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尾鷲遼

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キャプテン

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 俺が高校2年だった時の話だ。
 俺の名は三橋泰雅みつはし たいが。野球部に入っている普通の高校生だった。
当然、普通に友達はいる。その中で1番の親友が、船橋虎太郎ふなばし とらたろうだ。彼も野球部に入っていて、よく話した。
 それに、名前も似ていた。俺はタイガ、彼は虎なのだから他の人からよく「トラコンビ」と呼ばれた。そのくらいずっと一緒にいた。
 虎太郎とは中学の時から5年間ぐらいずっと同じクラスだった。性格は俺と真逆であまり前に出るようなタイプではなく、かなりおとなしい性格だ。大声を出すのだって部活の応援の時くらいだけ。部活ミーティングで何かを発言するのは見た事がない。でも、休憩の時の雑談は虎太郎とならとても楽しく話せた。
 ある部活の日、顧問が言った。
「おい2年、お前ら来年は最高学年だよな。だから10月辺りに次のキャプテンを前もって決めとくぞ」
 早めに来年への準備をしておくのが、この学校の何となくの風習だ。俺らのキャプテン決めも例外にはならなかった。俺は来月に迫ったキャプテン決めに密かに緊張する。
 キャプテンの候補は、発言力のある俺、誰でも気さくに相談できる虎太郎、そして川崎孝義かわさき たかよしという人だ。
 孝義はいかにもずる賢く、表では先輩や先生にゴマをすって自分の評価を上げているが、裏では後輩をこき使ったり同学年の俺たちに悪口を言ったりする、まぁまぁ最悪なヤツだ。
 一部の先輩を除いては当然、みんなからは嫌われていた。だから孝義がキャプテンに名乗りをあげても、まあ落ちるだろうなとしか考えなかった。

 そして俺らはいつも通り日々を過ごしていたが、どんどんキャプテン決めの日は近づいてくる。そしてついに事件が起こった。投票の2日前のことだった。
 部活が終わった後、孝義が1年生の政信に声をかけていた。孝義は後輩にアドバイスをするようなヤツじゃないのに?
 俺はその彼の行動に少し不思議に思いながらも、虎太郎と一緒に帰る準備をしていたからあまり気に留めなかった。
 そして玄関を出てしばらく歩いた所で、虎太郎が口を開いた。
「孝義...あいつ何するんだろ」
 虎太郎に改めて言われると、違和感が再び心を埋めた。
「あいつ何なんだろな」
 二人で首を傾げた。するとその時、虎太郎が「あ、いけない!」と声を上げた。
「学校に帽子忘れた!」
 確かに、チャームポイントの青帽子を被ってないな。でも俺はいつも通り赤い帽子を被っているから大丈夫...
 頭にやった手は髪に触れた。
「やべ、俺も忘れたわ」
 二人で帽子を取りに学校に戻る事にした。

 帽子は、トイレの荷物置きに置かれていた。
「ここにあったんだ...確かにここに物忘れがちだったな」
 青帽子を頭に被せた虎太郎も頷く。
「そうだね。さあ、帰るぞ」
 そうしてまた外に出ようとする俺たちの耳には、体育館からの怒声が聞こえてきた。
「俺の言う通りにしろや!」
 孝義の声だった。嫌な予感があまりにするから、俺たちはそっと体育館へ向かう事にした。
 そんな俺たちを待っていたのは、なんと政信に掴みかからんとしている孝義だった。
「なあ。俺の言う通りにしとけば、痛い目は見ないんだぞ?」
 政信は半泣き状態だった。孝義はなおも詰め寄る。
「もっかい言うぞ。お前は他の一年に俺に投票するように仕向ける。そしてお前も俺に投票する。もし言う通りにしなかったら、痛い思いをする事になるぞ」
 孝義のその悪質さに、俺は思わず拳を握りしめた。もう我慢できない。止めに入ろう!
 だが、俺が体育館に飛び込む一瞬前に、横から風のように飛び出す物があった。
 虎太郎だ。
「いいかげんにしろよ孝義!1年や俺たちを脅して自分だけいい評価もらおうとしやがって!もう我慢できねえ!」
 そう叫ぶ虎太郎の形相は、虎、いや鬼そのものだった。
 そんな虎太郎を見た孝義は、絶句しながらも政信を突き飛ばし、体育館から逃げ出した。
 政信は虎太郎に「ありがとうございます...」とずっと言っていた。

 そんな事があり投票の日を迎えた。政信はあの日の事を他の人にも言ったらしく、結果は虎太郎の圧勝。まあ妥当だろう。俺より虎太郎の方が仲間思いで、勇気がある。それだけでもうこの結果は納得だ。そう思っていた。
 でもその日を分け目に、後輩から見られる目にすごく違和感を覚えた。その時はそんなに気にならなかったのでほっといたが、3日経っても改善するどころか悪化していた。その目は、言い表せないような感情を秘めていた。
「何なんだよあいつら...」
 俺は一人で呟いた。

 キャプテンとなった虎太郎は、一人残って何かする事も時々あった。その日の俺は、他の人と帰った。
 ある日、虎太郎は仕事があり、俺は家が近い後輩と一緒に帰る事にした。そして玄関で彼に声をかけたが、ムスッとした表情を返されただけだった。そして目は、あの目だった。
 そんな反応をされる理由がさっぱり分からない俺は彼にその理由を聞いたが、返事は無かった。
 その後もしつこく聞いてみると、ついに返事があった。だが、その言葉は俺がショックを受けるのには十分だった。
「うるせえ、善人ぶりやがって」
「...は?」
「とぼけるな。虎太郎から話は聞いてる」
 意味が分からない。俺は何もしていないのに。それに、虎太郎からってどういう事だ?
「虎太郎から何を聞いた?」
「全部だよ。お前が孝義と一緒になって政信を脅して、見つかって逃げたのを聞いたぞ」
 頭が真っ白になった。その後俺は何も言えず、呆然としたまま家に帰り着いた。
 自室のベッドに深く沈み込んだ所で、ようやく俺の脳神経が再生した。
 こんな最悪なデマ情報が流れたせいで俺の信用はガタ落ちになり、投票も散々な結果になっていたのか。あいつらのあの目の正体は、憎悪だったのか。
 許せない。こんなデマを流した野郎を。俺は部員に聞いて周り、とうとう1人の人物に行き着いた。
 虎太郎だった。
 嘘だろ、と思いながら虎太郎に事情を聞いてみるも全無視。その沈黙は却ってこの事を肯定しているようだった。
 怒りより何より、何でだ?という思いの方が多かった。まだ心のどこかで虎太郎を信じているというのもある。
 でも部員は、虎太郎が言い出したと言っている。この事実に俺は潰れそうになった。
 まさか虎太郎が、自分がキャプテンになるためにそんなデマを流したなんて。
 一番信用していた親友に裏切られた俺は、何をする気にもなれなかった。



 ある日、正信が俺に話しかけてきた。
「俺は虎太郎に釘付けされてたから事実を言えなかった。ごめん。
 ところで、孝義が言ってたんだけどさ、僕を脅してたのは虎太郎に言われたからだって」
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