
そこまで言ってから、娘の婚約者には期限は分からないが、時間が限られていた事を思い出した。
「ごめんなさい。そんなつもりは無かったの。なら、尚更一緒の時間が必要なんじゃないの?」
「それは…そうなのだけれど、アルにもお父様との時間は必要だと思って…。」
結婚式の準備や打ち合わせで忙しくて時間が無い中でも、婿入りする家の家族との時間も必要だと思ったのだった。
そんな2人が剣を交えるとも知らないで…。
ルイーゼは、2人が仲良くチェスをしていると思って、微笑ましい光景と、捉えていたのだが、実は、チェス盤を挟んで向かい合う2人は、最終決戦に向けた水面下の前哨戦をしていた。
そして、お互いの腹の探り合いである。チェスのゲームの進め方で、相手の戦略や闘いにおける考え方等を知る為に対戦していると言っていい。
ブリュックナーは、ヴィルヘルムの二刀流の戦い方を間近で何度も見た事がある。勿論、実戦でだ。
だから、実戦経験の少ないアルフォンスより優位と言える。
筈だった…。
ヴィルヘルムとアルフォンス、2人の剣を見比べる機会が無かった事を後で悔やむ事になる。
そして、アルフォンスは、ブリュックナーへの対策は立てていた。だから、負ける気はしなかったが、当日の体調が一番の不安要素だった。
以前、対戦で死なせてしまったローエングリン家一族の青年を思い出していた。
同じ事が起こらないとは限らない。
大怪我をさせたり、死なせる事になってしまったら…。
ルイーゼを泣かせる事だけは避けたい。と思っていた。
そんな彼も、実戦経験豊富な騎士のプライドと底力を舐めてはいけないと思い知る事になる。
そして、ルイーゼは父親と婚約者、どれほど優しく穏やかに見えても、騎士道とは苛烈を極めた物だと思い知る事になる。
ルイーゼの母アガーテは、過去に類を見ない闘いに驚愕すると共に、歴史の浅いライテンバッハ家に、長い年月でローエングリン家が失った物を見たのだった。
━ 最終決戦の日 ━
ローエングリン(本)家の当主の決闘を見る為に、これまで以上の親族が集まった。
ブリュックナーにしてみれば、自分がアガーテとの結婚をかけた先代との決闘以来である。
自分の時以上に緊張すると共に、当時の先代の気持ちが初めて分かった。
娘の気持ちをおもえば、お茶を濁す事になっても、勝ちを譲ってやりたくなるが、当然、娘に恨まれようとも当主として、何より騎士として、そんな無様な事は出来ない。
だから、一切手を抜く事はしない。全力でいかせてもらう。
上着を脱いで、妻に渡す。アルフォンスも同じ様にルイーゼに渡した。
不安そうな顔をしている彼女に、安心させる為に微笑む。
ブリュックナーとアルフォンス、2人が剣を構えて向かい合う。
緊張感と、2人の纏う闘気で、場の空気が重くなる。
観戦者全員が固唾を呑んで見守る中、試合開始の合図の為のハンカチが宙を舞う。
ハンカチが地面に落ちた時が試合開始である。
そして、それはゆっくりと地面に落ちた。
先に仕掛けたのは、ブリュックナーだった。
激しい打ち込みの連続に、アルフォンスが押される。
が、二本の剣をクロスさせて上段からの打ち込みを受け、押し返す。中段からの切り込みを、長剣の柄の近くで止め、逆手に持った短剣で下段から切り上げる。
ブリュックナーは、止められていた剣を滑らせながら後ろに下がって躱す。
アルフォンスも距離を取り、長剣は中段に、短剣は逆手に持ち、下段に構える。
対するブリュックナーも中段に構えた。
時計回りに、摺り足で、じりじりと移動しながらお互いに、相手の隙を窺う。
今度は、アルフォンスが先に仕掛けた。
長剣が来ると思っていたら、短剣が中段から来た。横跳びに避けるつもりだったが、視界の端に長剣が見えた。後ろに跳ぶ。
「ちっ!」
「驚いたな。てっきり、過保護に育てられたお坊っちゃんかと思えば…何が何が…フハハハ」
ブリュックナーが愉快そうに笑う。それを見てアルフォンスも口角を片方上げ、ニヤリと嗤った。
とはいえ、ブリュックナーも年齢的に、長引けば身が持たない。
だが、それはアルフォンスも同じ。いくら身体が丈夫になってきて、体力が付いたと言っても、幼少時に比べて、である。
当然、長引けば不利になる。
状況が悪くなる前に、決着を着けたい。
だが、相手がそう簡単に勝たせてくれる訳が無い。
勝負に出る為に、お互いに相手の死角と隙を突こうと、睨み合いが続く。
と、またアルフォンスが仕掛けた。
「 ッ!? 」
ブリュックナーは驚愕した。
「なん…だと!?」
「「「「「 !? 」」」」」
ヴィルヘルムでも、1,2度しか出来ないと言っていた技を、アルフォンスが出したのだ。
今、彼の眼にはアルフォンスが2人居るように見えている。
“ツヴァンツィヒ”
確か、彼はその分身技の名をそう言っていた。
それを見るのは二度目だ。
受け切れるか…。
判断は一瞬!!
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