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40. 信じたい…信じられない
しおりを挟む真夜中、ベッドの上でリンジーはまんじりともせず、ただぼんやりと天蓋を見詰めていた。
この2~3日、色々な事がありすぎて精神的疲労が溜まっていた。
一番の原因は、リゼと呼ばれている少女の事である。人見知りが激しく緊張しているのだとしても、あの態度は酷すぎる。
ローランドの話では18~19才になるというのに、挨拶もまともに出来ないのはどうかと思う。
やっぱり、ローランドが過保護過ぎるというか、彼女の代わりに言い訳をしているようで、彼がしている事に対して、「何か違うんじゃないの。」と突っ込みたくなる。
「戦場という特殊な状況で保護され、ローランドが親身に世話をしたから、“刷り込み”状態になっているだけ。」だと、キースは言っていた。
でも、本当にそれだけ?
彼女のあの眼は嫌と言うほど、見覚えのある物だった。
王太子の婚約者時代に、貴族の令嬢達から浴びせられた視線。あの眼と同じだと…。
そう思うのは、気にし過ぎなのか…?
「はぁぁぁ…。」
大きな溜め息を吐く。怪我を負った所為なのか、何か嫌な感じというか、嫌な予感がするというか…胸が騒ついて仕方ない。
ローランドの彼女に対する世話焼きにも、何だかモヤモヤして、時に苛立つ事もあるのは焼きもちなのだろうか?
彼女が来るまでは、何だかんだと私に世話を焼いていたのに…。「以前のように護衛に戻してくれと…傍にいて支えたい。」などと言っていたくせに…。
そこまで考えて、ハッと気づいた。
彼女が来たからじゃなくて、護衛に戻れたから私に世話を焼く必要が無くなった…?
しかも、あの少女が自分を追いかけて来た事で、彼の思惑通りに事が運んだから、私の事はどうでもいいと…?
胸が締め付けられるように痛い。が、そう考えればここへ来てからの彼の行動が理解出来る。
やっぱり、“まだ私の事を想ってくれている。”などという馬鹿馬鹿しい考えは、真っ先に切り捨てていて正解だった。
そんな風に思っていたら、もっと傷ついて苦しんでいたかも…。
身体が小刻みに震えるのを止めようと、自分で自分を抱き締めるように両腕を回した。
けれど、震えは治まらない。
やっぱり私への優しさは、見せ掛けだけの紛い物だった。
次々と思い出されるローランドのリゼへの態度や仕草、そして…リゼに向けられる優しい眼…。
どれ1つとっても、(彼が護衛に復帰してから)私に向けられた事は無い。
と言っても、護衛に復帰したのと、リゼが押し掛けて来たのが同じ日だから、どちらが理由かわからないけれど…。
ひょっとしたら、両方かもしれない。
そう考えたら、両方のような気がしだした。
胸が苦しくて、涙が出てくる。
でも、ローランドを信じたい…けれど…信じられない…。
これ以上考えると、どんどん悪い方に考えてしまいそうだから、もう何も考えたくない。
そう思って、眠ってしまいたくて、強く眼を瞑った。
~~~~~
「お、お、おお、お嬢様ッ!どうしたんですか?!」
翌朝リンジーを起こしにきたスージーの第一声がそれであった。
『あ、やっぱり?』
起き上がり、座ったまま両手で顔を覆う。
「も、やだ…。」
顔を見なくても、容易に想像出来る。
これ以上無いほどに腫れ上がった眼と、目の下の隈…。
慌てて、バスルームがある方へ走った彼女が、タオルと盥を持って戻ってきた。
盥の中にタオルを沈め、軽く絞って広げるとリンジーの眼の上に乗せた。
「…お一人で、抱え込まずに…無理だと感じたら、私には言って下さいませ。いつでも飛んできますから…。」
「…ありがとう。心配かけてばかりでごめんなさい。」
「謝らないで下さい。辛くなってしまいます…。」
「そう…ね…。」
暫く、沈黙が続いた後、
「あの小娘の事ですわね。お嬢様…それと…あのバカ!」
「いいのよ。私が勝手に信じて、勝手に傷ついているだけだから…。」
「でも…。」
「本当にいいのよ。」
スージーにも、ローランドが何を思ってあのクソガキを甘やかすのか解らなかった。
が、あの小娘が押し掛けて来てからの彼の態度は、直前までリンジーに接していた態度よりも甘いように感じてならない。
そして、それをいい事にリンジーに対して礼儀を欠きすぎている。
「あのクソアマ、絶対ぬっころ…」
ゲフゲフゴホ…『危うくお嬢様の前で、汚い言葉を吐いてしまうところだったわ…。』
「今、なんて?」
「いえいえ、何も言ってないですよ。」
「そう…?」
「何か言ってたと思ったんだけど…。」などと、リンジーがぶつぶつ呟いている。
『 ヤバかったわ。』
けれど、あの少女、リーゼロッテには要注意だ。
昨夜、話をした時のキースの言葉を思い出す。
「保護したと言っても、戦闘に加わっていて、本当は捕虜になるところを、マズいから近くの村に預けたんだ。妹も居たし…。」
そして、彼は怖いほど真剣な顔をして、暗器を渡してきた。
金属製の飾りのように装飾を施されたそれは、ノック式の筒状の物で、上部を押すと小さなナイフのような刃が出て来る。そして、その刃には死なない程度の毒が塗ってあるという。
「怖くて受け取れない。」と言うと、「リーゼロッテは戦闘に加わっていたって言っただろ。」と言われた。
一瞬、意味が分からなかったが、14才で戦闘に加わり、警備隊の騎士とやり合って生き残った。という意味だとわかった時、ブルッと身体が震えた。
「スージーの大事なお嬢様を護りたければ持ってろ。」
と言われ、今も持っている。
そして、彼が自分の部屋に戻る前に言った言葉に血の気が引いた。
「リーゼロッテのローランドに対する執着は…度を越してる。それと…お嬢様を見る目つき…。俺の取り越し苦労だったらいいんだが…。」
お仕着せの上から、暗器に触れる。
「今度こそ…!」
『 前回の轍は踏まない!』
心の中で強く誓うスージーだった。
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