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カモミールティー
しおりを挟むその後、他のクラスのテストも返し終わったが、放課後までの間に数多くの採点ミスを指摘する生徒が職員室を訪れた。
「珍しいですね、姫神先生がミスするなんて」
目の前のデスクにいる碓氷がボソリと呟いた。
「あはは...」
採点に集中出来なかったとは言え、ここまでミスするものかと自分でも呆れてしまう。
いつもきっちりときまった七三スタイルと細いフレームの眼鏡、キリリとした冷ややかな目。
碓氷はこんな単純なミスを起こさないだろうな。
パソコンを険しい顔で見詰めながら珈琲を飲む姿は、気難しい男そのものだ。
彼は恋人とかいるのだろうか...ただでさえ神経質で硬派なのだから付き合うのは中々難しそうだが...。
そんなことをぼんやりと考えていると、職員室に入ってきた若王子にふわりと微笑まれる。
うっ...胸が苦しい。
今日はピアス着けてるのかな...。
日曜の帰り際にキスされた時、ピアスはあたるし、キス上手だし本当に蕩けそうだった。
やばい...思い出すだけで身体が...
「若王子先生...何か今日の姫神先生変じゃないですか?」
碓氷の小さな呟きが耳に入り、現実に引き戻される。
「姫神主任、体調悪いなら保健室に連れて行きましょうか?」
「いや!大丈夫だよ、ちょっと疲れてるのかな...」
若王子に関しては絶対に良からぬことを考えているのだろう。
「月曜からお疲れなんて...ちゃんと休まれてるんですか?」
眉間にシワを刻んだ碓氷がこちらを睨み付けると、うっ、と言葉を詰まらせた。
金曜、土曜と若王子と一緒に寝た時は朝までぐっすりだったし、夜も余計なことを考えずに眠れたけど...1人になった瞬間色々なことを考えてしまって眠れなくなる。
それを見透かすように指摘されれば、なんの否定も出来ない。
「碓氷先生の言う通り、実は最近よく眠れていないんだ...」
「ちゃんと休まないと、日中に考えなくてもいいことを考えますし、ヒューマンエラーに繋がりかねません。これ、差し上げますから」
「......?カモミールティー?」
デスクの上に置かれた、まだ手の付けられていないお茶の箱を見て目を真ん丸くする。
「...最近、お疲れだったみたいなので...」
眼鏡をくい、と上げた彼は照れ隠しなのかすぐ様パソコンに目を向けてしまう。
や、優しい...!
私のために買ってくれたんだ!
「ありがとう、調べて飲んでみますね!」
「...主任、僕からも」
すっ、とデスクの上に置かれたミルクチョコレート。
君は何故対抗するんだ。
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