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恋敵たち
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由多花はそのものいいにビックリしてスイートポテトを手から落としてしまう。
勿体無い! と思わずそちらに気をとられる。
「…あの! 佐々木さん、私がまるで嫌がらせしたみたいに吹聴しないでくれませんか!」
由多花は床に落としたスイートポテトを拾い上げ、テイッシュにくるむ。
それから、彼女に向き直る。
「そんな風に受け取らないでもらえる? 私は浅田さんがもう少し注意して サーバーの中のファイルを探して、確認してから連絡して欲しいだけだよ。…検索のかけ方、わかる?」
馬鹿にしないでください、と彼女が興奮する。
いったい、どうしてこう気が荒いのだろうと由多花は不思議になる。
林さんのこと、関係なく、喧嘩っぱやい女の子なのだなぁ。新入社員の教育、なっていないぞ、営業。
すると、後ろから そろそろ、と林さんが顔を出した。
――ついて来てたんかい!
と突っ込みたくなるほど、存在感のなさだった。
「あの、浅田さん、やめよう…、ね?」
「へ?」
由多花が間抜けな声を出す。
どういうこと?
「すみません、佐々木さん、私のミスなんです。探して伝言したのは確かに浅田さんなのですが、課長にファイルの内容を確認してくれと頼まれていたのは私で、朝、他の仕事で忙しかったものですから浅田さんに頼んだんです…」
――引き受けたんなら、やっぱり浅田さんのミスではないか。まあ、林さんに責任ないとは言い切れないけど。林さん、かばうつもりでついて来たの?
そうなんです、と浅田さんが ぶすっとして言う。言える立場か? おお、マジ、営業どういう教育してんだ。
「…連絡、二度に渡ったのはなんで?」
由多花は浅田さんにいぶかしげに聞く。なんだか、なんとなく納得いかない。
――だいたい、朝は出る前に気がついていたんなら、営業事務の拡声器さんに伝言なんてせずに 情報に直接、内線入れてくれれば良かったのに。
十時のも本来なら朝のうちに、気がつくべきものだよね。もしかして、浅田さん ドジっ子?
そこまで考えて由多花は自分が入社したばかりの頃を思い返す。
新入社員はこんなもの。ホウレンソウが出来ないくらい、想定内ではないか。
「…二度に渡ったのは…、うっかりして…」
また むっすりして浅田さんが言う。
申し訳ありません、と林さんと、浅田さんが頭をさげた。
「…いいよ、次、気をつけてくれれば。ごめんね、私の言い方も棘があったかも」
そう言ったところで、ドアを開けて今北が戻って来た。
いつの間にか、昼休みになっていた。今北はここにいる筈のない営業の女の子を見て驚いていた。
林さんは彼を見て 視線を慌ててそらす。浅田さんは、今北さん、となぜか ホっとした顔をする。
今北がこちらを見る。
「…注意してたの?」
あ、こいつ、私が新入社員を苛めていたと思ってるな。
「そういうわけじゃないけど。今度から気をつけてくれるって言うから、二度はないよね。お願いね」
そう言って二人に、にこっと笑う。
「そう」
今北はそう言うとデスクについて、書類を片付けるとお茶を淹れ始めた。
それを見て、浅田さんが今北に声をかける。小さな声で助かりました、と。
それに林さんも、そして由多花も思わず彼女を注視した。
それから、つい、由多花は林さんを見つめてしまった。林さんは少し狼狽しているみたいだ。
――なんだろう、……心配な人だなー。
チラと松岡さんの妹さんが、ずっと保護者だったという話を思い出す。
もしかして、浅田さんと林さんの関係ってそれに似ている? でも、浅田さんは――。
そこまで由多花が考えていると、自分を見ていた由多花の視線に気がついたか、林さんは あ、と言って頭を下げて一人で営業部に戻ってしまった。
今北と浅田さんはまだ話している、というより、浅田さんが一方的に食堂に今北を誘っているようだ。
これは助かる。早く連れてってー。私は早くごはんにしたい。
しかし、意外なことに今北はそれを断り、しぶしぶ浅田さんは情報課をあとにした。
残されたのは由多花と今北の二人だけだった。
由多花は困ったな、と思っていた。
今北がいると食事が喉を通らないのだ。
いつもは さっさと食堂に行く今北がなんでここでお茶飲んでいるんだ、迷惑な!
そう思ったが さすがに口には出さず、由多花が場所を移動することにした。
外は晴れている。近くの公園にでも行こう、と席を立つと、今北が話しかけてきた。
「なんか…、ごめん」
はぁ? と由多花は今北を見た。
「なんか、しましたっけ?」
「いや…。由多花ちゃんに迷惑かけてるなって…」
……いや、私より、松岡さんにかけたから あんたは。
「別に、いいですよ 今更。それに、今のはただの連絡ミスだし」
――あの、〝助かりました〟には驚いたけど。
あれだと、マジ私が彼女を困らせていたみたいだわ。
――多分、浅田さんは今北が好きだ。だから、元カノの私を敵視するんだ。うん。謝るってコトは、こいつも浅田さんの好意に気がついているな。
て、ことは。浅田さんは今北と林さんの関係を知らないのかもしれない。そっちの噂は耳に入っていないのか。…知らない方がいいな。気性、激しそうだもん。職場でそういうトラブルはごめんだもんね。
――アレ!? もしかして、私、浅田さんへの人身御供なの? それで、ゴメンなの!?
気づくの遅すぎ!
「いいけど、仕事に支障が出たら苦情 言いますからね。労務でも人事でも」
今北は、またごめんと言ってデスクを離れた。
――まさか、浅田さんにも手を出したのではあるまいな…。まさかな…。
そのドロドロした考えは美味しいお昼ご飯には不似合いなので頭からすぐ追い出した。
外は ぽかぽか。今、この人間関係のドロドロが残るデスクで食べる気にならなかったので、そのままお弁当を持って 近くの公園でしばしこの爽やかな風をお供にお昼を食べた。
勿体無い! と思わずそちらに気をとられる。
「…あの! 佐々木さん、私がまるで嫌がらせしたみたいに吹聴しないでくれませんか!」
由多花は床に落としたスイートポテトを拾い上げ、テイッシュにくるむ。
それから、彼女に向き直る。
「そんな風に受け取らないでもらえる? 私は浅田さんがもう少し注意して サーバーの中のファイルを探して、確認してから連絡して欲しいだけだよ。…検索のかけ方、わかる?」
馬鹿にしないでください、と彼女が興奮する。
いったい、どうしてこう気が荒いのだろうと由多花は不思議になる。
林さんのこと、関係なく、喧嘩っぱやい女の子なのだなぁ。新入社員の教育、なっていないぞ、営業。
すると、後ろから そろそろ、と林さんが顔を出した。
――ついて来てたんかい!
と突っ込みたくなるほど、存在感のなさだった。
「あの、浅田さん、やめよう…、ね?」
「へ?」
由多花が間抜けな声を出す。
どういうこと?
「すみません、佐々木さん、私のミスなんです。探して伝言したのは確かに浅田さんなのですが、課長にファイルの内容を確認してくれと頼まれていたのは私で、朝、他の仕事で忙しかったものですから浅田さんに頼んだんです…」
――引き受けたんなら、やっぱり浅田さんのミスではないか。まあ、林さんに責任ないとは言い切れないけど。林さん、かばうつもりでついて来たの?
そうなんです、と浅田さんが ぶすっとして言う。言える立場か? おお、マジ、営業どういう教育してんだ。
「…連絡、二度に渡ったのはなんで?」
由多花は浅田さんにいぶかしげに聞く。なんだか、なんとなく納得いかない。
――だいたい、朝は出る前に気がついていたんなら、営業事務の拡声器さんに伝言なんてせずに 情報に直接、内線入れてくれれば良かったのに。
十時のも本来なら朝のうちに、気がつくべきものだよね。もしかして、浅田さん ドジっ子?
そこまで考えて由多花は自分が入社したばかりの頃を思い返す。
新入社員はこんなもの。ホウレンソウが出来ないくらい、想定内ではないか。
「…二度に渡ったのは…、うっかりして…」
また むっすりして浅田さんが言う。
申し訳ありません、と林さんと、浅田さんが頭をさげた。
「…いいよ、次、気をつけてくれれば。ごめんね、私の言い方も棘があったかも」
そう言ったところで、ドアを開けて今北が戻って来た。
いつの間にか、昼休みになっていた。今北はここにいる筈のない営業の女の子を見て驚いていた。
林さんは彼を見て 視線を慌ててそらす。浅田さんは、今北さん、となぜか ホっとした顔をする。
今北がこちらを見る。
「…注意してたの?」
あ、こいつ、私が新入社員を苛めていたと思ってるな。
「そういうわけじゃないけど。今度から気をつけてくれるって言うから、二度はないよね。お願いね」
そう言って二人に、にこっと笑う。
「そう」
今北はそう言うとデスクについて、書類を片付けるとお茶を淹れ始めた。
それを見て、浅田さんが今北に声をかける。小さな声で助かりました、と。
それに林さんも、そして由多花も思わず彼女を注視した。
それから、つい、由多花は林さんを見つめてしまった。林さんは少し狼狽しているみたいだ。
――なんだろう、……心配な人だなー。
チラと松岡さんの妹さんが、ずっと保護者だったという話を思い出す。
もしかして、浅田さんと林さんの関係ってそれに似ている? でも、浅田さんは――。
そこまで由多花が考えていると、自分を見ていた由多花の視線に気がついたか、林さんは あ、と言って頭を下げて一人で営業部に戻ってしまった。
今北と浅田さんはまだ話している、というより、浅田さんが一方的に食堂に今北を誘っているようだ。
これは助かる。早く連れてってー。私は早くごはんにしたい。
しかし、意外なことに今北はそれを断り、しぶしぶ浅田さんは情報課をあとにした。
残されたのは由多花と今北の二人だけだった。
由多花は困ったな、と思っていた。
今北がいると食事が喉を通らないのだ。
いつもは さっさと食堂に行く今北がなんでここでお茶飲んでいるんだ、迷惑な!
そう思ったが さすがに口には出さず、由多花が場所を移動することにした。
外は晴れている。近くの公園にでも行こう、と席を立つと、今北が話しかけてきた。
「なんか…、ごめん」
はぁ? と由多花は今北を見た。
「なんか、しましたっけ?」
「いや…。由多花ちゃんに迷惑かけてるなって…」
……いや、私より、松岡さんにかけたから あんたは。
「別に、いいですよ 今更。それに、今のはただの連絡ミスだし」
――あの、〝助かりました〟には驚いたけど。
あれだと、マジ私が彼女を困らせていたみたいだわ。
――多分、浅田さんは今北が好きだ。だから、元カノの私を敵視するんだ。うん。謝るってコトは、こいつも浅田さんの好意に気がついているな。
て、ことは。浅田さんは今北と林さんの関係を知らないのかもしれない。そっちの噂は耳に入っていないのか。…知らない方がいいな。気性、激しそうだもん。職場でそういうトラブルはごめんだもんね。
――アレ!? もしかして、私、浅田さんへの人身御供なの? それで、ゴメンなの!?
気づくの遅すぎ!
「いいけど、仕事に支障が出たら苦情 言いますからね。労務でも人事でも」
今北は、またごめんと言ってデスクを離れた。
――まさか、浅田さんにも手を出したのではあるまいな…。まさかな…。
そのドロドロした考えは美味しいお昼ご飯には不似合いなので頭からすぐ追い出した。
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