4 / 102
酒田
しおりを挟む酒田家は江戸時代から続くアルファの家系で、同じアルファ家系の本多家の補佐を代々、勤めてきた。
なんて、今どきそんなものは流行らないと言いたいところだが、本家同士ではまだ続ける様子だ。分家の俺には関係ない話しだと思っていたのに「本多のオメガの警護についてくれ」と、言われたのは3日前。
「はあ?オメガと同居っ!?そ、そんなんっ、家族でもないのに出来るわけなやないですか!いや、その、警護なら、耐えっ、耐えてみせますけど・・・。」
5,60年前、最下層の地位にいたオメガは、現代においては家の宝のように扱われる。
ひとえに、バース性の人口が激減したからである。
太古から紀元前頃まで、バース性は強い支配力を持っていたと思われる。しかし、数を増していくベータにバース性は押されベータ社会になると、世界各地オメガの立場は弱くなった。
男尊女卑の価値観のさらに下にオメガは置かれ、アルファは支配者層に残った。
日本で言うと武士の時代、多くの武家はアルファ性でオメガは強く優秀な子を産む腹として掻き集められ囲われた。
戦がなくなると腕っぷしの強さや優秀な能力のアルファよりも根回しや談合の上手いベータが要職を抑えるようになり、オメガの価値はさらに落ち、性風俗産業の商品にされた。
番をもって人並みに幸せを得られるのは運の良いオメガだけになっていた。
武士の時代から文明開化の切り替わりに活躍したのはアルファ達であった。西洋文化も輸入され、華族制度の中でオメガはアルファを産む愛人やお妾として地位が持ち上がる。
しかし、世界大戦をへて社会が画一的な労働力を求める高度経済成長期になるとヒートを抱えるオメガは社会から弾き出され、社会の貧困層に落ちていく。
ヒートで人を惑わすオメガと、そのヒートに惑わされるアルファは頭のイカれた病気だと、害悪のように言われ、アルファですらバース性をひた隠しにし、オメガは体を売るしか生きられない。
高度経済成長期からバブル景気に浮かれるまでの時代をオメガ暗黒時代と呼び、歴史で学ぶ。
バブルが弾けたあとの不景気で、社会が実力主義になると、再びアルファ性が頭角を表し、財界や政界で世界を牛耳る力を持ち始めるが、オメガの地位は向上しなかった。
何世紀も続くアルファ至上主義は根強く、アルファはアルファと結婚し、裏でオメガの項を噛み、孕ませ、子を取り上げ、番を逃げられない鎖として飼った。
アルファ達が強い危機感を覚えたのは、バース人口の出生割合が0,1%を切ってからだ。
ベータと交じると血が絶える。と言う程にベータとの間にバース性は産まれにくい。また、アルファ女性の自然妊娠率は低く、ベータ女性の5分の1とされ、2人産んだら「良くやった!」と言われる。
このままではバース性が絶えてしまうかもしれない。そんな危機感は日本に限らなかった。アメリカでも番至上主義の人権運動が始まり、オメガの地位向上の流れが出来る。
流れを受けて日本でも番至上主義が浸透し、アルファ・オメガを障害者認定し抑制剤などの医療費控除をした。オメガのヒート時における有責をベータやアルファ側とする裁判所の判例がだされ、アルファの番解消は「未必の故意による殺人」という判例で、オメガはついに人権を取り戻した。とも言われた。
それからはオメガの保護と争奪戦が始まる。番至上主義の気風の中では番のいないアルファは負け犬とされ、どんなオメガでもいいから番になってくれとアルファが探し回った事で、結果的に貧困層のオメガが多く救い上げられる事に繋がった。
だが、全てのオメガが納得していた訳ではない。という事実を忘れてはいけない。と現代のアルファたちは教えられる。
オメガが貴重な存在になると誘拐や連れ去りが問題になるようになった。年齢を選ばず、番の有無も問わず攫われて、闇世界で売られ、繁殖用にされる。
オメガを守るためアルファたちは警察や公務員、医師、児童福祉士たちによる「個人的繋がり」のアルファネットワークを作った。
このアルファネットワークは人身売買組織を日本から追い出すことに成功する。
現代ではアルファとオメガの立場は逆転し、アルファはオメガに選んでもらうために必死だ。
第2性が判明したらすぐに婚約を申し出たり、アルファの我が子にはオメガを大切にしなさいと刷り込むように教育する。そうして子どもの頃から過保護に守られ甘やかされているオメガは無意識に我が儘っ子になった。
オメガの可愛い我が儘を聞くのはアルファの甲斐性とされ、その代わり、オメガには3人以上の子供を産んでもらうのだ。
「訳ありのオメガでな。」
そう言って、柔道の師範でもある本多景明さんがタブレットで人物の資料を見せてくれる。だが、住所氏名年齢くらいしか書かれていない。
「田村慶介16歳。同い年ですか。父親は本多で、母親は田村・・・ベータ女性・・・。え?ベータからバース性って産まれるんですか?!」
「自然妊娠で3つ子を産むくらいの低確率でありえる話らしいぞ。」
「へぇ~。このオメガ・・・住所が滋賀県になってますね。引きこもり?・・・いや、苗字が田村ということは母親が育てたんですか?オメガを?・・・あ、違う、オメガだと知らなかったんですね。最近になってヒートが来て発覚ですか?」
「おぉ~、正解。田村慶介とあるが、血縁上の父親である弟と養子縁組をしたから今は本多慶介だ。2ヶ月前に初ヒートが来て、本人が第2性対応病院に電話。そこから役所のバース課に相談のSOSが入って、アルファネットワークで調べたところ、母親が弟の元愛人だった事からDNA鑑定して確定した。母親の托卵が4歳のときには発覚しており、肩身の狭い思いをしてたようや。特に祖母との関係は悪く、父親が別れ際、守ってやれなくてすまなかったと謝っとったわ。と、まあ、つい2ヶ月前までベータ社会で男性ベータだと思って生きてきた何も知らん、無知なオメガのこいつの警護を頼みたい。」
改めて資料を見る。遠距離から取ったらしき写真があり、スワイプで捲る。
身長は高めで体格もしっかりしている。オメガだと言われても一瞬信じられない。ネックガードも無しに自転車通学している写真には危機意識が無さすぎだろうと唖然とする。
学ランを着て友人らといる時の写真の表情の明るさに対して、病院の待合で母親と並んで座っている時の表情の暗さが彼の境遇の辛さを表しているようだった。
「俺が断ったら・・・」
「慶介が転校するクラスの風紀委員が木戸とか言う、区役所バース課の職員の知り合いがいるらしいから、しばらくはそいつに頼むことになるか。木戸、知ってるか?どんな奴や?」
「社交性が高くて、誰とでも上手くやれる優秀なアルファです。欠点は身長が低くて体が小さいということくらい。頭脳派の勝ち組アルファって感じです。」
「そいつ、婚約者はいるんか?」
「いますよ。・・・本多さん、俺、警護引き受けます。」
「やってくれるか。教育係は別につけるつもりやけど、お前にも担ってもらうことになる。常識が通じんから相手は大変やと思う。」
「はい。」
「警護とは言うたが、仕事や無いからな。慶介のこと口説いてもええぞ。」
ニヤリと笑う本多さんに苦笑いしか返せない。「負け癖のついた補佐アルファ」と呼ばれ続けた酒田勇也だが、降って湧いたチャンスに少し浮き立ち、心にアルファの本能がくすぶるのを感じた。
***
24
あなたにおすすめの小説
もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?
藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。
なんで?どうして?
そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。
片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。
勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。
お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。
少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。
(R4.11.3 全体に手を入れました)
【ちょこっとネタバレ】
番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。
BL大賞期間内に番外編も完結予定です。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
運命よりも先に、愛してしまった
AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。
しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、
2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。
その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
泡にはならない/泡にはさせない
玲
BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――
明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。
「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」
衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。
「運命論者は、間に合ってますんで。」
返ってきたのは、冷たい拒絶……。
これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。
オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。
彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。
——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる