【本編完結】ベータ育ちの無知オメガと警護アルファ

リトルグラス

文字の大きさ
70 / 102
結婚式編

結婚式編:フェチズム

しおりを挟む

 その日の夜、酒田のプレゼンでガーデンウェディングにOKが出て、信隆も本家と交渉して祝言の結婚式に両家の親族が出られるように許可を貰っていた。



「慶介、酒田に言えないことがあるなら聞いてやるから、その微妙な悲しい感じの匂い出すのやめてくれ。」


 慶介の風呂上がりを待ち構えていた永井はいかにも面倒くさそうに言った。

「・・・解ってても、ほっといて欲しい時ってあると思うんですけどー、そういうのは察して貰えないんすかねぇ?」
「俺だってそんくらい分かってる。酒田に頼まれたんだよ。慶介の様子がちょっとおかしいから聞いてくれ。って。」

 むぅ。相変わらず、慶介の作り笑顔は酒田に見抜かれてしまうし、永井には匂いで筒抜けだし、プライバシーがないのちょっとツラい。

「そんで?酒田が何かしたのか?」
「別に何もされてない・・・。」
「じゃあ、何か言われたか?」
「・・・別に。」
「そうか。何言われたんだ?」

 酒田に本心を言い当てられると自分を理解してくれているようで嬉しいのに、永井に言い当てられると「人の心にズケズケと入り込むな!」と腹が立つのは何故だろう?不思議だ。
 まあ、言い当てられたからって答えるかは別の話だ。とばかりに慶介は永井の事を無視して風呂上がりのお茶を飲んだりしていたが、永井が両手で壁ドンをしてきて「俺を警護から逸脱させてくれるな」と凄んできたので大人しく答えた。


「・・・酒田がさ、ウェディングドレス着て欲しいって、言ってただろ?」
「おぅ、それが?」
「酒田って、本当は女の方が好きなんかな?」
「は?」
「だからぁ、俺の女装を見たがるのは、本当は女がいいのを我慢してたりすんのかな、って思ったんだよ。」

 慶介は女装が嫌いだ。
 昔は第2性のオメガを受け入れられず男なのに女扱いされていることに強い違和感を感じていた。今は男なんだけどオメガという女と同じ役割をする性を受け入れられているつもりだ。それでも、女装をすると女の振る舞いを作ることになり、つられて表情まで作りはじめて、次第に周りが求めることを重視してしまって、自分の本心が解らなくなるのが嫌なのだ。
 ところが、永井の反応はやや呆れた感じで、

「あれか?フェチズムの話か?」
「フェチズム?」

 永井は言った。バース性にとっての性別とは第2性のアルファ・オメガのことであり、第1性は「髪が長い」「眼鏡を掛けている」のような外見の特徴としてしか見ていないのだ、という。だから、「女が好き・男が好き」というのは、外見の好みを語るようなもので、あくまで本人の好みの話なのだ、と。

「アルファとオメガの比率は3対1だろ?オメガの中でも女型と男型は3対1だ。だから単純にオメガといえば数が多いの女型を想像する。俺もその先入観から『いつかオメガの女の子と番になりたい』とは言ってたけど、女型じゃなきゃダメとか、女型の方が良いと思ってたわけじゃない。」
「じゃあ、酒田は女型フェチかも知れないってことか。」
「そんなふうには見えねぇけど。例えそうだとしても・・・えっと、なんだ、その、オメガであること以上に重要なことはない・・・って、これはなんか孕める子宮にしか価値がないみたいな言い方だな。違うな、あのー・・・、もうさぁ、酒田に直接聞けよ。女型フェチなら、その趣味に付き合うか付き合わないかは慶介の自由だ。」
「趣味って・・・」
「フェチズムなんだから趣味だろ。男か女かなんて関係ねえんだよッ。こんなに良い匂いさせて、自分を好いてくれてるオメガいて、何の不満があるんだ。酒田の女装趣味が嫌なら別れちまえ、項ならいつでも噛んでやるよッ。」

 永井はガリガリと乱暴に自身の髪をかき、怒気を含んだため息を吐き捨てて「チッ、はー、やってらんねぇ」と勢いよく立ち上がった。

 慶介は濃い怒りと悲しみが混ざった永井のフェロモンを感じて、申し訳なさでしょぼんと俯いた。
 たぶん、こうやってしょぼくれると慶介から悲しみのフェロモンが出て、永井はそれを嗅ぎ取ってまた苛立ち、慶介はその苛立ちを嗅ぎ取ってより落ち込む。負のスパイラルだ。「つくづくフェロモンというやつは厄介な存在だな。」と胸中でため息をついて、慶介は顔と声を取り繕うことにした。フェロモンで本心がバレていても作るべきは笑顔。歯を見せるくらいの笑みと弾むような声、気安い関係を感じる軽い言葉遣いを選び、極めつけに、立ち上がった永井の手にそっと触れながら、一言。

「永井っ。ありがとな。」
「・・・ああ、どーいたしまして。」

 慶介の思惑どおり、永井の怒りのフェロモンが薄まっていく。
 感情のフェロモンはコントロール出来ないが、表情や声は作れる。そして、演技だとしても、永井を慰めたいと思った気持ちは嘘ではない。むしろ、本能的な感情がイコール本心というものではないと思う。
 人は本能や直感、瞬間的な感情のうえに学んだ知識による判断で怒りを押さえて冷静に返答したり、好まない相手ともビジネスでは仲良くしたりもする。本心と建前、忖度といった複雑な感情で動く生き物だと思う。
 もし、感情が全てダダ漏れでフェロモンをぶつけ合うような世界になったら、どうなってしまうかと想像するだけで恐ろしい。

 まだ少し、悲しみの匂いを漂わせた永井は慶介の頭をちょこっとだけ撫でると酒田と入れ違いで風呂に行った。








***

しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?

藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。 なんで?どうして? そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。 片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。 勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。 お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。 少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。 (R4.11.3 全体に手を入れました) 【ちょこっとネタバレ】 番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。 BL大賞期間内に番外編も完結予定です。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭 12/10 5000❤️ありがとうございます😭 わたし5は好きな数字です💕 お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭

処理中です...