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将来の夢
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レムリアさんが泣き止んだ後は1日、冒険者さん達を含めた自警団による安全確認と被害調査が行われ、午後からは村人総出の大掃除となった。
殲滅という意味ではなく、文字通りの大掃除。 内容はゴブリンの死体運びと凍り付いた血の洗浄だ。
生き残りがいないとも限らないので、子供は外出禁止となっている。
出たがる子なんていないだろう……
私とフローラちゃんはギルド職員用休憩室に残り、入れ代わり立ち代わりで休憩するお母さんやお父さん、エレオノールさんやフローラ父に相手をしてもらっていた。
正確には私がずっとフローラちゃんと遊び続け、皆は寝落ちしていたんだけどね。
シスターちゃんはレムリアさんと共に、村の浄化作業に加わっている。 掃除ではない。 シスターとしてやるべき仕事があるのだとか。
付き添い、シスターの仕事を学ぶのも見習いとしての義務である。 それだけが理由のようには見えなかったけどね。
翌日、葬式が執り行われた。
村の一員として、私やフローラちゃんも抱えられて参列する。
亡くなられた自警団の3人はこのあと火葬されるらしい。 遺体が残るのはアンデット化や墓荒らし、魔獣を引き寄せる等の危険を孕むので、この世界の葬式は火葬が主流なんだとか。
献花が終わり、2人のシスターが祈りを捧げる。
私とお姉ちゃんももう1度黙祷し、彼等のご冥福をお祈りした。
帰り道、私は決意した。
(お姉ちゃん、私、お婆ちゃんに魔法付与を教わろうと思う)
突然の申し出に、お姉ちゃんが首を傾げる。
((あれ、お婆ちゃんのこと苦手だったんじゃないの?))
(そうだけど……)
あの容赦なくグイグイ来るのが恐かっただけだから。 正直、魔法関連の知識には興味がある。
(それに、お姉ちゃんは魔法付与には詳しくないんだよね?)
((……うん。 魔法付与は魔術師の領分だからねぇ。 私はどちらかというと指揮官だし))
以前夢で言っていた、魔王軍だからって全員が強いわけではないと。
でも、だとしても、幹部までになったお姉ちゃんはとてつもなく凄いと思う。
んで、話しは戻るけど。
(だからこそ、お婆ちゃんに習おうと決心したんだよ)
使い方次第では常設の結界に応用できると思うんだよね。 さすがにA○フィールドは無理だろうけど。
気が付くと、お姉ちゃんは私に不思議そうな目を向けていた。
((……どうしたの? 急にやる気出しちゃって))
(ちょっとね……私も家族や友達を失いたくないなって思って)
その為にも、事前に出来ることをやってみたいの。
理想通りにはいかないだろうけどさ、防御力強化とか回避力アップとか……いやもっと根本的に、魔獣が侵入できない結界を作ったりしたい。
頑張って村興しをしても、こうやって被害が出てちゃ、誰も安心して来てくれないと思う。
この村は都心部から遠く、森と山に隣接してるっぽい。 お父さんがそんな感じのことを前に言ってた。 都市より危険が多いし、大物みたいな奴が今後も来ないとは言い切れない。
だったらさ、魔獣を完全に拒絶できる魔法陣を作っちゃえば、その安全性だけでも価値があると思うの。
それが使われていないって事はお察しなんだけど……うまくいけば、前世の知識を使ってチートな魔法だって作れちゃうかもしれないし。
今世こそは、憧れだった主人公みたいになれるよう、必死に努力してみたいんだ。
後悔はもうしたくないから。
そのためには、ただ強くなるのを目指すより、防衛に絞って努力した方が良いんじゃないかって気がしたの。
魔法のことすらまだ何も知らないくせに、理想ばっかりでごめん。 だからこそ、お婆ちゃんにも習って、トラブルを未然に防げるようになっておきたい。
(……どうかな?)
もちろん、今世の人生はお姉ちゃんのものでもあるんだから、独断で決めるつもりはないよ。
お姉ちゃんは元々こっちの世界出身なんだし、何かやりたいことがあるなら、言ってくれれば手伝いたい。
(た……ただでも、良ければ手伝ってほしい)
途中から不安になり、声が小さくなる。
お姉ちゃんは、何かを思案しているようで口を閉ざしたままだ。
そういう間が、なおさら私を不安にさせる。
((……フフッ♪))
返事がなかなか来ないと思ったら、なぜか笑われた。
(ふぇ? 私何か変なこと言った?)
((うんん。 姉妹だなぁって、嬉しくて。 あんなに震えていたのに、大丈夫?))
分かっているくせに、あえて意地悪を言うお姉ちゃん。 我が子の成長を楽しむ母親みたいな声してる。 姉妹だからね?
大丈夫とは無責任に言えないよ、だから頑張る。 頑張ってせめて、自分の身は自分で守れるようには強くなりたい。
ちょっと前まではただ村興しをして、日常系4コマ漫画みたいな将来を目指したいなって夢見てたけど、現実を知った今、それで後悔はしたくない。
平和ボケ主義者は暫く封印かな。 もちろん美容や健康を諦めたわけじゃないよ?
目指せ美魔女! またはプリキ○ア!
せっかく女の子に産まれたんだから、そこは妥協したくない。
((フフフッ♪))とまた笑われた。
((心配しなくても、この村は私にとっても第二の故郷なんだから、気持ちは同じ。 それに、やりたいことは遠慮なく言っているから、安心して。 気にしてくれてありがとう))
本心からの笑顔であることが、心に伝わって来て安心する。
こういう時、繋がっていて本当に助かった。 心配性な私は、つい気を使われているのではとどこまでも勘繰ってしまうから。
((魔法付与は私も教わってみたかったから、むしろ言い出してくれて助かったくらいよ。 何が来ても守れるよう、一緒に頑張りましょう♪))
(うん♪)
((もちろん、今まで以上のスパルタでいくからね。 今夜から読み書きと魔法の授業、倍にするから♪))
う……望むところですよアッハッハッハッ!
がっ、頑張る。
*
2日後、朝。
レムリアさんとシスターちゃんが帰る日になった。 大幅に遅れたけど、手紙は出していたので問題ない。
「じゃぁね、エメルナ。 色々ありがとう♪」
「しゃんネっ!」
シスターちゃんと両手で握手し、笑顔でお別れする。
泣き腫らした次の日から、シスターちゃんは胸のつっかえが幾分か軽くなったように明るくなっていった。 今ではもう、呼び捨ての関係である。 フローラちゃんの次に出来る友達が、まさかシスターちゃんになるとは思いもよらなかった。
凄く嬉しいに決まっている。
白に金糸の修道服を纏った2人が、玄関で別れの挨拶をする。
今は『レムリア』ではなく、シスターとして身を引き締めていた。
「お世話になりました」
「こちらこそ、居てくれて凄く助かりましたよ。 またいつでもいらっしゃってください」
「ありがとうございます。 それではこれで、失礼いたしました」
防寒着を羽織り、私と両親に見送られながら、2人はいつもの冒険者さん達も乗る馬車へと乗り込んだ。
黒髪さんが顔を出す。
「じゃぁねぇ~! また~!」
朝からテンション高いなぁ。 他のメンバーは近所迷惑を考えているのに。
窓から顔を見せる2人に、お母さんが私の腕を振る。
「バイバ~イ!」
「ばいばぁい♪」
軽くお辞儀で返され、そのタイミングで御者が馬に合図を出す。
カラカラと車輪を回して進む馬車を、私達は見えなくなるまで見送った。
(うぅ~寒い!)
早く家に入ろう。
「じゃ、俺も行ってくるよ」
お父さんも時間だからね。 防寒着の下は既に商業ギルドの制服だ。
「えぇ、行ってらっしゃい」
「行ってきます。 エメルナも、行ってきます」
手を振るお父さんに私も振り返す。
「ばいばぁい!」
「それ違うから! お父さんはバイバイしないから!」
(おっと、つい)
お母さんが「行ってらっしゃい♪」と言いながら私の腕を振る。
「いったぁ~しゃい!」
「あぁ。 行ってきます!」
お父さんも爽やかな笑顔で手を振り返し、そのまま商業ギルドへ出勤した。
家に入り、暖炉の前で体を暖める。 3月とはいえ、さすがに防寒着無しでは手足が冷えるね。
「あぁ~~っぁあっ……」
ヤバい欠伸出た。
暖かくなって眠気が再来したっぽい。 寝坊したくなくて、日の出寸前に起きちゃったんだよねぇ。
お母さんがお皿を洗いに台所へ行き、居間には私とお姉ちゃんだけが残された。
ありがたく、仰向けに寝転がる。
一息吐き、静かになった部屋を見渡す。
何か……やっと日常に戻れた気がするなぁ。
ふと何かを思い付くが、言葉が出てこない。
(お姉ちゃん、こういうのって何て言うんだっけ?)
『雨降って地固まる』? 『祭りの後』?
ちょっと違う……。 眠気で頭が回らない。
あっ、『台風の後の静けさ』だ!
((『嵐の前の静けさ』、ね))
(そう! それ!)
でも言いたいことと間逆だった!
強いて言うなら『祭りの後の静けさ』で良かったのに! これ以上の嵐なんて来たら一溜まりもないっつうの!
半ば呆れ気味のお姉ちゃんに笑われる。
((心配性ねぇ。 大丈夫よ、お姉ちゃんに任せなさい♪))
さすお姉! よし、私に出来ることがあるなら何でも言って、頑張るから!
((じゃぁ、今から一緒に寝ましょうか))
(…………へ?)
と、引っ張られるように体が眠気に包まれる。 瞼が重い。
((癖になるくらい、い~っぱい授業してあげるからね♪))
甘い声が頭の中で囁かれたが、そこにエロい意味は一片も無かった。
(あっ……これは、スパルタドS教師……の目…………)
最近になって悟ったんだけど。 お姉ちゃんは、自分の知識を誰かに教えるのが楽しいらしい。
((そうそう、言い忘れていたけれど、今日からは戦いの知識も身に付けてもらうから、コロシアムフィールドで魔獣と殺し会ってもらいます♪))
その言葉を子守唄に、私は意識を零れ落とした。
目を開くと、そこは中世ヨーロッパ風の闘技場だった。
石造りで荘厳だが、夜で薄暗く視界が悪い。
右手には片手剣、左腕には盾。 10歳ほどの体で、シスターちゃんが着ていたお古の私服。 そして前方には1体のゴブリン。
「んにぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~!!!」
言葉にならない悲鳴が轟く。
時間感覚を失った夢世界による、『24時間耐久、嵐の異世界授業』が今、始まった。
*
夜。
月明かり遮る闇深い森。 撤退し、生き残った1体のゴブリンが息も絶え絶えに身を潜めている。 数十いた仲間はもういない。 あの断末魔だけが、耳にこびり付いて離れずにいる。
相手は長殺し、たかがゴブリンでは逃げる事しかできない。
と、深閑とした森に葉の擦れる音がした。 2~3箇所……囲まれている。 とはいえそれぞれの距離はまだ遠く、ゴブリンは意を決して走り出した。
しかしすぐに――
………………ガグゥガアァァァ!!
狼の鋭い牙がゴブリンの頚椎を噛み砕いた。
月下差し込む滝壺の一角。
横に寝そべって待つ長の前へ、最後の狼が魔石を吐き出す。
月の光で琥珀色に透き通る魔石を積んだ小山は、狩り終えたゴブリンの数を示している。
「これで最後か」
長の確認に、配下はその場に座り、頷いた。
大半は人の村に取られたものの、これだけあれば充分足りるだろう。
長は納得し、違う配下との話しを続ける。
「それで?」
「調査に来た冒険者は村を後にし、山狩りも行われないようです。 森夜の危険を冒す程の事態ではない、との見解でした」
狼達が「ぅっしっ!」とか「ワフンッ♪」とか思い思いに喜ぶ。
長の受けも良い。
「そうか、賢明だな」
「では母上」
「あぁ、充分だ」
満足げに立ち上がり、狼達を見渡すと、長は次の指示を下す。
「洞窟を探せ、無ければ作れ。 俺を外で寝かすなよ?」
配下達は頷き、狼の長は告げた。
「ここに住む。 始めろ!」
厳命を頂き、方々に走り出す。
残った長は滝横の崖を駆け登ると、見晴らしの良い断崖から、遠い人間の村を見下ろした。
寒風が小麦色の毛並みを揺らす。
先日の、村を丸々覆い隠す光の膜を思い出し、久しい興奮に口元が緩む。
「面白い。 楽しませてもらうぞ、人間」
殲滅という意味ではなく、文字通りの大掃除。 内容はゴブリンの死体運びと凍り付いた血の洗浄だ。
生き残りがいないとも限らないので、子供は外出禁止となっている。
出たがる子なんていないだろう……
私とフローラちゃんはギルド職員用休憩室に残り、入れ代わり立ち代わりで休憩するお母さんやお父さん、エレオノールさんやフローラ父に相手をしてもらっていた。
正確には私がずっとフローラちゃんと遊び続け、皆は寝落ちしていたんだけどね。
シスターちゃんはレムリアさんと共に、村の浄化作業に加わっている。 掃除ではない。 シスターとしてやるべき仕事があるのだとか。
付き添い、シスターの仕事を学ぶのも見習いとしての義務である。 それだけが理由のようには見えなかったけどね。
翌日、葬式が執り行われた。
村の一員として、私やフローラちゃんも抱えられて参列する。
亡くなられた自警団の3人はこのあと火葬されるらしい。 遺体が残るのはアンデット化や墓荒らし、魔獣を引き寄せる等の危険を孕むので、この世界の葬式は火葬が主流なんだとか。
献花が終わり、2人のシスターが祈りを捧げる。
私とお姉ちゃんももう1度黙祷し、彼等のご冥福をお祈りした。
帰り道、私は決意した。
(お姉ちゃん、私、お婆ちゃんに魔法付与を教わろうと思う)
突然の申し出に、お姉ちゃんが首を傾げる。
((あれ、お婆ちゃんのこと苦手だったんじゃないの?))
(そうだけど……)
あの容赦なくグイグイ来るのが恐かっただけだから。 正直、魔法関連の知識には興味がある。
(それに、お姉ちゃんは魔法付与には詳しくないんだよね?)
((……うん。 魔法付与は魔術師の領分だからねぇ。 私はどちらかというと指揮官だし))
以前夢で言っていた、魔王軍だからって全員が強いわけではないと。
でも、だとしても、幹部までになったお姉ちゃんはとてつもなく凄いと思う。
んで、話しは戻るけど。
(だからこそ、お婆ちゃんに習おうと決心したんだよ)
使い方次第では常設の結界に応用できると思うんだよね。 さすがにA○フィールドは無理だろうけど。
気が付くと、お姉ちゃんは私に不思議そうな目を向けていた。
((……どうしたの? 急にやる気出しちゃって))
(ちょっとね……私も家族や友達を失いたくないなって思って)
その為にも、事前に出来ることをやってみたいの。
理想通りにはいかないだろうけどさ、防御力強化とか回避力アップとか……いやもっと根本的に、魔獣が侵入できない結界を作ったりしたい。
頑張って村興しをしても、こうやって被害が出てちゃ、誰も安心して来てくれないと思う。
この村は都心部から遠く、森と山に隣接してるっぽい。 お父さんがそんな感じのことを前に言ってた。 都市より危険が多いし、大物みたいな奴が今後も来ないとは言い切れない。
だったらさ、魔獣を完全に拒絶できる魔法陣を作っちゃえば、その安全性だけでも価値があると思うの。
それが使われていないって事はお察しなんだけど……うまくいけば、前世の知識を使ってチートな魔法だって作れちゃうかもしれないし。
今世こそは、憧れだった主人公みたいになれるよう、必死に努力してみたいんだ。
後悔はもうしたくないから。
そのためには、ただ強くなるのを目指すより、防衛に絞って努力した方が良いんじゃないかって気がしたの。
魔法のことすらまだ何も知らないくせに、理想ばっかりでごめん。 だからこそ、お婆ちゃんにも習って、トラブルを未然に防げるようになっておきたい。
(……どうかな?)
もちろん、今世の人生はお姉ちゃんのものでもあるんだから、独断で決めるつもりはないよ。
お姉ちゃんは元々こっちの世界出身なんだし、何かやりたいことがあるなら、言ってくれれば手伝いたい。
(た……ただでも、良ければ手伝ってほしい)
途中から不安になり、声が小さくなる。
お姉ちゃんは、何かを思案しているようで口を閉ざしたままだ。
そういう間が、なおさら私を不安にさせる。
((……フフッ♪))
返事がなかなか来ないと思ったら、なぜか笑われた。
(ふぇ? 私何か変なこと言った?)
((うんん。 姉妹だなぁって、嬉しくて。 あんなに震えていたのに、大丈夫?))
分かっているくせに、あえて意地悪を言うお姉ちゃん。 我が子の成長を楽しむ母親みたいな声してる。 姉妹だからね?
大丈夫とは無責任に言えないよ、だから頑張る。 頑張ってせめて、自分の身は自分で守れるようには強くなりたい。
ちょっと前まではただ村興しをして、日常系4コマ漫画みたいな将来を目指したいなって夢見てたけど、現実を知った今、それで後悔はしたくない。
平和ボケ主義者は暫く封印かな。 もちろん美容や健康を諦めたわけじゃないよ?
目指せ美魔女! またはプリキ○ア!
せっかく女の子に産まれたんだから、そこは妥協したくない。
((フフフッ♪))とまた笑われた。
((心配しなくても、この村は私にとっても第二の故郷なんだから、気持ちは同じ。 それに、やりたいことは遠慮なく言っているから、安心して。 気にしてくれてありがとう))
本心からの笑顔であることが、心に伝わって来て安心する。
こういう時、繋がっていて本当に助かった。 心配性な私は、つい気を使われているのではとどこまでも勘繰ってしまうから。
((魔法付与は私も教わってみたかったから、むしろ言い出してくれて助かったくらいよ。 何が来ても守れるよう、一緒に頑張りましょう♪))
(うん♪)
((もちろん、今まで以上のスパルタでいくからね。 今夜から読み書きと魔法の授業、倍にするから♪))
う……望むところですよアッハッハッハッ!
がっ、頑張る。
*
2日後、朝。
レムリアさんとシスターちゃんが帰る日になった。 大幅に遅れたけど、手紙は出していたので問題ない。
「じゃぁね、エメルナ。 色々ありがとう♪」
「しゃんネっ!」
シスターちゃんと両手で握手し、笑顔でお別れする。
泣き腫らした次の日から、シスターちゃんは胸のつっかえが幾分か軽くなったように明るくなっていった。 今ではもう、呼び捨ての関係である。 フローラちゃんの次に出来る友達が、まさかシスターちゃんになるとは思いもよらなかった。
凄く嬉しいに決まっている。
白に金糸の修道服を纏った2人が、玄関で別れの挨拶をする。
今は『レムリア』ではなく、シスターとして身を引き締めていた。
「お世話になりました」
「こちらこそ、居てくれて凄く助かりましたよ。 またいつでもいらっしゃってください」
「ありがとうございます。 それではこれで、失礼いたしました」
防寒着を羽織り、私と両親に見送られながら、2人はいつもの冒険者さん達も乗る馬車へと乗り込んだ。
黒髪さんが顔を出す。
「じゃぁねぇ~! また~!」
朝からテンション高いなぁ。 他のメンバーは近所迷惑を考えているのに。
窓から顔を見せる2人に、お母さんが私の腕を振る。
「バイバ~イ!」
「ばいばぁい♪」
軽くお辞儀で返され、そのタイミングで御者が馬に合図を出す。
カラカラと車輪を回して進む馬車を、私達は見えなくなるまで見送った。
(うぅ~寒い!)
早く家に入ろう。
「じゃ、俺も行ってくるよ」
お父さんも時間だからね。 防寒着の下は既に商業ギルドの制服だ。
「えぇ、行ってらっしゃい」
「行ってきます。 エメルナも、行ってきます」
手を振るお父さんに私も振り返す。
「ばいばぁい!」
「それ違うから! お父さんはバイバイしないから!」
(おっと、つい)
お母さんが「行ってらっしゃい♪」と言いながら私の腕を振る。
「いったぁ~しゃい!」
「あぁ。 行ってきます!」
お父さんも爽やかな笑顔で手を振り返し、そのまま商業ギルドへ出勤した。
家に入り、暖炉の前で体を暖める。 3月とはいえ、さすがに防寒着無しでは手足が冷えるね。
「あぁ~~っぁあっ……」
ヤバい欠伸出た。
暖かくなって眠気が再来したっぽい。 寝坊したくなくて、日の出寸前に起きちゃったんだよねぇ。
お母さんがお皿を洗いに台所へ行き、居間には私とお姉ちゃんだけが残された。
ありがたく、仰向けに寝転がる。
一息吐き、静かになった部屋を見渡す。
何か……やっと日常に戻れた気がするなぁ。
ふと何かを思い付くが、言葉が出てこない。
(お姉ちゃん、こういうのって何て言うんだっけ?)
『雨降って地固まる』? 『祭りの後』?
ちょっと違う……。 眠気で頭が回らない。
あっ、『台風の後の静けさ』だ!
((『嵐の前の静けさ』、ね))
(そう! それ!)
でも言いたいことと間逆だった!
強いて言うなら『祭りの後の静けさ』で良かったのに! これ以上の嵐なんて来たら一溜まりもないっつうの!
半ば呆れ気味のお姉ちゃんに笑われる。
((心配性ねぇ。 大丈夫よ、お姉ちゃんに任せなさい♪))
さすお姉! よし、私に出来ることがあるなら何でも言って、頑張るから!
((じゃぁ、今から一緒に寝ましょうか))
(…………へ?)
と、引っ張られるように体が眠気に包まれる。 瞼が重い。
((癖になるくらい、い~っぱい授業してあげるからね♪))
甘い声が頭の中で囁かれたが、そこにエロい意味は一片も無かった。
(あっ……これは、スパルタドS教師……の目…………)
最近になって悟ったんだけど。 お姉ちゃんは、自分の知識を誰かに教えるのが楽しいらしい。
((そうそう、言い忘れていたけれど、今日からは戦いの知識も身に付けてもらうから、コロシアムフィールドで魔獣と殺し会ってもらいます♪))
その言葉を子守唄に、私は意識を零れ落とした。
目を開くと、そこは中世ヨーロッパ風の闘技場だった。
石造りで荘厳だが、夜で薄暗く視界が悪い。
右手には片手剣、左腕には盾。 10歳ほどの体で、シスターちゃんが着ていたお古の私服。 そして前方には1体のゴブリン。
「んにぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~!!!」
言葉にならない悲鳴が轟く。
時間感覚を失った夢世界による、『24時間耐久、嵐の異世界授業』が今、始まった。
*
夜。
月明かり遮る闇深い森。 撤退し、生き残った1体のゴブリンが息も絶え絶えに身を潜めている。 数十いた仲間はもういない。 あの断末魔だけが、耳にこびり付いて離れずにいる。
相手は長殺し、たかがゴブリンでは逃げる事しかできない。
と、深閑とした森に葉の擦れる音がした。 2~3箇所……囲まれている。 とはいえそれぞれの距離はまだ遠く、ゴブリンは意を決して走り出した。
しかしすぐに――
………………ガグゥガアァァァ!!
狼の鋭い牙がゴブリンの頚椎を噛み砕いた。
月下差し込む滝壺の一角。
横に寝そべって待つ長の前へ、最後の狼が魔石を吐き出す。
月の光で琥珀色に透き通る魔石を積んだ小山は、狩り終えたゴブリンの数を示している。
「これで最後か」
長の確認に、配下はその場に座り、頷いた。
大半は人の村に取られたものの、これだけあれば充分足りるだろう。
長は納得し、違う配下との話しを続ける。
「それで?」
「調査に来た冒険者は村を後にし、山狩りも行われないようです。 森夜の危険を冒す程の事態ではない、との見解でした」
狼達が「ぅっしっ!」とか「ワフンッ♪」とか思い思いに喜ぶ。
長の受けも良い。
「そうか、賢明だな」
「では母上」
「あぁ、充分だ」
満足げに立ち上がり、狼達を見渡すと、長は次の指示を下す。
「洞窟を探せ、無ければ作れ。 俺を外で寝かすなよ?」
配下達は頷き、狼の長は告げた。
「ここに住む。 始めろ!」
厳命を頂き、方々に走り出す。
残った長は滝横の崖を駆け登ると、見晴らしの良い断崖から、遠い人間の村を見下ろした。
寒風が小麦色の毛並みを揺らす。
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