buddy ~絆の物語~

空風 羽海

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大人編

104.元・紡木小学校5年2組

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9月2日。予定日よりも少し遅く、竣亮と葉月の元に待望の女の子が産まれた。
名前は『彩葉イロハ』と名付けられた。

「自分の子供って、こんなに可愛いんだね.....」
竣亮は、産まれて間もない我が子を腕に抱きながら、葉月に語りかける。
「竣亮くんの子供だもの。可愛くないわけないじゃない」
「違うよ。僕と葉月さんの子供だよ。ちゃんと2人の血が入っているんだからね」
「.......そうね。竣亮くんとわたしの子供だわ......」
「ありがとう葉月さん。こんなに可愛い子を産んでくれて......」
竣亮は嬉しさで涙が止まらず、ポロポロと涙をこぼす。
「あらあら、竣亮くんは相変わらず泣き虫ね」
両手が塞がっている竣亮の代わりに、葉月がティッシュで涙を拭ってあげる。
「これは、悲しい涙じゃなくて、嬉し涙だからいいんだよ」
「ふふっ、わかったわ」
「周りに友達もたくさんいるし、早くみんなと一緒に遊んでいるところを見て見たいな」
「そんなのすぐよ。あっという間に大きくなって、あっという間にお嫁にいっちゃうかも」
葉月が意地悪そうに言う。

「えぇ⁉それはやだ.....」
その言葉を口にした瞬間、竣亮はこれがいわゆる「親バカ」かと思った。
みんなが我が子を可愛いというのも、隼斗が夕希を嫁に出したくないっていうのも、自分が親になって初めて感じた。
「葉月さん、僕も親バカの仲間入りしちゃった」
「あら、竣亮くん今気づいたの?あなた、この子がお腹にいるときからすでに親バカよ?」

葉月にそう言われて、竣亮は思い返す。葉月のお腹が大きくなるにつれ、毎日時間を見つけては、そのお腹に話しかけたりしていた。
時には、その声に答えるようにお腹が動いたりして、その度に、早く会いたいなぁ、無事に生まれてね、などと言っていた。
「そうだね.....僕、すでに親バカだった」
「ふふっ、でしょう?」
「じゃあ、これからはもっともっと、親バカになって、葉月さんも彩葉も愛していくよ」
「わかったわ。頼りにしているわ、旦那さま」

こうして6人全員が子宝に恵まれ、これまで以上に仕事を頑張る「源」が出来た。

そして、9月25日。
いよいよ『紡木小学校創立50周年記念式典』の日がやってきた。
式典は小学校の体育館で、10時から12時までの予定になっていた。
なぜならこの日は平日で、参加するのは在校生と、招待された来賓客ばかりだったからだ。
つまり6人は、自分たちの後輩の前で歌を歌うことになる。
6人はサプライズゲストのため、記念式典の参加者には気づかれないよう、学校の裏門に事務所の車を止め、こっそり控室代わりの、今は使われていない視聴覚教室に入った。
「うわっ、懐かしー」
「でもさ、ここって数えるくらいしか、入ったことがないよね?」
「そうだっけ?もう、あんまり覚えてないなぁ.....」
並べられた机の上に荷物を置きながら、懐かしさと、物珍しさで教室内をウロウロしていると、ガラッと扉が開いて、男性2人が入ってきた。

「buddyのみなさん、お疲れさまです。今回の記念式典で皆さんにオファーを出した菊池です」
「阿部です。.......というか、みんな覚えてる?」
阿部と言った男に覚えてるかと言われ、6人は、んー?と首を傾げる。
「もしかして.....阿部孝樹アベタカキか?確か、児童会長してた....」
僚がそう言うと、他の5人もハッとなる。
「ええ⁉分厚いメガネを掛けていた、あの阿部くん⁉」
「いつも参考書を持って歩いていた、あの阿部か⁉」
深尋と隼斗の阿部のイメージは、堅物真面目な印象しか残っていないらしい。しかし今の阿部はそんなことは全くなく、メガネを掛けていない、優しい顔立ちの男だった。

「ははっ、そうだよ。あの、阿部孝樹だよ。覚えてくれていて嬉しいよ。いまは、この小学校で6年生の担任をしているんだ。菊池先生も、この小学校の先生で、5年生を担当している」
思いがけない同級生との再会に、6人は感動していた。
「去年、この小学校に赴任した時に、今年が50周年で式典をするのは決まっていたんだけど、児童も参加するし、せっかくなら楽しくしたいと思ってね。君たちがこの学校を卒業しているのは有名だったし、ダメ元で事務所の方にオファーを出したんだ」
阿部がオファーを出したいきさつを語る。

「でもさ、オファーした後に気づいたんだ。藤堂さんと、新井さんが育休中だってことに。だから、半分諦めていたんだけど、こうして受けてもらえて、本当に嬉しいよ。ありがとう」
正直、buddyの人気ぶりからすると、このオファーはかなり小さいものだ。それでも、母校のためにと引き受けただけなのに、こんなに感謝されると、手は抜けないなと思った。

「阿部くん、こちらこそありがとう。このオファーが無かったら、この学校に来ることもなかったし、久しぶりに小学生の頃のことを思い出すことが出来て、嬉しかったの。今日は、後輩たちのために頑張るから、見ててね」
明日香が阿部にそう言うと、阿部はくすりと笑顔を浮かべる。

「藤堂さんは、あの頃と何も変わってないね。今だから言えるけど、僕の初恋は藤堂さんだったんだよ」
その言葉を聞いて、僚が阿部に対して1歩前に出る。
それを見て阿部は、ブンブンと両手を横に振る。
「ああ、ごめん、葉山くん。僕もいまは結婚してるし、何とも思ってないよ」
「当たり前だろ。思ってたら困る。.......ファンとしてならいいけど」
「もちろん、いちファンとして応援しているよ。だけど、君たちってあの頃と変わらず仲が良いんだね。なんだか羨ましいよ」
阿部にそう言われて、6人の頭に真っ先に浮かんだのは市木の顔だ。
アイツもそんなことをよく言ってたなと。

「それ、よく言われるよ。俺たちはこれが普通だったから、よくわかんないんだけどさ」
「それが普通か......すごいね君たちの絆の強さは。だから芸能界でも成功したんだね。同級生として自慢できるよ」
「おっ!あの阿部が俺たちを自慢してくれるんなら、いくらでもしていいぜ」
「隼斗はすぐ調子に乗る......」
結婚して子供が出来ても、中身が変わらない弟のことを、明日香は呆れて見ていた。

「それじゃあ、時間になったらまた呼びに来るから、それまでゆっくりしてて。また、あとで」
阿部はそう言って、菊池と2人で視聴覚教室を出ていった。
思わぬぶっちゃけ話があったが、何事もなく学校側との挨拶が済んだ。

それから6人は衣装に着替え、メイクを済ませて、出番が来るのを待っていた。
今日の衣装は、相手がほとんど小学生のため、親近感を持ってもらえるよう、ジーンズにお揃いの薄手のロングTシャツを着ていた。

「buddyのみなさん、準備はよろしいですか」
先ほどの阿部が呼びに来たので、6人は体育館のそばの出入り口に待機した。
今回、舞台上には式典のための演台やお花などがあるため、舞台のすぐ下、小学生たちが座っている目の前で歌うことになる。
6人はどんな反応をするのか、楽しみにしていた。

体育館の中から、司会者の声が聞こえてきた。
「それではここで、紡木小学校の50周年をお祝いするために、素敵な方々が来てくれました!みなさま、どうぞ拍手でお迎えください!」
その合図とともに、目の前の扉が開かれ、6人は連なって体育館へ入っていく。すると、目の前の小学生たちは、予想をはるかに上回るほど騒ぎ、喜んでくれた。
「きゃーっ!きゃーっ!」「芸能人だ‼」「本物⁉」など、様々な言葉か飛び交っていて、一向に落ち着く様子がない。しまいには先生方が「静かにっ!」と何度も声を掛け、やっと静かになった。

静かになったところで、僚が挨拶をする。
「みなさん、こんにちは。僕たちはbuddyと言います!知ってますかー?」
僚が子供たちに問いかけると、みんな口々に、
「知ってるー!」「テレビで見たことあるー!」
などと返ってくる。
「ありがとう。そして、紡木小学校の50周年を、心よりお祝い申し上げます」
その言葉に、6人は一斉にお辞儀をする。そのあとも、僚の挨拶が続いた。

「僕たちは20年前に、この紡木小学校の5年2組で同じクラスになり、それからとっても仲良くなりました。その年に、縁があって今の事務所の方にスカウトされ、高校1年生の時にデビューしました。この学校で、この仲間たちと出会っていなかったら、buddyは存在しなかったし、こうして仲良くなることもなかったと思います。今日は僕たちを出会わせてくれた、この紡木小学校にお礼をしたくて、6人でやってきました。みなさんも、今そばにいるお友達を大事にして、これからも頑張ってほしいと思います。それではみんな、心の準備はいいかな?」
僚が子供たちに語りかけると「はーーーい!」という、大きな返事が返ってきた。

その返事のあとに流れてきたのは、デビュー曲の『さよならいつか』だった。
6人も久しぶりにその曲を歌うことになり、これを歌うと決まった時から改めて練習をしてきた。
buddyの始まりの曲であり、一番大切な思い出の曲だ。
音楽が流れると、先ほどまで大人たちのつまらない話を聞かされて、眠そうにしていた子供たちの目がランランと輝き、6人の歌とダンスを夢中になって見ていた。
体育館の後方に座っている来賓の人達も、わかる人にはわかるらしく、身を乗り出して見ている。

曲が終わると、体育館中から大きな拍手が飛んできた。
それからすぐに、2曲目の音楽が流れる。それは、過去一難しい『Diamond』
だった。

さよならいつかのミディアムバラードから一転、激しい音楽とダンスに変わると、小学生たちも大盛り上がりだ。
特に5年生、6年生の高学年の子たちは、サビの部分を一緒に歌ったりしている。『Diamond』がリリースされるまで、buddyが出したシングルCDの中で売り上げNo.1は『Sapphire』だったが、『Diamond』はそれを超える売り上げを記録したとあって、世間の認知度も高い曲になっていた。

Diamondまで歌い上げ、6人はお辞儀をする。
そして、両手を振りながら体育館を去り、無事、記念式典を終えることが出来た。

「子供たち元気だったねー」
「ほんと。あのパワーには負けるわ」
再び元視聴覚教室に戻って来た6人は、現役小学生の元気とパワーに面食らっていた。
「なんだ、お前たち。お前たちも、僕と出会った時はあんな感じだったぞ」
元木も久しぶりに風見市を訪れ、いろいろ思い出したのか、くくくっと笑いながら20年前を振り返っていた。

「そうかな.....?」
「俺たちは、もうちょっとお行儀よくしていたと思うけど」
「お行儀よくねぇ......最初の頃はずっと疑われてて、不審者扱いされてたんだけどな」
元木にそう言われても、6人は思い出せない。
こういうことは、する側よりも、された側の方がよく覚えているものだ。

「まぁ、まぁ、元木さん。行き違いはあったかもしれないけど、今はこうして一緒にお仕事しているんだからさ、過去のことは水に流そうよ」
「隼斗、それは僕が言うセリフなんだよ。まったく、お前たちはあの時もいまも、根っこのところは何も変わってないな。こうして有名になっても、『みんなで楽しいことが出来ればそれでいい』なんてことをずっと思っているだろ?普通はもっと欲が出るものなんだけどな」

人間は、有名になって大きな成功を掴むと、もっと、もっとと欲しがる。それが人としてある種普通の考え方だったり、行動だったりするのだが、6人にはそれがほとんどない。
そういう姿が、逆に魅力的に見えるのかもしれんなと、元木は考えていた。

「元木さん、今日の仕事ってこれで終わりだったよね?」
僚が元木に確認する。
「ああ。今日この後は何もないけど、何かあるのか?」
「いや、久しぶりに紡木小に来たし、せっかくだからもう1か所、行きたいなと思っているところがあるんだけど」
僚がそう言うと、隼斗がニヤッと笑う。
「奇遇だな僚。俺もちょっと考えてたんだ」
「僚くん、隼斗くん、僕もだよ」
「俺たち、考えることも同じだな」
男性陣はどうやら同じことを考えているようだ。
でも、この話を聞いて、明日香も深尋も口には出さないが、同じことを考えていた。

着替えが終わり、帰ろうとしていると、再び阿部が6人の元へとやってきた。
「みんな、今日はどうもありがとう。子供たちも大喜びだったよ」
「いや、こっちこそありがとうな」
「阿部くん、学校の先生も大変だろうけど、頑張ってね」
「葉山くん、藤堂さん、ありがとうね。あと、もし同級生で集まることがあれば、連絡するよ」
「ああ、待ってるよ」
社交辞令かもしれないが、もう一度再会することを約束する。それが出来るくらいにみんな大人になっていた。

それから学校を出た6人は、元木にお願いし思い出の地へと向かった。
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