辺境貴族の転生忍者は今日もひっそり暮らします。

空地大乃

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1巻

1-1




 プロローグ


 かつてもとと呼ばれる国に、武陽ぶようという時代があった。
 尾張おわり盟主めいしゅである織田信長の死後、動乱の時代はなおも続き、ちまたでは凶悪な妖怪や鬼が跋扈ばっこするようになった。
 そんな時代に暗躍あんやくする、とある存在がいた。
 特殊な力をもちいて、要人ようじん暗殺から化け物退治までどんな仕事もこなす集団。
 人々は彼らを忍者にんじゃと呼んだ――


 ◇◆◇


 あたり一面が炎に包まれていた。
 仰向けに倒れる俺の体は全身が矢に貫かれ、まるで針鼠はりねずみの様相。
 正面に、俺の顔をのぞき込む女がいた。俺が「姫様」としたい、生涯まもり通すと心に誓った女だ。

「……どうして、お願い死なないで」
「……そんな顔をしないで。大丈夫、姫様のことはこの俺が命にかけても守りますから」
「何を馬鹿なことを言うとるのだ! お主が死ぬと言うならわらわも一緒に死ぬ!」

 あぁ、そうだ。こんな姫様だから俺は……
 本来、忍者は特定の勢力の下に付くことはない。金次第でどこの組織にでも属する。
 負け戦なのは、もうとっくにわかっていた。だから俺以外のしのびは既に全員里へ戻っていった。俺も再三、里へ戻れと言われていたが、結局この城に残り――その結果、かつての仲間に狙われることとなった。
 まったく皮肉なものである。だが、昨日仲間だった者が明日には敵になるという状況は、忍にとって珍しくもないことだ。
 俺はそんな環境で育った。だから、血などとっくに冷え切っていると思っていた。心などなくしたと思っていた。
 だけど、この姫様が俺を変えてくれた。彼女がいたから、俺は人間になれたんだ。
 それなのに――

「あなたに死なれたら元も子もない。だから、あなたは絶対に生きてください。俺の分まで――」

 かつての仲間の気配を遠くに感じ、俺は姫様にそう告げた。このままだと、姫様の身も危ない。
 俺はたましいの力であるチャクラをり、高速でいんを結んでいく。
 ほとんど残っていないチャクラを、命がけでき集め――

神寄かみよせ――黒闇天こくあんてん
「え? な、何を、嫌じゃ! 妾はお主と一緒に!」

 俺が忍法を唱えた瞬間、空間が裂け、その中に姫様が吸い込まれていった。
 悪いな姫様。もう俺にはこれしかすべがなかった。
 人外の力を借りて次元の裂け目を作った。きっと姫様は安全な場所へ飛ばされたことだろう。

『……まったく、命をかけ、このわれを寄せた理由が女とはな』
「黒闇天――」

 天井近くでふわふわと浮かび、俺に声をかけてきたのは、身の丈以上の長さの黒髪を有し、人間離れした美貌びぼうを持つ神――黒闇天だった。

「……悪いな、最後の願いを聞いてもらって」
『ふん、お主とは契約を交わしている身。願いとあれば聞くさ』
「あぁ、ありがとう。これで俺は安心して、ける」
『……勝手な男だ。まったく、人というのは脆弱ぜいじゃくなものだな』

 呆れたように、しかしどこか悲しそうにつぶやく黒闇天。

「はは、でも、これでお前も自由だろ? 俺が死ねば契約もなくなる」
『あぁ、清々せいせいするのう、と言いたいところじゃが――なんともしゃくさわる。我の見込んだ男がこんなところで死んで終わりなど、許されぬことだぞ?』
「そうは言ってもな、もうどうしようもない」
『ふむ、ならば、最後は我にとどめを刺されよ。どうじゃ?』

 とどめ、か。確かに、このままかつての同胞に殺されるよりは、その方がいいかもな。

「……わかった。お前に殺されるなら本望だ」
『よくぞ言った。ならばこれで、とどめを刺すとしよう』

 黒闇天が左腕を振り上げると、その手の中に一本の太刀たちが現出した。黒闇天の名にたがわない、漆黒しっこくやいばが特徴的な太刀だ。

『これは死出しで逆太刀さかだちじゃ、これでお主の現世の命を奪おう』
「はは、なかなかいいめいじゃないか。今の俺にピッタリだ」
『……であろうな。では、覚悟するがいい』

 俺はゆっくりとまぶたを閉じた。
 その瞬間、胸が貫かれる感覚。
 これが最期さいごか。だが、不思議なものだ。心臓を貫かれたというのに、何故かそれほど痛みを感じない――

『そうじゃ、一つ言い忘れておったが、この太刀を受けた者は、死出の旅路を逆に行く。お主の肉体は確かにここで死ぬ――じゃが魂は別の世界で生まれ直すということじゃ。そして契約とは魂で行うもの。ふふ、お主がいったいどこの世界で人生をやり直すかはわからぬが、また会える日を、そしてその時お主がどんな人間になっているか、楽しみにしておるぞ――』

 薄れゆく意識の中で、黒闇天の声だけは、はっきりと聞こえていた。
 肉体は死ぬが魂は別だと? それはいったい、どういう……



 第一章 転生忍者五歳児編


「おんぎゃーー!(なんでござるかこれはーー!)」

 なんてこった……意識が再び覚醒かくせいした時、俺は自分自身が赤子の身に生まれ変わっていることを悟った。ついついびっくりして、ござる口調で叫んでしまった。普段は使わないけどな、これ。
 死出の逆太刀の効果はこういうものだったのか……どうやら俺は、記憶を残したまま二度目の生を受けたらしい。

「~~~~~~ッ!」
「~~~~……」
「~~~~~~~~!?」

 俺の目の前で、二人の男女が言い争っている。言葉がまったく理解できないことから、ここが異国だとわかった。表情を見るに、何か深刻な事態におちいっているらしい。
 男の髪色は赤茶色で女は黒、どちらも目が青い……顔の特徴は南蛮人なんばんじんっぽいが、いったいここはどの国なんだ?
 一応俺は忍として、他国の言語を勉強することもあった。忍はどのような環境にも、しっかり順応する必要がある。
 特に言語の修得は重要度が高かった。俺が生まれた武陽の時代は、日ノ本にも異国の文化が入ってくるようになった頃だしな。地理も含めて、あらゆることを覚えさせられた。
 だがしかし、その知識をもってしても、彼らの言っていることはさっぱり理解できない。
 ただ、雰囲気である程度のことは推測できた。おそらくこの男女は、俺の両親なのだろう。
 なんだか変な感じだけどな……そもそも俺は天涯孤独てんがいこどくだったため、親というものをよく知らない。
 二人は、何故か妙に悲しい顔をしている……まさか、俺の様子がおかしいことに気がついたとか? 
 いや、そういう雰囲気でもなさそうだ。
 ふぅ、それにしても、黒闇天が最後に言った言葉――死ぬのは肉体だけという意味はわかった。
 だからといって、赤子からやり直させることはない気がするんだけどなぁ……


 ◇◆◇


 転生してから五年が過ぎた。最初は戸惑いも大きかったが、住めばみやこというのか、すぐに慣れてしまった。
 この世界についても大分わかってきた。
 まず、ここは俺のいた日ノ本があった世界とは大きく異なるものだった。この世界はデネアルベガというらしい。
 その中で、俺は西の大陸であるアルタイルに位置する、リベルタスという国に「ジン」という赤子として転生した。
 両親はエイガという姓を有する貴族で、爵位は男爵だんしゃく。これは南蛮で主に使われていた制度と一緒だ。日ノ本流に言えば大名だいみょうといったところか。
 エイガ家はいわゆる地方貴族だが、男爵家の中では名が知れており、多くの魔法士を輩出はいしゅつしてきた由緒ある家柄らしい。
 そう、魔法。魔法と呼ばれる不思議な力が、この世界では当たり前に存在する。それが俺のいた世界との最大の違いだ。魔法と似たようなことは、前世の俺も忍法や忍術でできたが、忍法や忍術が限られた者にしか使えないのに対し、魔法は基本的に一般人でも使える。
 まぁ、その魔法がちょっとした面倒事を引き起こしていたりするんだけど。

「おい、無能! 今すぐこっちに出てこい!」

 ほら来た、面倒事が。
 自室のドアの向こうから呼ばれたので、俺は扉を開けて返事する。

「何? 兄さん」
「遅い! 呼ばれたらすぐに来い。まったく、魔力なしは動きもどんくさいのだな!」

 そう怒鳴り散らしている少年の名前はロイス。一つ年上の兄だ。
 この兄貴の言うように、俺には魔力とやらがまったくない。
 それは生まれてすぐに行われる魔力測定でわかったことだった。魔力がないと魔法が使えないらしく、どうもその事実がこの世界――特にエイガ家にとっては致命的だったようだ。そのせいで俺は周囲から落ちこぼれ扱いされているし、父親ともギクシャクした感じになっている。
 ただ、それでもこの兄貴ほどあからさまに軽蔑けいべつしてくる人間はいない。こいつは俺への態度がとにかくひどいのだ。

「早く来い、グズ!」
「はい、兄さん」

 面倒だったが、大人しく付き合うことにする。
 屋敷の庭まで移動したところで、「止まれ」と言われた。

「今日もまとにしてやる。いいか、そこを動くなよ!」

 俺は言われるがままその場に立つ。ちなみに兄貴は、魔力が潤沢じゅんたくらしい。魔力測定をしたところ、素質ありと言われる量の三倍はあったとか。凄い凄い。

「――我が手につどえ、炎の集束しゅうそく朱虐しゅぎゃく膨張ぼうちょう、破壊の紅玉こうぎょく、偉大なる赤の女王は爆裂ばくれつを好む……」

 欠伸あくびを噛み殺しながら、兄貴の詠唱が終わるのを待つ。
 最初、魔法という単語を聞いた時は、俺もちょっとは興味を持ったものなんだけどさ。ロイスのおかげで、今では魔法なんて正直見飽きてるんだ。
 それにしても、相変わらず詠唱が長いな。詠唱だけで軽く十秒はかかってるんだが。

「――我にあだなす者に直撃せよ。炎の制裁、ファイヤーボール!」

 ふぅ、やっと完成したか。
 詠唱が構築されると、兄貴が突き出した右手に炎が生まれ、球体となって放たれた。
 大きさは兄貴の握りこぶしくらい。六歳児の握りこぶしだ。つまりとても小さい。飛んでくる速度も遅いんだよな。矢よりゆっくりだぞ、はぁ。
 俺は転生したが、三歳頃からすきを見てきたえていたため、こんな火の玉、牛の歩みのごとく遅いと感じてしまう。やろうと思えば、この間に厨房ちゅうぼうに行き、紅茶をれてまったりすすったあと、戻ってくることすらできそうに思える。
 そんなことを考えていたら、やっと火の玉が届いた。そして、俺の顔に命中。
 ボンッ! と出来損ないの花火みたいな音を立てて破裂し、火花が散った。全然痛くはない。

「どうだ!」

 兄貴の声が耳に届く。
 どうだと言われてもな……別に今に始まったことじゃないが、正直こんなものかという気持ちだ。
 威力で言えば、新人忍者の下忍げにん……いや、それ以下の忍者の見習いが練習として使用する火の忍法より弱い。あれだけ大層な詠唱で構築された魔法が、まさか見習い忍法以下とは。
 最初は俺も、兄貴はまだ六歳なわけだし、子どもだから魔法も弱いのだと思った。
 だけど魔法の先生いわく、兄貴のこのファイヤーボールですら、一般的な成人が扱う魔法よりはるかに強力らしい。
 詠唱に十秒以上かかり、速度は矢以下で、ついでに言えば有効射程は十メートル程度。日ノ本流に言えば五けんあまりだが、この世界ではメートル法が浸透しんとうしてるから、すっかりそっちで慣れたな。
 この程度の魔法が一般レベルというのは、なんというか心もとない。こう言っちゃなんだけど、もし織田信長さんあたりが転生してたら、すぐに天下統一されちゃいそうだぞ。いや、俺がいた時代には亡くなってた武将ではあるけど、すさまじい伝説持ちだから。ホトトギス殺しちゃうから。

「うわぁ~」

 そんなことを考えながら、俺はわざと吹っ飛んで地面を転がった。できるだけ痛そうに見えるようにね。

「ははは、やっぱり私の魔法は最高だ! お前はカスだが、的には丁度いいな」
「もう、酷いなぁ兄さんは。たた、ふぅ」

 俺は頭をさすりながら起き上がる。
 これだけ大げさにやっておけば十分かな。

「じゃあ、俺は行くね」
「……待てコラッ!」

 怒りの声が飛んできた。
 振り返ると、兄貴がグルルゥとうなるような表情をしている。目もやたら吊り上がっていた。

「お前! なんでそんな平然としてられるんだよ! 無能な魔力なしのくせに!」
「えぇ~? そんなことなかったよ。痛かったよ~」

 大げさに泣き真似をしてみせる。
 まったく……変な因縁いんねんをつけるのはやめてほしいぞ。こっちは面倒事を避けるために必死で演技してるんだ。

「だ~! こうなったらまだまだ魔法の練習だ! そこに立ってろ!」

 兄さん、本気ですか? 本気だな、これ。はぁ、本当面倒だなぁ……


 それからしばらく、俺は魔法の練習台になり続けた。もう少し上手く演技できればいいんだろうけど、何せ威力がなさすぎて加減がわからない。あまり大げさに痛がると「馬鹿にしてるのか!」と怒られるし、理不尽だ。
 俺はまだ、この世界の魔法について詳しく知っているわけではない。だけど、目の前の兄貴が天才と称される才能を持っているのは知っている。
 しかし、それでこの程度か。

「はぁ、はぁ、くっ、体だけは頑丈な奴だ。今日はここまでにしてやるよ!」

 十発ほどファイヤーボールを撃ったところで、兄貴はやっとあきらめてくれた。それにしても、随分ずいぶんと疲れているみたいだ。あんな威力の魔法をちょっと撃っただけで、そんなに疲れるものなのか?
 だとしたら酷く効率が悪い。下忍でも、小岩くらいなら軽く破壊できる忍法を何十発と撃てるというのに。

「お、お前、覚えてろよ! 明日も同じことやるからな!」

 兄貴はそう言い捨て、屋敷の中に引っ込んでいく。
 また明日もやるつもりなのか……こんな無駄なことするくらいなら、もう少しまともな修業をした方がいいと思うんだけどなぁ。
 ともあれ、これで邪魔者はいなくなった。やっと自分のことに専念できるな。
 ……と言っても、流石さすがに使用人や家族のいる屋敷の中でおおっぴらに修業はできない。だからって勝手に屋敷から出ると怒られるんだよな。好き勝手に出歩けないのが、貴族の面倒なところだ。
 少し考えたあと、俺は屋敷の厨房に行き、お使いを買って出ることにした。そのついでに、少しくらい寄り道――という名の修業――をしたってばれないだろう。
 ということで厨房に向かい、料理をしていたメイドの一人に話しかける。

「何か町での買い物はない? 僕が行ってくるよ」
「そんな! おぼっちゃんにそのようなことを頼むわけには……」
「問題ないよ。父上も僕が家の手伝いをすることは了承している。に、できるだけ庶民の暮らしに馴染なじんでおく必要があるし。だから気にしないで」
「さ、左様さようですか」
「それにほら、今は僕もひまだしね」
「なるほど、そういうことでしたら――」

 メイドはメモに走り書きして、俺に手渡した。子どもの俺に配慮はいりょしたのか、書かれている食材は軽いものがほんの少しだけだ。
 よし、これでやっと堂々と外に出られる。これまではほんの少しの間、こっそり抜け出すのが精一杯だったからな。
 意気揚々いきようようと屋敷を出ようとすると、背後から声をかけられる。

「ジン坊ちゃま、何かいいことでもありましたか?」

 振り向くと、黒いスーツにちょうネクタイを結んだ人物が立っていた。はうちの執事であるスワローだ。
 スワローは女性だが、かつて剣で随分と鳴らしたらしく、また頭もいいということで執事として雇われているんだとか。
 執事というのは、いわば使用人のまとめ役だ。執事より下の使用人は、男性は従僕じゅうぼく、女性はメイドと呼ばれており、それぞれ雑務を行っている。スワローはそれらの使用人を管理する立場。執事は普通男性が務めるらしく、女性の執事はめずらしいと使用人の一人から聞いたことがあるが、そこら辺の感覚はよくわからない。
 スワローはニコリと柔和にゅうわな笑みを浮かべ、こちらに近づいてきた。動きに合わせて、銀髪の毛先が揺れ動く。
 真ん中分けになっている前髪の隙間からは細く整った眉が覗き、切れ長の瞳が印象的な美人である。その凛々りりしさから、屋敷のメイドたちからも人気が高いのだそうな。
 それにしても……執事服の上からでもわかるほど、胸の膨らみが凄い。屋敷に勤めるメイドもそうだけど、こっちの世界の女性はなんというか、日ノ本の女人にょにんと比べて発育がいい。今でこそ慣れてきたが、最初は俺も目のやり場に困ったものだ。
 それはそれとして、問いかけられた以上は答えないといけない。

「あぁ、これから買い物に行くんだ」
「そうですか、買い物に。ならばすぐに付き添いを……」

 しまった。問題ないと思って話したけど、余計な気を回された。

「いやいや、そういうのじゃないんだ。父上にも許可されていてね、一人でお使いに行くのさ。だから気にしないでいいよ」
「ですが、道中にはけものが出る可能性も……」
「そ、それは、ほら、父上から獣避けものよけを預かっているし、大丈夫だから」

 勿論もちろんこれは嘘だ。むしろそんなものを持たされたら、修業の邪魔になるから置いていく。

「ですが……」
「とにかく、行ってくるね!」

 スワローが心配そうにしていたけど、俺は強引に話を打ち切って駆け足で屋敷をあとにした。
 屋敷の門を出てしばらくしたところで走るのをやめ、のんびり町に向かう。
 これから行く町は、領主である父上の管理している町だ。ちなみにエイガ家の屋敷は、町が一望できる丘の上にある。
 街道はしっかりと整備されており、昼間なら街道近くに獣が出ることはそうそうない。大昔はよく出没しゅつぼつしたそうだけど、冒険者なんかが狩りまくっているうちに、近づかなくなったのだとか。
 この世界の獣はわりと賢いんだよな。獣の持つ魔力が知能を発達させているからだ、と聞いたことがあるけど、詳しいことはよく知らない。
 それでも絶対に現れないとは限らないので、町へ行くには獣避けを持って歩くか、護衛つきの馬車に乗ることが多い。
 ここから町までは、馬車だと三十分ほどかかる。馬車はそんなに速度を出さないし、正直俺が走った方がよっぽど速い。
 もっとも、このまま普通に街道を通って町へ行く気はない。それだと修業にならないからね。
 俺は街道の途中で脇にそれ、森の中に入っていった。この街道は森を切りひらいて造設したものであるため、道の左右には緑が色濃く残っているのだ。
 森の中は、背の高い木が多く生えている。
 よし、早速修業開始だ。
 俺は内側でくすぶり続けているチャクラを解放し、全身にみなぎらせた。
 その状態のまま、一本の木を見上げる。
 高さは三十メートル前後といったところか。普通の五歳児なら、登ることすら厳しいだろう。
 だが、チャクラによる肉体強化を施した今の俺なら話は別。
 地面を軽く蹴って飛び上がると、俺の体はあっという間に木のてっぺんを超えてしまった。
 木々を完全に見下ろしたところで上昇は停止。五十メートル以上は飛んだか。
 ふむ、まさかここまで飛び上がるとは……これ多分、前世の子ども時代の俺より凄いな。
 チャクラによる肉体強化は、忍術の基本中の基本だ。勿論前世でも俺は幼い頃から習得していた。肉体強化の程度はチャクラ量によって決まり、単純にチャクラの量が多ければ多いほど、肉体もより強化される。
 流石に転生直前よりはおとるけど、今の俺は明らかに大量のチャクラを持っている。
 これは、転生してからしばらくあとで気がついたことである。このことについて、俺は次のような仮説を立てている。
 まず、前提として、チャクラというのは魂から生み出される力だ。だから魂――つまり、精神が成長すればするほど、チャクラの量も増える。
 基本的には、魂は肉体と共に成長する。つまり、幼い子どもの有するチャクラ量は少ないはずなのだ。
 それにもかかわらず、俺のチャクラ量は非常に多い。これはやはり、転生が影響していると考えていいだろう。
 黒闇天の死出の逆太刀により、前世の俺の魂はほとんど完全な形として残り、本来「ジン」として生まれる魂と融合した。その結果、今の「ジン」としての俺は、普通の人間より魂の力が遥かに強くなったということではないか。
 まぁ、あくまで仮説であり、確かめる術はない。重要なのは、俺の持っているチャクラがとてつもなく多いということである。
 せっかく受けた恩恵だ、ありがたく活用させてもらおう。

「ひゃっほ~~!」

 そんなわけで、俺は猿みたいに木から木へ飛び移り、久方ぶりの自由を満喫する。ずっと屋敷にこもりっきりというのは性に合わないんだ。
 枝を使ってくるくる回って勢いをつけてから手を離し、空中で八回転したあと、着地する。
 うん、悪くはないな。前世の全盛期並みとまではいかないけど、チャクラのおかげで大分イメージに近い形で動ける。


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