【改稿版】それでも…

雫喰 B

文字の大きさ
43 / 60

43. 兄弟

しおりを挟む

    弟とキースが部屋を出て行った後、部屋の灯りをベッド脇のサイドボードに置いてあるキャンドルライトだけにして、窓辺に行った。

    空を見上げると、半月よりも少しふっくらした形の月が西に傾いていた。

    昔、と言っても、学園に通う前の事なのだが、夜中に眠れなくて、窓辺で空を見上げて月を眺めていた事があった。

    リンジー様の事を考える。
    
    彼女が生まれ、俺達兄弟が初めて会いに行った時の事は、今でも鮮明に思い出せる。

    それまでに見たどの赤ちゃんよりも、一番可愛かった。
    本当は、俺達兄弟のが彼女の婚約者になると言う話だった。
    
    俺とローランドは、その小さな手が可愛いくて、指で擽るように触ったりしていた。
    そうすると、指を握ってくるのだ。       

    指を握られると、何とも言えないむず痒い感じが胸に広がる。

    だが、俺の指は離すのに弟の指を離そうとしない。
    帰る事になっても離さないから、無理矢理離すと、火が着いたみたいに大泣きする。
    困った弟は、もう一度自分の指を握らせるとピタッと泣き止み、ニッコリ笑う。

    その様子に、両親とお館様夫妻が頷き合うのを見た俺は、何故か物凄く嫌な予感がした。

    そして、その予感は的中する。

    弟がお嬢様の婚約者に決まったのだ。俺は、目の前が真っ暗になった。
    両親に必死で頼んだ。弟ではなく、俺をお嬢様の婚約者にしてくれと…。

    だが、その願いは叶えられなかった。

    それはこの土地を護る為の、昔から繰り返された儀式だったからだ。

    強い血を残す為に、何の思惑も絡まない、本能が選ぶ最も伴侶となるに相応しい相手を選ぶ、神聖な儀式“結魂(結ばれるべき魂を選ぶ)の儀”と呼ばれるものだと知ったのは、かなり後の事だった。

    そして、婚約者が死ぬ事以外では、王族だけがそれを覆す事が出来る。

    だから、お嬢様がランディ(元)王太子の婚約者に決まった時、弟との婚約者は無かった事にされたのだ。

    それ故に、王太子の婚約者でなくなった現在、いくらお嬢様が婚約を拒否していたとしても、未だ弟は婚約者のままだという事は、暗黙の了解として一族の間で周知されている。

    だから余計に腹が立つ。

    あいつがお嬢様の傍を離れ、戻って来たと思えば、災厄を招き入れただけでなく、中途半端にお嬢様とその災厄であるリーゼロッテ、そのどちらにも心を砕いているという事に…。

    お嬢様の事だけを護衛するからこその専属であるにも拘わらずだ。

    専属護衛としての責任を果たす事で、リーゼロッテがお嬢様に危害を加えるのならば、排除すればいいだけの事なのに、中途半端な事をしている。

    一体誰の為の専属なのか?
    何の為の専属か分かっているのか?

    その事は、俺だけでなく、一族の間でも問題視されだした。
    だから俺が、ここへ来なければならなくなったというのに…。

    ふと、視線を感じてそちらを見た。

    眠れなくて、同じように月を見ていたのだろうか?
    窓辺にいるお嬢様と眼が合った。と思ったら、その姿はすぐに消えた。

    胸にズキッ!とした痛みが走る。
    
    『俺ならば、あなたにそんな顔をさせないのに…。』

    許されない想いに胸が苦しくなる。

    なのに、お嬢様を悲しませるような事をしている弟が、俺がどれ程強く望んでも叶わない位置に居続けている。

    その事を羨み、嫉妬と憎しみに苦しむ俺の気持ちなど知らないまま…。

    そして俺はまた眠れない夜を過ごす。

~~~~~

    昨日、今後の事を話し合い、“お嬢様に対して害を与えるならば、リーゼロッテを排除する”という方針に、ローランドが「一晩考えさせて欲しい。」と言ったので、答えを聞く為に俺が泊まっている部屋に呼び出した。

「さぁ、答えを聞こうか。」

    まだ迷っているのか、何か言おうとしては黙り込むのを繰り返す。
    決断させる為に言った。

「お前はまだ分かっていないのか?前回、お前の中途半端な態度が、お嬢様の心も身体も深く傷つけた事を忘れたのか?」 
「けど、だからと言ってリゼを…。」
「今度は永遠に失ってしまうつもりか!!」

    苛立った俺は声を荒げた。

「 ッ!? 」
「口先だけなのかお前の気持ちは!!」
「… そんな事は…!」
「ならば見せてもらおう。お前の心根とやらを…!」

    そう言って、ローランドを下がらせた。
    入れ違いにキースが部屋に入って来た。

「やっぱり、捨てきれなかったみたいですね。」
「キース、すまないがあいつのフォローを頼む。このままでは、最悪の事態になりかねない…。」
「了解。けど、俺納得出来ないですよ。」

    そう言って、キースは下がっていった。

    扉が閉まるなり、拳で机を殴った。

「俺だって納得などしていない!」

    誰に聞かせるともなくそう呟いた。

    





    

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

契約結婚のススメ

文月 蓮
恋愛
 研究一筋に生きてきた魔導士のレティシアは、研究を続けるために父に命じられた結婚をしかたなく承諾する。相手は社交界の独身女性憧れの的であるヴィラール侯爵アロイス。だが、アロイスもまた結婚を望んでいなかったことを知り、契約結婚を提案する。互いの思惑が一致して始まった愛のない結婚だったが、王の婚約者の護衛任務を受けることになったレティシアとアロイスの距離は徐々に縮まってきて……。シリアスと見せかけて、コメディです。「ムーンライトノベルズ」にも投稿しています。

恋は、やさしく

美凪ましろ
恋愛
失恋したばかりの彼女はひょんなことから新橋の街中で上司にお姫様抱っこされ……!? ――俺様な美形上司と彼女とのじんわりとした恋物語。 性描写の入る章には*マークをつけています。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...