【本編完結】ベータ育ちの無知オメガと警護アルファ

リトルグラス

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ウェディングパーティ編

ウェディングパーティ編:開

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*ウェディングパーティ編は全4話です。
 すべて永井視点になっております。
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 今、バース社会で一番の話題は、今年の新年度始まりに、ガイダンスで高校と大学生に伝えられた「ベータとの間にもバース性が産まれるという話」だ。

 これには一部の補佐アルファたちがとても動揺している。というのも、補佐アルファの中にはベータと結婚して家庭を持ちたいという者たちが一定の割合でいるためだ。
 また、成人済みの大人達にも同窓会用の連絡網で同様の話が伝えられ、身に覚えのあるアルファは関係のあったベータの所へ行き性別検査をした。

 そうして、追放・縁切りアルファの家庭にてアルファの子どもが居たという情報が入り、そのアルファをどうするか?でもまた対応が揺れている。

 例えば非常に低い確率ではあるが、そのバース社会を知らない、自身がアルファであることも知らない野良アルファがベータ女性と結婚して、その子どもがオメガだった場合、慶介のようにヒートが来て初めて発覚することになる。
 その時、慶介の事例と同じように病院にかかったり役所に相談してくれれば良いが、どこにも相談できないまま、ある日、公共の場でヒートを起こしてしまったりしたら、昔のような集団レイプ事件が起こる可能性もある。

 そのため、バース社会はベータ社会に行ったアルファに「なるべく子を作るな」「作ったなら性別検査をしろ」「子がアルファの場合はせめて高校はバース社会の私立校に入れろ」「子がオメガであった場合はベータと作った家庭を切り捨ててバース社会に還るか、実家に養子に出せ」と、警告することになった。

 選択肢を狭めるようなやり方は望ましいものではないが、バース性人口の割合が低い今はまだ、ベータの血を混ぜるわけにはいかない。オメガを厳重に守るバースの群れ社会のシステムもまだまだ維持したい。そのためには補佐アルファがベータ社会へ流出するのは防ぎたい。
 そういった事情から、慶介の番わない結婚は『警鐘』として利用することになった。

 まずは『ベータ育ちのオメガが、運命の番を拒否したうえ、項を噛んで番になる結婚のルールすら無視して、警護だった補佐アルファを夫に選び、項を噛まないまま結婚をした。』という、まるで慶介の選択が間違っているかのような言葉遣いを選び話を広める。
 次に、フェロモンという本能で番を決める事に抵抗があった慶介の想いを『運命を選ばなかった理由はベータ育ちのオメガはフェロモンが解らなかったからだ。』という嘘にして流し、ベータ社会で子どもを育てるとフェロモンがわからない子どもになると誤解させ、ベータ社会そのものを忌避させるように仕向ける。
 最後に『項を噛まない結婚が出来るのは名家本多の人脈と豊富な資金があるおかげで、普通なら出来ることではない。』とバース社会で項を噛まない結婚が流行るようなことがないようにクギを刺した。

 そんな良くない噂まみれの慶介と酒田のウェディングパーティには、純粋に結婚を寿ぐような雰囲気はないと思われるが、これに対して慶介は「構わない」と言った。

「俺が、ウェディングパーティで本当に祝って欲しい人は谷口と山口だけだから、他の人から何を言われても気にしない。勇也がいてくれて、谷口と山口がおめでとうって言ってくれて、・・・できれば、永井に認めてもらえたら、嬉しいな、って思う。」

 永井はその言葉に即答できなかった。景明に「柔道がなくなったあとも、本当に大丈夫と言えるのか?」と、秘書になるのを却下された時に言われた言葉が、永井の胸に棘を残していたからだ。

「悪い、慶介。正直、認められるかは、まだ分からない。でも当日は『おめでとう』と言うよ。」
「ありがとう、永井。」


**


 7月の末、ウェディングパーティ当日。降水確率はゼロ%、予想最高気温はギリギリ猛暑日には届いていないが、快晴の夏空から差す日差しは朝から厳しい。

 式場は樹木と緑が多いのでコンクリートジャングルの都会よりは涼しく感じるが、それでもフォーマルな衣装を着るにはやや辛いだろう。


 今日の永井は忙しい。酒田の秘書として采配を振るい、慶介の警護として後ろに控え、慶介の友人としてベータの2人の世話もしないといけない一人三役なのだ。

 ベータの2人から「もうすぐ着く」のメッセージを受信した永井は、慶介の警護を吉川に任せて山口と谷口を出迎えに控え室を出た。

 結婚式だが格式高いフォーマルな格好をするのは主役の2人だけで、招待客のドレスコードはカジュアルなので「スーツのパンツにベストのみで良い」と伝えていたが、2人ともスリーピース揃ったスーツ姿で現れた。

「よぉ、ひさしぶり。」
「おお、永井、1年ぶり~。」
「バンジージャンプ、行けなくて悪かったな。」
「そんなん、全然いいよ~。」

 慶介は山・谷コンビとは年に2回ほど会っている。
 夏にテーマパークなどのレジャーに遊びに行き、冬に忘年会がてら飲み会をしている。
 それに酒田、永井と吉川も参加して、前回の夏はアクティビティ豊富なテーマパークを2泊3日で遊び倒した。残念ながら去年の冬は本多本家での結婚式の準備などがあったので飲み会は無しになり、今年は夏にウェディングパーティをするため、GWに遊ぶことになったのだが、永井は柔道の試合前で参加できなかった。

「・・・ちゃんと香水つけてきたか?」
「つけたっつーの。肘と膝と、ウエストだっけ?」
「俺は髪と足首もした。」

 永井は2人の顔や体に顔を近づけ、スンスンと匂いを確認した。
 2人には香水を付けてくるように頼んでいた。常にフェロモンを匂いとして感じとっているバース性にとって、ベータはフェロモンがないことから体臭をより強く感じてしまう。
 バース性がベータ社会に行くときは自分たちが少数派なのをわかっているので匂いがないことが当然と思って行くが、今日のウェディングパーティではベータの2人の方が少数派になるので香水で匂いを作ってバース性側に寄ってもらう意図があった。
 
「山口は良いけど、谷口は足りねぇな。んー、耳の後ろにしとくか。」
「そんなベータって臭いんか?」
「臭いんじゃなくて、フェロモンの匂いがしないのが俺たちにとっては変な感じがするんだよ。」
「俺たちにはちょっと、つけすぎで匂いキツイよな?」
「なぁ。」

 文句を垂れる谷口を右に左にと回して耳の後ろにロールオン香水を塗り、少し離れて匂いを確認した。
 「こんな事もあろうかと」と、言うセリフは古いアニメの博士キャラの決め台詞らしいが、このロールオン香水を準備したのは永井ではなく水瀬だ。永井は2人に香水を付け方のアドバイスと一緒に贈りはしたが、このような可能性を想像できなかった。
 こういった状況を予想した水瀬を「さすが」というべきか、永井が「まだまだベータの勉強不足」というべきか。

 永井は2人に今日の流れを説明し、この場に置ける注意事項ととして、補佐アルファの中にはベータに対して過剰な警戒をする奴がいるかもしれないし、うかつにオメガに声をかけると番のアルファに威圧される可能性があるため1人で行動しないように、と伝えた。
 また、セレモニーの間と祝辞の挨拶が終わるまで来れないため、その間のサポート役として板倉を紹介して一緒に居られないことを謝った。


 ベータの2人を板倉に頼んだら、それを慶介に報告するために控え室に向かう。その道中で警備会社から簡潔かつ正確な報告を受け、式場スタッフからの最終確認にOKを出して、永井は自分が手掛けた準備に抜かりがないことに満足し、パーティの幕が上がる瞬間への期待感も高まった。


 永井が控え室に入った時は、ちょうどメイクとヘアセットが済んだ慶介が胸元を飾る花をつけてもらっているところだった。

 男装用の化粧が施された慶介は今までに見たことのない凛々しさがありつつも、耳の少し上辺りにある生花の髪飾りがオメガの可憐さ感じさせ、体にフィットしたオーダーメイドのタキシードは慶介のスタイルの良さを引き出している。
 慶介自身も己の姿に大満足なのだろう。高揚した気持ちが頬の赤みに現れ「どうかな?」などと言いながら、晴れ晴れしく自信に満ち溢れた気持ちが表情にも姿勢に現れている。

 衣装の打ち合わせも仮縫いも同席し、完成のお披露目も見て知っていた。
 オメガだからと女っぽく化粧されがちなところを、男らしさを出すメイクを担当の美容師に依頼して、リハーサルに同席したのも酒田ではなく永井。
 衣装と式場の雰囲気に合わせた髪飾りと胸元の花飾りを選んで業者に依頼したのも、永井自身だ。

 全て知っていたはずなのに、それらが合わさっただけだと言うのに、永井は慶介の姿に思わず、ほぅと息を漏らした。

(あぁ、今日は、一段と甘い。)

 今日は失態があってはならないと思って例のあの薬を飲んでいたのに、それでも永井の脳は慶介のフェロモンの甘さに痺れて放心しかけた。


 静かに深呼吸をして理性を取り戻し「ベータの2人が到着して板倉に託してきた」と伝えれば、慶介は2人に自分の姿を見られる事を想像したのか恥ずかしそうに首をさすり、それでも嬉しそうなはにかみ顔をして「早く会って話したい」と言った。







***

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