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4,オニの棲家
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どのくらい経ったでしょうか、オコジョの坊やが気付いた時には、後ろ足の痛みは無くなっていました。
痛かった足に、何か巻いてあって、何やら塗られている匂いもします。
母さんが草で作る薬のようなものだろうかと、考えます。
「ここはどこだろう」
辺りを見まわします。坊やは、さっきよりも、大きくて広い網の籠に入っていました。
籠の外は、見た事もないところでした。
とても広くて、木の香りはするけれど、森の木々とは違う木だったし、山では見たこともないほど、いろんな色があちこちにありました。それに、まるで夏の様に暖かい。
オコジョの坊やは、ここがオニの家だと理解しました。
『おや、気が付いた様だね』
オニが近づいて来ます。
オニの顔は笑っている様でした。
オニは、木の器を坊やの前に置きます。
器にはこんもりと食べ物が盛ってあります。
『さあ、食べなさい』
おいしそうな匂いがします。恐る恐る近づいて、堪らず坊やは、食べてしまいます。
「おいしい」
驚くほどの美味しさでした。
鳥肉のような、木の実の味もするような。
オニが作ったものなのだろうか、食べた事のない美味しさです。
お母さんにも食べさせたいと思いました。
お母さんどうしているだろうか、心配してるだろうか、頭をよぎりましたが、目の前の美味しい食事には敵いません。
ごめんねお母さん、なんて思いながら、むしゃぶりつきます。
『やっぱり、お腹減ってたんだねえ』
坊やが食べている様子を、オニが見ています。
オニは笑っているのだろうか、気づけば、もう震えていません。
不思議とそんなに恐くなくなっていました。
今度は、奥の方から小さいオニが近づいてきました。
坊やは、オニの子供だろうと思いました。
『お父さん、何これ、かわいい』
オニの子供が、オコジョの坊やを見て、興奮した様子で何か言っています。
坊やは反射的に身構えます。
『畑を荒らす、タヌキやアナグマを捕まえる罠に、オコジョさんが誤って入っていたんだよ』
オニの子供が、『おこじょだ』などと、キャッキャと声を上げて、籠の中に手を入れて来ます。
オコジョの坊やは、驚いて、怖くて、オニの子供の手に噛み付きます。
『うわーん、いたいよー』
オニの子供は、泣き出しました。
オコジョの坊やにも泣いているのが分かります。
びっくりしました。
オニは恐ろしい思っていたのに、噛み付いたら泣き出しました。
弱いです。
『こら、野生の動物に、むやみに手を出してはダメだ、嚙まれるのは当たり前だよ。それにオコジョさんに限らず野生動物は、どんな病原体を持っているか分からないからね、感染する危険なものを持ってるかも知れないから、直接触っちゃダメだよ』
オコジョの坊やには、オニが、泣いている子供を叱っている様に見えました。
『ごめんなさい』
うつむいって、涙を拭きながら謝っているようです。
『オコジョさんは、ケガをしているんだから、優しく見守ってあげようね。』
オニが子供の頭をなでます。優しく撫でます。
『ほら、診せてごらん』
オニが、子供に笑いかけて、坊やが噛んだところを手で撫でると、子供が泣き止みます。
『オコジョさんはね、昔は、アーミンといって、その毛皮が、権威の象徴とされていてね』
『けんいのしょうちょう?』子供が首をかしげる。
『うん、自分の強さを、他の人に見せつける為、って言うのかな、昔のえらい人たちは、自分が凄いって知ってもらう必要があったんだろうね』
『見せびらかしたいって事?あ、でも学校のお友達にもいるよ、すごく威張ってて意地悪。昔のえらい人って子供みたいだね』
子供の思いがけない言葉に、オニは次の言葉がすぐに出なくて固まったようです。
『ははは、本当だよね、まあ、昔の人も威張る為だけでは無いんだろうけど、本当に必要だったのかと、思っちゃうよね。それでも、みんなが欲しがるほどに、とても高価だったんだよ。それで、競うようにみんなが捕まえてしまったから、オコジョさんが居なくなってしまったんだよ』
『ひどいよ、かわいそうだよ』と、子供が訴える。
『そうだね、減りすぎてしまって、絶滅危惧種に指定されているんだ。今は、もう毛皮じゃなくて人工の毛皮を使っているらしいけどね。だから、オコジョさんもだけど、動物たちを守ってあげないといけないんだね。でも、本当はもっと山の上の方に住んでるはずなんだけど、こんなに麓の方まで来るなんて、めずらしいね』
『うん、ぼく、動物まもる』オニの子供が目を見開いて返事します『でも、なんで、タヌキは捕まえるの?畑を荒らすから?』
子供に言われて、オニは、きまりが悪そうに答える。
『そうだね。我々も生きて行かなければならないからね。害をもたらす動物は捕まえて、もう麓に来ないようにと、山の奥に放すんだよ。そうやって、共存して行けるといいんだけど、こちらの勝手かもね。実際にはね、殺してしまったり、食べてしまったりする事もあるんだよ』
『えー、そんなのひどいよ』
子供が頭をぶんぶん振って、手向かう姿勢を見せます。
『そうだね、殺す事がないと良いよね。でもね、オコジョさんだって、ネズミや、ウサギを殺して食べるんだよ、こんなに小さな体でも、自分より大きな動物と戦っているんだ。みんな自然の中で生きていくには、そうやって生命をもらって生きていくんだ。だから、生命は大切にしなくちゃいけないんだね』
オコジョの坊やは、オニの親子のやりとりを見ていて、母さんを思い出して寂しくなりました。オニが子供に優しく笑うものだから、母さんと重なって見えました。
オニが籠に手を入れて、オコジョの坊やを手で掴みます。
捕まえられるのが嫌でバタバタしましたが、もう恐くなかったです。
オニに手で捕まえられて、膝の上で仰向けにされます。
ケガした足を触られてチクっと痛みましたが、薬の様な物を塗られました。
『もう、大丈夫だね』そう言って、オニは手を放しました。
坊やは、自由になって、慌ててオニの膝から飛びのきます。
またオニに捕まえられると思ったけれど、オニはそうしません。
代わりに、オニの子供が近づいて来るので、家の中を走って逃げ回ります。
オコジョの坊やには、初めて目にする物ばかりです。
大きな木のテーブルの上を駆けて、ふわふわの、若草色のソファーを跳ねてその下に滑り込み、一枚岩みたいにつるつる滑る床を這い出して、コマクサの淡い色やナナカマドの赤、キンポウゲの黄色とか、たくさんの色が並んだ本棚の裏に隠れて、走って逃げまわります。
いつもの、山の岩場や、森の木の根をかきわけて走るのとも違います。
オコジョの坊やは必死に逃げ回るけれど、オニの子供が笑顔で追いかけてくるので、少しだけ、楽しくなっていました。
痛かった足に、何か巻いてあって、何やら塗られている匂いもします。
母さんが草で作る薬のようなものだろうかと、考えます。
「ここはどこだろう」
辺りを見まわします。坊やは、さっきよりも、大きくて広い網の籠に入っていました。
籠の外は、見た事もないところでした。
とても広くて、木の香りはするけれど、森の木々とは違う木だったし、山では見たこともないほど、いろんな色があちこちにありました。それに、まるで夏の様に暖かい。
オコジョの坊やは、ここがオニの家だと理解しました。
『おや、気が付いた様だね』
オニが近づいて来ます。
オニの顔は笑っている様でした。
オニは、木の器を坊やの前に置きます。
器にはこんもりと食べ物が盛ってあります。
『さあ、食べなさい』
おいしそうな匂いがします。恐る恐る近づいて、堪らず坊やは、食べてしまいます。
「おいしい」
驚くほどの美味しさでした。
鳥肉のような、木の実の味もするような。
オニが作ったものなのだろうか、食べた事のない美味しさです。
お母さんにも食べさせたいと思いました。
お母さんどうしているだろうか、心配してるだろうか、頭をよぎりましたが、目の前の美味しい食事には敵いません。
ごめんねお母さん、なんて思いながら、むしゃぶりつきます。
『やっぱり、お腹減ってたんだねえ』
坊やが食べている様子を、オニが見ています。
オニは笑っているのだろうか、気づけば、もう震えていません。
不思議とそんなに恐くなくなっていました。
今度は、奥の方から小さいオニが近づいてきました。
坊やは、オニの子供だろうと思いました。
『お父さん、何これ、かわいい』
オニの子供が、オコジョの坊やを見て、興奮した様子で何か言っています。
坊やは反射的に身構えます。
『畑を荒らす、タヌキやアナグマを捕まえる罠に、オコジョさんが誤って入っていたんだよ』
オニの子供が、『おこじょだ』などと、キャッキャと声を上げて、籠の中に手を入れて来ます。
オコジョの坊やは、驚いて、怖くて、オニの子供の手に噛み付きます。
『うわーん、いたいよー』
オニの子供は、泣き出しました。
オコジョの坊やにも泣いているのが分かります。
びっくりしました。
オニは恐ろしい思っていたのに、噛み付いたら泣き出しました。
弱いです。
『こら、野生の動物に、むやみに手を出してはダメだ、嚙まれるのは当たり前だよ。それにオコジョさんに限らず野生動物は、どんな病原体を持っているか分からないからね、感染する危険なものを持ってるかも知れないから、直接触っちゃダメだよ』
オコジョの坊やには、オニが、泣いている子供を叱っている様に見えました。
『ごめんなさい』
うつむいって、涙を拭きながら謝っているようです。
『オコジョさんは、ケガをしているんだから、優しく見守ってあげようね。』
オニが子供の頭をなでます。優しく撫でます。
『ほら、診せてごらん』
オニが、子供に笑いかけて、坊やが噛んだところを手で撫でると、子供が泣き止みます。
『オコジョさんはね、昔は、アーミンといって、その毛皮が、権威の象徴とされていてね』
『けんいのしょうちょう?』子供が首をかしげる。
『うん、自分の強さを、他の人に見せつける為、って言うのかな、昔のえらい人たちは、自分が凄いって知ってもらう必要があったんだろうね』
『見せびらかしたいって事?あ、でも学校のお友達にもいるよ、すごく威張ってて意地悪。昔のえらい人って子供みたいだね』
子供の思いがけない言葉に、オニは次の言葉がすぐに出なくて固まったようです。
『ははは、本当だよね、まあ、昔の人も威張る為だけでは無いんだろうけど、本当に必要だったのかと、思っちゃうよね。それでも、みんなが欲しがるほどに、とても高価だったんだよ。それで、競うようにみんなが捕まえてしまったから、オコジョさんが居なくなってしまったんだよ』
『ひどいよ、かわいそうだよ』と、子供が訴える。
『そうだね、減りすぎてしまって、絶滅危惧種に指定されているんだ。今は、もう毛皮じゃなくて人工の毛皮を使っているらしいけどね。だから、オコジョさんもだけど、動物たちを守ってあげないといけないんだね。でも、本当はもっと山の上の方に住んでるはずなんだけど、こんなに麓の方まで来るなんて、めずらしいね』
『うん、ぼく、動物まもる』オニの子供が目を見開いて返事します『でも、なんで、タヌキは捕まえるの?畑を荒らすから?』
子供に言われて、オニは、きまりが悪そうに答える。
『そうだね。我々も生きて行かなければならないからね。害をもたらす動物は捕まえて、もう麓に来ないようにと、山の奥に放すんだよ。そうやって、共存して行けるといいんだけど、こちらの勝手かもね。実際にはね、殺してしまったり、食べてしまったりする事もあるんだよ』
『えー、そんなのひどいよ』
子供が頭をぶんぶん振って、手向かう姿勢を見せます。
『そうだね、殺す事がないと良いよね。でもね、オコジョさんだって、ネズミや、ウサギを殺して食べるんだよ、こんなに小さな体でも、自分より大きな動物と戦っているんだ。みんな自然の中で生きていくには、そうやって生命をもらって生きていくんだ。だから、生命は大切にしなくちゃいけないんだね』
オコジョの坊やは、オニの親子のやりとりを見ていて、母さんを思い出して寂しくなりました。オニが子供に優しく笑うものだから、母さんと重なって見えました。
オニが籠に手を入れて、オコジョの坊やを手で掴みます。
捕まえられるのが嫌でバタバタしましたが、もう恐くなかったです。
オニに手で捕まえられて、膝の上で仰向けにされます。
ケガした足を触られてチクっと痛みましたが、薬の様な物を塗られました。
『もう、大丈夫だね』そう言って、オニは手を放しました。
坊やは、自由になって、慌ててオニの膝から飛びのきます。
またオニに捕まえられると思ったけれど、オニはそうしません。
代わりに、オニの子供が近づいて来るので、家の中を走って逃げ回ります。
オコジョの坊やには、初めて目にする物ばかりです。
大きな木のテーブルの上を駆けて、ふわふわの、若草色のソファーを跳ねてその下に滑り込み、一枚岩みたいにつるつる滑る床を這い出して、コマクサの淡い色やナナカマドの赤、キンポウゲの黄色とか、たくさんの色が並んだ本棚の裏に隠れて、走って逃げまわります。
いつもの、山の岩場や、森の木の根をかきわけて走るのとも違います。
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