共鳴する空間たち

小川文芸同好会

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Sign of THE END for we

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「ほら、今日は十二匹だよ」
 私が差し出した川魚を、猫を代表して親分猫が受け取る。ここ数日で何回か繰り返された動作だ。私や一部の猫が魚を獲り、親分猫が徴収し、みんなに分配する。まぁ、体が大きな人間である私が結局一番たくさん食べるけど。

 だいぶこの世界にも慣れてきたなぁ。どこだここはなぜだこの猫達は誰だ、と全く訳が分からなかった時から二週間ほど時間が経過して、そう思えるようになった。
 食べる物も手に入るようになったし、たくさんの猫達から顔も覚えられたようだ。逆に、私もいくつかの猫は覚えた。
 まず、大きくて黒い、親分猫。先程川魚を渡した相手だ。他の猫よりもずっと存在感があり、ボス猫として君臨している。ケンカしている猫がいたら、必ず間に入って仲裁する。すると、毎回と言っていいほど争い事はピタッとやむ。猫社会を円滑に回すためにはこういう役回りが絶対必要なのだろう。 また、猫達が川魚をたくさん捕らえたら、その中から幾つか魚を貰う。税金のような物だろうか? しかし魚が殆ど獲れなかった日は、一匹も口にしない。武士は食わねど高楊枝、その姿はとても格好良い。
 次に、灰猫三匹集。彼らはいつも一緒に行動していて、見ていてとても楽しい。協力して、魚を獲ったりノミを取ったりしている。とっても仲がいいな、と思う。
 最後に、金色の猫。輝くようなその毛色に、緑色の目が特徴的だ。この猫はいつもそばにいて、私と行動を常に共にしている。最も心の距離が近い猫だ。
 もちろん他にも猫は数えきれないくらいいて、近くにいる。とっても賑やかだし、みんな可愛い。なんでこんな大平原に猫達しかいないのか、とも思うけれども。

「この世界に来て何日か経って、何にも圧倒するような君たちももうすっかり慣れたよ」
 冗談めかして猫達に言う。私の言葉がわかるはずないし、伝わった所で返事はわからない。でも、周りに来る猫達は、話し相手を欲する私にピッタリの相手だ。
「ところで君たちは、私が来る前はどんな生活をしていたのかな?」
 返事がないのは承知だ。だから私は勝手に想像してみる。 食べ物を手に入れられるこの川の周辺で、家族単位ほどで多少散らばりつつ、親分猫が統治をして過ごしていたのだろうか。なんとなく寂しいなぁと思いつつ、心がときめく事が何かないかなぁと思っている時に私が来たのだろうか。そうだとしたらこんなに私の周りに集まってくる理由がつく。もしかしたら本当にそうかも。
 まぁ、答え合わせをする方法も理由も無いけれど。

 ところで。
 この世界は夢ではない、と私は思っているが、
 寝ても、また起きても、長い時間が経っても覚めない大きな夢だったら。前の世界で少しうたた寝をしている間の微かな夢だったら。覚めたら内容の全てを忘れるような儚い夢だったら。
 結局何が言いたいのか。それはつまり、私はこれが夢なのではないか、と再び疑っているという事だ。確証は無い。ただ、そういう予感が私の心の中で戸愚呂トグロを巻きずっと離れないのだ。この愉快な猫達も全て妄想の範疇を超えない物かもしれないって事が。
 みなさんも時々あるだろう、夢の中で、うまく言い表せないけれども『そろそろ夢が覚めるな』と感じる瞬間を。
 私が今漠然と感じているその感覚を。




 この物語の「THE END」は、逃げずとも、追いかけずともやがてやって来る。
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