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高校生編
32. 心の傷 後編
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その日のボイストレーニングが終わると、めずらしく誠から話があると言われ、レッスン室の椅子に全員座らされた。
「え....?なに?怖いんですケド....」
「どうした?誠」
いつもとは違う雰囲気の誠に、みんな緊張していた。
誠は5人を横1列に座らせ、自分はみんなの方を見て立っている。すると大きく息を吐き、
「俺、彼女が出来た」
と宣言する。
「..............は?」
隼斗は突然の宣言に驚いた。しかしすぐに全員、
「え?え?誠が⁉」
「いつの間に⁉」
「何も聞いてないんですけど‼」
と興奮して椅子から立ち上がり、誠に詰め寄る。
そして明日香が、
「誠、もしかしてその彼女って.......」
「うん。美里」
その名前にいち早く反応したのは隼斗だった。
「た、立花さんと⁉」
「隼斗、知ってる子?」
「俺のクラスメイト!てかさ、前から聞こうと思ってたんだけど、いつの間にそんなに仲良くなった?」
隼斗は誠に聞いてみる。誠はしばらく考えて、
「気づいたら仲良くなってて、気づいたら好きになってたから告白した」
「!!!!!」
この言葉で、再び全員興奮する。
「ま、ま、誠の口からそんな言葉が出てくるとは....!」
「きゃーーーーデレてる!明日香!誠がデレてるよ‼」
「なんか、こっちが恥ずかしくなってきた.....」
友達の幸せ話に、全員興奮が治まらない。すると今度は真剣な顔で、
「それでさ、美里に俺たちのことを話したいと思ってるんだけど.....」
今日の誠の本題はそれだった。
デビューも決まり、レッスンの回数も増えたことで、彼女が出来た誠としては、週3回のレッスンのことを言わないわけにはいかなかった。それを聞いた僚が、
「.....いいんじゃないか?話しても。隠し事をするのは、誠が心苦しいだろうし、彼女を安心させるためにも話してもいいと思うよ」
と言ってくれた。それを聞いた明日香も、
「うん。わたしもその方がいいと思う。でも誠、顔を出さずにデビューするのは変わらないから、口止めはお願いね」
そう言って笑ってくれた。
「うん。それは美里にもちゃんと言っとく」
「ま、真面目な立花さんなら大丈夫だろ」
なぜか隼斗が分かったように言うもんだから、誠が隼斗の足を踏んづける。
「今度、みんなにも美里を紹介したい」
その言葉に全員「いいよ!」と答えた。
そのあともみんなでしゃべっていると、ガチャっとドアが開いて、
「あっよかった、まだいた」
そう言いながら、元木が入ってきた。
「あ、元木さーん。お疲れ様でーす」
いの一番に深尋が元木に挨拶する。
「うん、お疲れ様。帰ろうとしてるところ悪いけど、僚、竣亮、ちょっといいか?」
そう言って元木は、僚と竣亮を呼び出す。他の4人はどうしたんだろう?と思いながらも、気にせず話を続けた。
元木は、僚と竣亮に隣の空いているレッスン室に入るよう言った。
「ごめんね急に呼び出して」
僚と竣亮を椅子に座らせながら、話を切り出す。
「今日のこと林くんから聞いたんだけど、竣亮、大丈夫か?」
「............はい。大丈夫です」
竣亮の声は、先ほどとは打って変わってすごく小さい。
「竣亮、言いたくないかもしれないけど、何があったか話してくれないかな。何度も言ってるけど、僕は本当に君たちが大切なんだ。だから、少しでも君たちの不安や迷いや悩みを、取り除いてあげたいと思ってる。大人の僕なら、解決してあげられるかもしれない。だから、話してくれないか?」
竣亮は顔を俯いたまま、何も話さない。それを見た僚が、
「..........竣」
と言って、背中をさすっている。
「............元木さん。誰にも言いませんか?」
竣亮は重い口を開く。
「うん、約束する。誰にも言わないよ」
そうして竣亮は、あのバレンタインデーにあった出来事を話した。
楽器庫で同級生の難波に無理やりキスをされたこと。その唇と舌の感触がいまだに残っていること。学校で難波を見かける度に気持ちが悪くなり、呼吸が早くなること。そして今日は直接話しかけられ、過呼吸の症状が大きく出たこと。そのことを両親に話していないこと。
竣亮は話しているうちに涙が出て、止まらなかった。そして、元木が竣亮にハンカチを渡すと、
「竣亮、辛いのに話してくれてありがとう。でもね無理に頑張る必要はない。泣きたいときは泣けばいい。男だからって関係ないよ。それに竣亮には僚も、隼斗も、誠も、明日香も、深尋もいる。もちろん僕も。だから無理に頑張る必要はないんだ。みんなが助けてくれるから」
そう優しく諭してくれた。
「そうだよ竣、言ったろ?俺たちはいつでも竣の味方だって」
「.............うん。ありがとう、僚くん。元木さん」
こうして少し笑顔を見せてくれた。
竣亮が落ち着いたのを見て、元木が話す。
「竣亮、このことは僕を信じて、僕に任せてくれないかな」
「........どういうことですか?」
竣亮には元木が、どのように解決しようとしているかわからなかった。
「君がこれ以上傷つかないために、大人の僕が頑張るんだよ」
「...............」
「ただし君はまだ未成年で、保護者であるご両親には話さないといけない。君が話せないなら、僕が代わりに話すよ。そして解決していきたい」
両親に話すと言われて、竣亮は再び俯いた。それはそうだろう、竣亮の両親はとても厳しく、竣亮もみんなも苦手としているからだ。それをわかっているのだろう、元木がある話をする。
「君のご両親、特にお母様だけど、僕と頻繁に連絡を取り合っているんだよ」
「..........え?」
竣亮は初耳だったらしい。母親からそんな様子が一切見られなかったからだ。竣亮の両親は、説明会以降GEMSTONEを訪れていなかった。いままで習い事が一切続かなかったので、今回も同じだろうと思っていたのか、それとも違う理由があるのか、いまとなってはわからない。
だから、まさか母親が元木と連絡を取り合っていたなんて、信じられなかった。その母親とのやり取りを元木が話してくれた。
「小さい頃、体が弱くて男の子なのに体力がない君を心配して、いろんな習い事をさせても何一つ続かなかったのに、ここのレッスンだけはずっと続けている。一体、どういう内容のレッスンをしているんですか?って聞かれたから、お母様に撮影した動画を送ったことがあったんだ」
元木から語られていることは、竣亮の知らない話だった。
「それからお母様に定期的に動画を送っているんだよ。そしたらね、息子がこんなに生き生きしているのを見られるのが、こんなに幸せなこととは思わなかったって。ありがとうございますって言われたんだ」
「........母が...?」
「そう。君の一番強い味方は、君のご両親だよ。だから僕を信じて任せてほしい」
元木はそう言い切った。
竣亮は、自分の両親が自分のことをこんなにも考えてくれているなど、想像もしなかった。両親が喜ぶのは、とにかくいい学校に入って、いい成績をとって、将来は安定した職業に就くことだと思っていたからだ。それがまさか、そんな風に思われていたなんて、考えもしなかった。
思えばデビューしたいと言った時も、姉の助けを借りたが、それでもすんなりと受け入れてくれた。もしかしたら両親は、動画で自分の様子を見てその覚悟をしていたのかもしれない。今になって竣亮は、改めて両親のことを思った。
そして、元木の任せてほしいという提案に対して、
「......はい。よろしくお願いします」
と返事をした。
そのあと、元木から話を聞いた竣亮の両親は、竣亮のことをひどく心配し、竣亮と両親、そして学校と話し合った結果、竣亮が転校することに決まった。
転校先については、隼斗と誠の学校へ転校することとなった。竣亮の成績であれば問題はなく、何より信頼できる友達がいたからだ。
梅雨本番を迎えた6月下旬。竣亮は新しい制服を着て、新しい学校に登校した。これ以上傷つかないために。
「え....?なに?怖いんですケド....」
「どうした?誠」
いつもとは違う雰囲気の誠に、みんな緊張していた。
誠は5人を横1列に座らせ、自分はみんなの方を見て立っている。すると大きく息を吐き、
「俺、彼女が出来た」
と宣言する。
「..............は?」
隼斗は突然の宣言に驚いた。しかしすぐに全員、
「え?え?誠が⁉」
「いつの間に⁉」
「何も聞いてないんですけど‼」
と興奮して椅子から立ち上がり、誠に詰め寄る。
そして明日香が、
「誠、もしかしてその彼女って.......」
「うん。美里」
その名前にいち早く反応したのは隼斗だった。
「た、立花さんと⁉」
「隼斗、知ってる子?」
「俺のクラスメイト!てかさ、前から聞こうと思ってたんだけど、いつの間にそんなに仲良くなった?」
隼斗は誠に聞いてみる。誠はしばらく考えて、
「気づいたら仲良くなってて、気づいたら好きになってたから告白した」
「!!!!!」
この言葉で、再び全員興奮する。
「ま、ま、誠の口からそんな言葉が出てくるとは....!」
「きゃーーーーデレてる!明日香!誠がデレてるよ‼」
「なんか、こっちが恥ずかしくなってきた.....」
友達の幸せ話に、全員興奮が治まらない。すると今度は真剣な顔で、
「それでさ、美里に俺たちのことを話したいと思ってるんだけど.....」
今日の誠の本題はそれだった。
デビューも決まり、レッスンの回数も増えたことで、彼女が出来た誠としては、週3回のレッスンのことを言わないわけにはいかなかった。それを聞いた僚が、
「.....いいんじゃないか?話しても。隠し事をするのは、誠が心苦しいだろうし、彼女を安心させるためにも話してもいいと思うよ」
と言ってくれた。それを聞いた明日香も、
「うん。わたしもその方がいいと思う。でも誠、顔を出さずにデビューするのは変わらないから、口止めはお願いね」
そう言って笑ってくれた。
「うん。それは美里にもちゃんと言っとく」
「ま、真面目な立花さんなら大丈夫だろ」
なぜか隼斗が分かったように言うもんだから、誠が隼斗の足を踏んづける。
「今度、みんなにも美里を紹介したい」
その言葉に全員「いいよ!」と答えた。
そのあともみんなでしゃべっていると、ガチャっとドアが開いて、
「あっよかった、まだいた」
そう言いながら、元木が入ってきた。
「あ、元木さーん。お疲れ様でーす」
いの一番に深尋が元木に挨拶する。
「うん、お疲れ様。帰ろうとしてるところ悪いけど、僚、竣亮、ちょっといいか?」
そう言って元木は、僚と竣亮を呼び出す。他の4人はどうしたんだろう?と思いながらも、気にせず話を続けた。
元木は、僚と竣亮に隣の空いているレッスン室に入るよう言った。
「ごめんね急に呼び出して」
僚と竣亮を椅子に座らせながら、話を切り出す。
「今日のこと林くんから聞いたんだけど、竣亮、大丈夫か?」
「............はい。大丈夫です」
竣亮の声は、先ほどとは打って変わってすごく小さい。
「竣亮、言いたくないかもしれないけど、何があったか話してくれないかな。何度も言ってるけど、僕は本当に君たちが大切なんだ。だから、少しでも君たちの不安や迷いや悩みを、取り除いてあげたいと思ってる。大人の僕なら、解決してあげられるかもしれない。だから、話してくれないか?」
竣亮は顔を俯いたまま、何も話さない。それを見た僚が、
「..........竣」
と言って、背中をさすっている。
「............元木さん。誰にも言いませんか?」
竣亮は重い口を開く。
「うん、約束する。誰にも言わないよ」
そうして竣亮は、あのバレンタインデーにあった出来事を話した。
楽器庫で同級生の難波に無理やりキスをされたこと。その唇と舌の感触がいまだに残っていること。学校で難波を見かける度に気持ちが悪くなり、呼吸が早くなること。そして今日は直接話しかけられ、過呼吸の症状が大きく出たこと。そのことを両親に話していないこと。
竣亮は話しているうちに涙が出て、止まらなかった。そして、元木が竣亮にハンカチを渡すと、
「竣亮、辛いのに話してくれてありがとう。でもね無理に頑張る必要はない。泣きたいときは泣けばいい。男だからって関係ないよ。それに竣亮には僚も、隼斗も、誠も、明日香も、深尋もいる。もちろん僕も。だから無理に頑張る必要はないんだ。みんなが助けてくれるから」
そう優しく諭してくれた。
「そうだよ竣、言ったろ?俺たちはいつでも竣の味方だって」
「.............うん。ありがとう、僚くん。元木さん」
こうして少し笑顔を見せてくれた。
竣亮が落ち着いたのを見て、元木が話す。
「竣亮、このことは僕を信じて、僕に任せてくれないかな」
「........どういうことですか?」
竣亮には元木が、どのように解決しようとしているかわからなかった。
「君がこれ以上傷つかないために、大人の僕が頑張るんだよ」
「...............」
「ただし君はまだ未成年で、保護者であるご両親には話さないといけない。君が話せないなら、僕が代わりに話すよ。そして解決していきたい」
両親に話すと言われて、竣亮は再び俯いた。それはそうだろう、竣亮の両親はとても厳しく、竣亮もみんなも苦手としているからだ。それをわかっているのだろう、元木がある話をする。
「君のご両親、特にお母様だけど、僕と頻繁に連絡を取り合っているんだよ」
「..........え?」
竣亮は初耳だったらしい。母親からそんな様子が一切見られなかったからだ。竣亮の両親は、説明会以降GEMSTONEを訪れていなかった。いままで習い事が一切続かなかったので、今回も同じだろうと思っていたのか、それとも違う理由があるのか、いまとなってはわからない。
だから、まさか母親が元木と連絡を取り合っていたなんて、信じられなかった。その母親とのやり取りを元木が話してくれた。
「小さい頃、体が弱くて男の子なのに体力がない君を心配して、いろんな習い事をさせても何一つ続かなかったのに、ここのレッスンだけはずっと続けている。一体、どういう内容のレッスンをしているんですか?って聞かれたから、お母様に撮影した動画を送ったことがあったんだ」
元木から語られていることは、竣亮の知らない話だった。
「それからお母様に定期的に動画を送っているんだよ。そしたらね、息子がこんなに生き生きしているのを見られるのが、こんなに幸せなこととは思わなかったって。ありがとうございますって言われたんだ」
「........母が...?」
「そう。君の一番強い味方は、君のご両親だよ。だから僕を信じて任せてほしい」
元木はそう言い切った。
竣亮は、自分の両親が自分のことをこんなにも考えてくれているなど、想像もしなかった。両親が喜ぶのは、とにかくいい学校に入って、いい成績をとって、将来は安定した職業に就くことだと思っていたからだ。それがまさか、そんな風に思われていたなんて、考えもしなかった。
思えばデビューしたいと言った時も、姉の助けを借りたが、それでもすんなりと受け入れてくれた。もしかしたら両親は、動画で自分の様子を見てその覚悟をしていたのかもしれない。今になって竣亮は、改めて両親のことを思った。
そして、元木の任せてほしいという提案に対して、
「......はい。よろしくお願いします」
と返事をした。
そのあと、元木から話を聞いた竣亮の両親は、竣亮のことをひどく心配し、竣亮と両親、そして学校と話し合った結果、竣亮が転校することに決まった。
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