【改稿版】それでも…

雫喰 B

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38. 今、一度の…

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    その夜は、リンジーが使用人達に、「くれぐれも、邪魔をしないように。」と、釘を刺したのと、キースが泊まっている客室に繋がる廊下を、ローランドが見張っていたお陰で二人はゆっくりと話し合う事が出来た。

    その事に気づいていたスージーは、翌日彼にお礼を言ったついでに頼み事をした。

「俺に頼まなくても、キースに頼めばいいじゃないか。」
「兎に角、お・ね・が・い!」

    真剣な表情、強い口調で頼まれたローランドは諦めて引き受ける事にした。

「そんな事よりも、キースとはどうするんだ?」 

    暫く、黙っていたが、顔を上げ彼の顔を見ると、微笑みながら言った。

「この先、一生振り回してやる事にしたわ。」
「…それって…。」
「兎に角、そういう事。」

    それ以上は、言わないとばかりに仕事に戻ったスージーの後ろ姿を見て、キースに同情した。

    が、それでも愛する女とこの先、一生、共に生きていけるキースが羨ましかった。
    昨夜、少しだけリンジーと話をする事が出来たローランドは、彼女に以前のように傍で仕える事を望んだが、断られたのだった。

「あれから、必死に頑張って、立てるようになったの。それに、ほんの少しだけど、歩けるようにもなったし…。だから、もう自分を責めないで欲しいの。」
「俺は…君を傍で護りたいだけなんだ。」
「…だから、償いとか罪悪感だとか…背負わなくていいのに…。どうして解ってくれないの?」
「解ってないのは君の方だろ!償いとか…そんな事で言っているんじゃない!」
「じゃあ、どうしてなの?何でなのか言ってよ!」
「それは…っ!? …」

    ローランドは、それ以上何も言えなかった。彼女を護れなかった自分が、「愛している」と告げる資格など無い。彼女に愛を乞う資格も…。

    だから、せめて彼女を幸せにしてくれる男が現れるまで、彼女を護りたい。それだけだった。

    リンジーは、彼の気持ちが解らなかった。あの事件で負った怪我の所為で、責任を感じているのだと、自分を責めているのだと思っている。

    だから、償いや罪悪感から自分に仕えようとしているのだと、そう信じている。

    『なのに…なんで?責任を感じているのでも、償いでも、罪悪感でもないなら…何なの?』

    そして、あり得ない可能性を思い浮かべるが、それこそ、自分にとって都合の良い可能性で、そんな風に考えてしまう自分自身が嫌だった。

    だから、その可能性を真っ先に捨てた。あり得ないと…。

~~~~~

    キースもスージーも、二人の事を何とかしたいと思っているが、他の人間が間に入る事で拗れる場合が多い。特に色恋沙汰では…。

    だから、もどかしく思っていても、何も出来なかった。
    見守る事しか出来なかったのだった。

    けれど、何とかしたくてスージーが考えたのは、「あの事件の時みたいに、お嬢様を護れないのは嫌だから、剣術や体術を教えて欲しい。」と、ローランドに頼み、リンジーの傍に少しでも長く居る事が出来るようにするという物で、スージーの、ローランドとリンジーを何とかしたいという思いを汲んで、キースが考えたのだった。

    キースが考えたその話を聞いて、スージーは彼を赦そうと思った。
    自分の思いを汲んでくれた彼をもう一度信じてみようと、信じたいと思ったのだ。

    そして、そんなスージーの思いが通じたのかどうかまでは分からないが、リンジーの父・ランドルフが、ローランドを娘の護衛にする事を決めたのだった。

~~~~~

    そして、リンジーが歩く練習を続け、彼女の専属護衛に復帰したローランドがそれを支え、スージーとキースが二人を見守る日々が穏やかに過ぎて行った。

    スージーやキースだけでなく、彼らの周囲にいた使用人達もこのまま、以前のような日常に戻っていけるかもしれないと、淡い希望を抱き始めた。

    が、そんな穏やかな日々に嵐が訪れる。

    それは、ローランドに届いた一通の手紙から始まった。

    リンジー、ローランド、スージー、キースの四人でお茶をしていた時に、それは届いた。

    封筒を開け、取り出した便箋を広げてそこに書かれている文字を追っていくに従って、ローランドの顔が険しくなっていく。

    リンジーは、どんどん膨らんでいく不安に、心がざわざわと騒つき、嫌な予感に不安に駆られる。
    スージーも不安そうにローランドを見ている。
そしてキースも、徐々に眉間の皺が深くなる。

    三人が見守る中、読み終わったローランドが便箋をキースに渡すと、額に手を当て大きな溜め息を吐く。
    受け取った手紙を読み終わった彼も、苦虫を噛み潰したような表情をした。

「何か良くない事でも書いてあったの?」

    恐る恐るリンジーが二人に聞く。それにローランドが答えた。

「砦で、北国から襲撃され、戦闘になったんだけど、捕虜の中に子供が居たんだ。その子供は近くの村の村長夫妻に預けたんだが、俺達がこっちに戻る時に付いてこようとたけど…。反対されて諦めたと思っていたら、家出をしたらしい。」

「「  そんな…。」」

    話を聞いたリンジーとスージーは、その子供を心配して胸を痛めた。
    ローランドも彼女達と同じ気持ちだった。

    だが、一人だけ胸騒ぎを感じて嫌な予感に顔色を悪くしていた。

    キースだけは、言い知れぬ不安に襲われていた。何か良くない事が起こりそうな…。そんな不安を振り払うように、頭を振ったのだった。


    

    


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