【本編完結】ベータ育ちの無知オメガと警護アルファ

リトルグラス

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ウェディングパーティ編

SS:フェロモンの匂い(前)

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 これは、ウェディングパーティよりも少し前、慶介と谷口がしたSNSのやり取り。


『おいいい!! なんで山口だけブランドもんのメンズ香水なんだよ! 俺もブランドもんが良かった!』
『そうなん? 俺が選んだわけじゃないから知らん』
『誰が選んだんだよ』
『永井に決まってんだろ』
『永井ーーー!!!』

『既読つかん』
『部屋にいるはず。聞いてくる』


 立ち上がる慶介を酒田が止めて、悪友3人組の山崎が呼びに行った。

「おう、なに?」
「スマホ見て、って言いたかっただけなんやけど。」
「スマホ?」

 永井の既読がついたのを確認した谷口が怒りのスタンプを何種類も飛ばしてくる。

「永井、どんな香水、送ったんだよ。」
「別容器に移してあるから持ってきてやる。」

 永井が持ってきた2つの小さな容器にはマスキングテープで、「山口・ディオール」「谷口・シトラス」と、文字が書いてあった。
 それぞれの香りを嗅いで慶介は率直に思った。

「ナンデコレ?」
「イメージ。」
「永井からみて山口ってこんな大人のイメージなんだ・・・」
「そんなおかしいか?」

 慶介から容器を受け取った酒田は、香りを何度も確かめて首を二度三度かしげつつも、一応は納得したという顔をした。

「いや、俺は永井がこれ選んだ理由が分かる。ただ、この匂いでベータが受ける印象と俺達アルファが受ける印象では差があるってだけだ。」
「どゆこと??」
「ベータ的にはこのディオール? は色気のある男性ってイメージなんだろうけど、俺からすると・・・親戚のおじさんってイメージなんだよ。しかも、あんまり会わない遠方の、慶介的に言えば本多分家の叔父くらいのイメージ。」
「はぁ・・・? いや、わからん。」
「ちょっと待って。谷口の説得が先だ。えー・・・っと、何か、谷口の気をそらせられるネタないか?」
「山口のは買っただけだが、谷口のはオーダーメイドで作った。」
「それだ。それ伝えて、気に入らなかったら違うの買って送るって言え。匂いの印象の話は俺の方からフォロー入れておくから。」
「了解。」

 谷口はオーダーメイドだと聞くと「面白そう、俺も香水作ってみたい。」とご不満はすっかり忘れてオーダーメイドのレポを永井に聞き始めた。
 慶介はSNSの通知がポコポコと鳴るスマホをミュート設定にして酒田にさっきの話を問うてみた。

「さっきのどゆ意味? ベータが受ける印象とアルファが受ける印象ってやつ。」
「アルファにとって、甘い匂いっていうのはオメガが放つ誘惑フェロモンを連想するし、鼻につく刺激臭は威圧の匂いってイメージがあるんだ。それでいくと──」
「威圧フェロモンにも匂いってあんの?」
「・・・・・・アルファにもフェロモンあるからな?」
「あ、そっか。じゃあ、アルファ同士でも匂いがするのか。」
「・・・あぁ、そこからか・・・。」

 酒田から聞かされたのは『そもそもフェロモンには匂いがない』という話。
 正確に言えば、フェロモンはいまだ科学的に物質として検出できていないなので、匂いがあるのかどうかは分かっていない。
 ただ、バース性はフェロモンを匂いとして感知するし、濃度が濃くなればベータでも匂いを感じることがある。ところが、実は、その感知したフェロモンの匂いは人によって匂いが異なるのだ。
 例えば、オメガのAさんが出す誘惑フェロモンを、アルファのBさんは『ハチミツ』だと言うし、アルファのCさんは『チョコレート』だと言う。
 このように受け手によってフェロモンの匂いは変わり、その匂いは受け手側の印象や好みで決まる。そのため『フェロモンには匂いがない。』と言われている。

「でも、俺、勇也と永井以外の匂いってわかんねぇんだけど。」
「まぁ、言語化するほど明確な匂いがある相手ってのは少ないさ。そうだなぁ、水瀬さんの威圧とかどうだ? 威圧受ける訓練した時に何度も嗅いだから『あんな匂いだったなぁ』みたいに思い出せないか?」
「水瀬さんの威圧はナイフを心臓に当てられてる印象しかないわ。」
「ああ、そうか。慶介はフェロモンを映像で捉えるんだな。」
「どゆこと?」
「フェロモンの感じ方は匂いだけじゃない。色で感じる人もいるし、曲が流れるって話も聞く。慶介みたいに映像が頭に浮かぶっていうのも匂いの次に多いフェロモンの感じ方だ。」
「ふーん、そうなんか。」

 普通の範疇で良かった。ただでさえ特殊な出生なのに、これ以上特殊な事情を抱えたくはないものだ。

「勇也には永井がどんな匂いに感じんの?」
「うーん、強いて言えば鉄かな? 機嫌が悪い時は血の匂いがするし、威圧なんかは金属同士が擦れて火花が散る時みたいな焦げた匂いがして、音が聞こえる時もある。」
「へぇ~、じゃあ俺は?」

 酒田は慶介から「雑草の匂いがする」と聞かされた時、目に見えてガックリと肩を落としていた。さすがに表現が悪かったと思って、今は「草原の瑞々しい葉の匂い」と言い換えている。当時は、酒田がガッカリした姿を不思議に思いながら見ていたが、今ならあの気持ちがわからないでもない。
 さて、酒田は慶介のことをどんなふうに見ているのだろうか? きっと甘い食べ物とかじゃないか? オメガは甘い匂いがすると聞いているし、酒田は甘い物を好む。
 慶介が期待の目で覗き込むと、酒田はフィッと目を逸らしてしまった。

「・・・プリンの匂い。」

 やはり甘い食べ物だった。予想通りで、逆に、目を逸らすようなものではないのが気になった。
 谷口とのやり取りが終わったらしい永井が酒田の肩に腕をまわして言った。

「誘惑フェロモンは、だろ? 普段はなんなんだ?」
「普段?」
「俺には普段の慶介は梨の匂いがする。良いことがあるとリンゴとかメロンとか、嫌なことがあるとレモンとか酸っぱい系になる。ヒートが近くなると桃みたいになるんだぜ?」
「そんなに変わるのか。」
「で、勇也は? 普段の慶介はどんな匂いしてるんだ?」

 永井は肩に回した腕をギュッと締めて、首をホールドさせる。
 男同士の気兼ねないじゃれ合いと言えれば良いのだが、残念ながら、その姿勢は永井がよくやる嫌がらせの1つだ。嫌味や自慢、興味のない話を無理やり聞かせる時に絞め技をかけているのを稀によく見る。
 今回も答えるのを渋った酒田が口を割るまで逃さないつもりなんだろう。早く答えろと腕で首を締め上げられた酒田が苦しげに口を割った。


「・・・ち・・・茶碗蒸し・・・っ!」


 まさかの和食。


「え、・・・俺、出汁の匂いなの・・・?」
「ハッハッハッハッ、そりゃ確かに『いい匂い』だなぁ!」

 永井は「あ~、面白れ~」と大笑いした。

「いいだろっ、好きなんだから!」
「知ってるっつーの。幼稚園のお弁当に毎日、茶碗蒸し持って来てたの覚えてるよ。」
「はぁ? 幼稚園のお弁当に茶碗蒸し? いつも寿司屋で頼むから好きなんだろうとは思ってたけど・・・」
「そうだぜ? 毎日食べたいってしつこく頼みすぎて、酒田家ではもう二度と作らないって言われたんだよな~?」
「あー・・・、勇也、毎日カレーがいけるタイプだもんな。俺も毎日茶碗蒸しはちょっと・・・」
「俺もぜってー嫌。」
「今は外でしか食べてないだろッ!」

 酒田は緩んだ永井の拘束をほどいて手首をひねり上げようとする。それに気づいた永井はそれを阻止しようと逆に酒田の手首を掴もうとしたが、今日は酒田のほうが一枚上手だった。手首を掴もうとした永井の手は酒田に捉えられ、小指を掴んで曲がらない方向へ捻り上げられ「いでででで」と完璧にキメられた永井が痛みを訴えた。


 ちなみに永井曰く、山口の香水は「遠縁の親戚の人」のイメージで、谷口の香水は「名前は知らないけど別クラスの明るい印象の同級生」みたいなイメージで作ったらしい。
 それを聞いた山口が逆に「俺も同年代の友達にしてくれよ!」と言ったので、山口の香水は酒田が選び直して送ることになった。







***












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