【本編完結】ベータ育ちの無知オメガと警護アルファ

リトルグラス

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その後とこれから・END

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 今日は大学受験の合格発表日。

 今どきはネットで合否が瞬時に解るありがたいシステムのおかげで、慶介と酒田は家のダイニングテーブルでスマホを前にその時が来るのを白い顔で待っている。


ーーこの半年間、しんどかった。


 酒田と過ごしたお家ヒートのあと、夏休みに入って本多本家、本多分家、酒田家、永井家の4家が集まり話し合いの場が設けられた。
 そこで、慶介と酒田が番わないまま結婚する話が了承され、永井が慶介の補佐に入ることが決まった。


 永井家は最後まで番わない結婚に反対し、特に永井の母親が運命であるはずの永井と慶介は番うべきだと主張し続けた。
 どうやら永井はオメガの姉が2人いる3人目の末っ子で、母親にとっては待望のアルファの息子だったようだ。
 子供の頃からアルファ性の気性が強い永井は本家のお祖父様に気に入られていて、慶介と会う前は本家のオメガに婿入りする話もあって、永井の将来は立派なものになるはずだったのに。と、食い下がり続ける母親に、最後は永井が一言。

「俺が諦めてるんだから、母さんも諦めてくれ。」

 と、トドメをさした。消沈した永井の母親はそこで途中退席した。

 次に話し合ったのが、慶介と酒田の結婚についてだ。
 いつ結婚するかについて、高校卒業後という意見には「早すぎるんじゃ・・・」と慶介はベータ育ちらしいビビり方をした。
 結婚のタイミングは、基本的にアルファ側が大学を卒業し就職先が決まった所で結婚するのが一般的なのだそうだ。高校卒業のタイミングで結婚するのは3割程度で、一番多いのが大学卒業後なのだから、慶介たちも大学卒業後でいいのではないか。と意見がまとまりかけたところに、父の信隆が難癖をつけた。
 酒田の稼ぎで慶介を養えるのか?と遠回しな表現で貶し、警護体勢は今の状態を維持したほうが良いのでは?などと、結婚に反対したいかのような事を言いだして、話題を変えるために「そもそも、どちらの名字になるのだ?」と誰かが言った。これも信隆以外は、慶介が酒田に嫁入りで良いではないか。と話し合いの必要もないほどにまとまっていたのに、信隆があれこれと小難しい言葉で反対し、

「すまん。弟は子離れができそうにない。酒田、ウチに婿入りしてくれ。」

 と、景明が頭を下げて決着させた。

 最後に、永井と慶介の恒久的な協力体制について話し合うはずだったのだが、永井が「俺は慶介の補佐に入る」と宣言した。

 元は、衝動の制御に苦心していた永井に水瀬が、未練と期待を断ち切るために警護という立場になってみないか?と持ちかけた提案だったそうだ。

「慶介くんとの距離感や接し方で警護という明確な基準あれば、迷いが生じにくくなるかも知れないと思いまして。それに、ラット化した永井の襲撃に備えるよりも、永井自身を躾け直すほうが楽です。警護として側に置けばフェロモンの問題も解決する。一石三鳥だと思いません?」

 と、水瀬は言った。

 ラット化で苦しんだ去年を踏まえて、実験的に夏休みの間、永井と同居する事になった。
 身構えていた皆の予想を裏切り、永井はラット化のラの字も見せない落ち着きぶりを見せ、これなら大丈夫だろう。と皆を安心させた。
 この結果は、景明と水瀬から警護としての心得や動きなどを学び、薬を抜いたフェロモンコントロールと威圧コントロールの特訓をした成果かもしれないが、「一番は柔道ができている充足感のおかげだろう」と景明は分析した。

 夏休みの状態があまりに良かったので、永井を補佐にしての同居が高校卒業後からではなく夏休みからに前倒しされた。
 引っ越しした次の家はマンションの1フロアが1住戸というタイプになって、全員の部屋が広くなり、永井だけではなく、酒田家からは家令の爺やと、水瀬の伯父夫夫がが補佐に増え、同居人は10人の大所帯になった。
 慶介は「大家族だ~」と驚いたが、一般的には10人が最低ラインで、伯父夫夫が若ければ更に警護と補佐が3人ほど増えて、その補佐が番であれば、さらに補佐が増えて・・・と、オメガが入る度に人数が増えていきバース性は基本的に群れを形成するものなのだそうだ。マンションの1フロアどころか、3フロアが1つの群れというのもザラだとか。


 環境の変化と供に慶介たちの生活も大学の受験勉強一色になる。

 最初、番わない結婚をする慶介が考えていた職業は翻訳かプログラマーだった。
 興味があるわけではなく、ただ在宅で出来る仕事で一番可能性がありそうだったからだ。学校も専門学校、なんならオンラインスクールでも良いと言ったら、皆から、フリーのオメガが自由に行動できるのは大学までだから卑屈にならずによく考えなさい。と言われてしまった。
 しかし、慶介との結婚が決まった酒田が、大学卒業後は景明のいる警備保障会社への就職が内定し、そのために、大学では経営を学ぶため経済学部を受験しなければならない。すると、酒田が慶介の警護を続けるためには、慶介の方が興味も必要もない経済学部を受けなければならなくなり「ま、仕方が無いか」と諦めかけた時、永井が挙手してこう言った。

「俺の志望大学を受けるなら警護を請け負っても良い。」

 一般的にバース性が大学に行く理由は大きく2つ、就職と社会勉強だ。
 ベータと同じで大学には就職を見据えた勉強をしにいく。酒田のようにコネ入社が決まっているアルファは出された条件やスキルを身につける必要があって大学に入る。
 もう一つの「社会勉強」は特に重要で、バース社会が幼稚園から高校まで私立の学校に囲っていた子ども達をベータ社会に慣れさせなければならないのだ。慶介が転校してきてから味わったような、常識の違いや社会通念、暗黙のルールなどベータが大多数を占める社会に入って行くための大事な学びの4年間になのだ。
 そういう意味では、ベータ社会を十分に知っている慶介は大学に行く必要が無いとも言える。だが、永井は慶介の希望する学部を受けてもいいとも言った。

「何の学科でも良いのか?哲学とか天文学とかでも?」
「医学部だけは止めてくれ。柔道がやりづらい。それ以外ならどこでもいいさ。何であろうと糧にしてやるし、必要なら大学は入り直せばいい。」

 太っ腹~、と思ったら、永井の志望大学は関西でも5本指に入りそうな難関大学だった。
 しかも、永井はその大学の中でも偏差値60超えの法学部を受ける予定だったのだとか。

 慶介がその大学の偏差値が低い学部を調べようとしたら、水瀬の伯父夫夫に「司法書士の資格がとれたら水瀬の事務所で雇ってあげる」と言われ、あれよあれよと言う間に慶介は永井と同じ偏差値60超えの法学部を受験することになってしまった。
 酒田も受けようと思っていた安全圏の大学ではなく難関大学の経済学部を受験することになり、慶介と酒田は模試E判定をA判定にするべく、イチャイチャする暇もなく、受験勉強に明け暮れた。



「あぁ~~、いっそ2人とも落ちてればいいのに~。」
「馬鹿言うな、せっかく受かった俺が損じゃねぇか。」
「合否まだ出てないのに、受かった気でいるお前の自信なんなんだ・・・。あと、慶介。落ちたら今年1年間、浪人生としてこの半年と同じことしなきゃいけないんだぞ。俺はもう嫌だ・・・勉強したくない。」

 慶介が落ちた場合は永井も浪人生となる事が決まっている。酒田は3人の中でも点数が低く、慶介はB判定まで伸ばしたが酒田はC判定止まりだった。落ちる確率が一番高いのは酒田だ。

 白い顔した2人と違って、永井はテレビ前の筋トレスペースで暇つぶしにダンベルを持ち上げどこかの筋肉を鍛えている。
 AIスピーカーから設定したアラームが鳴り、ついにその時がきた。

 永井はすぐさま番号を入力して「ッシャ!」と力強い声と小さめのガッツポーズを決めた。
 その勢いに乗ろう!と思えない程度には自信がない2人はスマホを触ることすら出来ない。酒田は腕を組んだまま天を仰いでいるし、慶介は机に突っ伏して、現実逃避をしている。

「はやく、結果を見ろって。」
「シュレーディンガーの猫だっ!観測者が見なければ未来は決定されないッ!!」
「アホなこと言ってないで、さっさとしろ。俺がやってやろうか?!」
「やめろぉぉーー!!」
「酒田もはやく・・・番号入力してんじゃねぇか。何してんだ?その下のボタン押せば合否でるぞ?」
「あ、ああ・・・。ほら、あれだ。サーバーにアクセスが集中すると向こうが困るだろうと思って、ちょっと待ってるんだ。」
「くだらねぇ言い訳してんじゃねぇ。」

 決心がつかない2人は、何故かお互いの合否を見てあげる。という形で確認をすることになって「せーの」の掛け声でボタンを押した。
 無事、2人とも、合格。
 一方は歓喜の声を上げて、一方は安堵のため息をついて、合格を喜びあった。


 合格祝いの外食は熟成肉のステーキだった。
 慶介は「寿司!」と言ったが、永井が「肉!」と言って、意見が割れた。

「こういう時はオメガの意見を採用するんだろ?!」
「ハッ!国際大会の祝いも兼ねてるなら今日は俺が主役だろ。」

 永井は2週間前にフランスで行われた柔道の国際大会で2位を取って帰ってきた。十分に素晴らしい成績だと思うのだが本人は「優勝できなかった!1位以外は意味がない!」とご立腹だったのでお祝いムードにならずお祝いは延期していたのだ。
 最終的にはジャンケンで決めたが、永井が負けるはずがなく熟成肉と相成った。


「受験と柔道を両立させるんだから、永井はすげーやつだよな。」
「乗り換えるか?」
「はぁ~?少なくとも、こういう時に寿司を選んでくれねぇ男はお断りだ。」

 慶介は、帰りの暗い車内の闇に乗じて酒田の太ももを指で突いた。酒田は黙って手を出してくれる。
 小指で親指の輪郭を確かめるようにスリスリと撫で、指の腹を合わせるとそこだけ汗でしっとりと湿っている。手の平の生命線を辿ったあと、すべての指を指の間に滑り込ませると酒田の手がキュッと握ってきて恋人繋ぎになった。

 この半年、ヒート以外でセックスはしていない。抜きあいくらいならこっそりしたけど、至れり尽くせりのサポートをしてくれる家令の爺やと水瀬の伯父夫夫は監視の目も鋭かったから、本当に、暇があったら勉強しろ。という感じで酒田をベッドに誘うことすらできなかった。
 試験後の開放感で1回だけしたけど、溜めてた性欲を解放しただけみたいな荒々しいセックスだった。

ーーなんていうか、こう、イチャイチャがしたい。

 ヒートではどうしても腹痛の心配があるから酒田が慶介にご奉仕的な感じになりがちだ。もちろん、気持ち良くしてもらうのは好きたけど、自分も気持ち良くしてやりたいと思う。
 などと、考えているうちに家に着いて、車から降りる時に酒田の手をとって、もう自然とエスコートを受けるのが当たり前になっている自分に気がついた。

「どうした?」
「いや。・・・なぁ、酒田。」
「ん?」
「今日、セックスしようぜ。」

 酒田の左手を握り、指輪のない薬指にキスをして誘う。
 警護モードの酒田は口角をちょっと上げるだけで動揺は見せない。余裕があるというよりは感心がないようにも見えたのでムッとなって、更に煽ってやろうと、指輪を通したネックレスのチェーンに指を引っ掛け、耳元でこう囁いた。

「そんで、フェラ、させてくれよ。」

 バッと体をのけぞらせた酒田は、耳を押さえ、顔を真赤にして警護モードはすっかり消えて、動揺しまくりの顔は言葉を失い、目がキョロキョロする。
 たまらず、ニヒヒヒッと笑うと髪をぐしゃぐしゃにされてしまった。


 こういう所が可愛いんだよな。
 はぁーぁ、ますます好きになっちゃうぜー。













 ・・・END



***

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