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幕間

第二百六十五話 転生忍者、エンコウの加勢に入る

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 マシムから話を聞き、どうにも胸騒ぎを覚えた俺は一旦町を出てエンコウの様子を見に行くことにした。

「……盗賊がいたら厄介?」
「て、何でついてきてるんだよマグ……」

 そして俺に並走するマグがいた。ちゃっかりというか何というか。

『うむ、流石はマガミなのじゃ! 早馬より速いのじゃ!』
「アオオオオォオオオン!」

 そして姫様も一緒だ。マガミの背中に乗って喜んでいる。危険だと言ったんだけど、エンコウが心配だというのと、俺の奴隷なのに離れるのはおかしいや、怪我をしていたら自分が治療できると言って聞かなかった。

「……盗賊退治も修行」

 どうやらマグは戦いも修行のうちと考えているようだ。勿論間違いではないけどな。

 結局のところ修行というのは実戦のために行っているのであって、勿論修行をおろそかにしてはいけないが、修行の力をより発揮するには実戦経験も重要になる。

 もっともマグの場合、ただ好戦的な可能性もあるけどね。

 さて、そうこうしているうちにエンコウの反応がある場所に近づいてきた。段々とエンコウの姿も見えてくる。

 だけど、マズイな。やはり思ったとおり猿だけの縄張り争いでは終わらなかったようだ。

 今エンコウと戦っているのは猿ではなく人間だった、いや人間か? 何か見た目は猿だ。しかし言葉は人間のものだった。

 とにかく、雰囲気的に奴らがマシムが言っていたサイユウ団とかいう盗賊団なのだろう。

「ウホッ、もう終わりか? だったらこれで」
「そうは問屋がおろさないぜ!」

 見た目猿の男がエンコウに殴りかかろうとしていた。エンコウもフラフラであの一撃を喰らうとマズイ。だから俺は空中から強襲し飛び蹴りをかましてやった。

「うん? ウボオオォオオオオ!」

 猿みたいな男が吹っ飛んでいく。ゴロゴロと転がり木の幹にぶつかってとまった。

「お、弟よーーーー!」
「ご、ゴクー様がーーーー!」

 長身の男が叫んだ。ゴクー、それがあの猿みたいなやつの名前か。

「ウホッ! ウキッキキィ! ウホ!」

 エンコウが立ち上がり身振り手振りを交えてあいつらについて教えてくれた。なるほど、兄弟を中心にした盗賊団か。兄は魔獣を従魔にしていて弟は刻印使いと。

「ウホオオオオオォオオ! あいつ殺す! 絶対殺すぅぅうう!」

 ゴクーというのが立ち上がって怒りを顕にした。しかし本当見た目猿だな。

「馬鹿が! 弟を怒らせたな。あぁなったらもう俺にも手がつけられない。ガキのくせに調子に乗った報いを受けるがいい!」
「どうやらあのゴクーってのは俺が狙いなようだな」
「……なら私はあの兄をやる」

 マグが相手の兄を見ながらやる気を覗かせた。弟に比べると体格は普通そうだ。マントを羽織っていてフードを頭から被っている。

「あいつ魔獣使いらしいぞ。大丈夫か?」
「……ジンより強いとは思えない」

 マグが俺をちらりと見て答える。まぁ、俺の場合魔獣の力ってより俺の忍法の力なんだけどね。

「あいつらゴクー様やサゴジョ様を相手するつもりか?」
「は、子どもに何が出来るってんだ」
「こっちには人数もいる。勝ったなガハハ!」

 向こうは雑魚も含めて俺達が子供だからと舐めてるな。俺は中身は違うけど。

「たすけ、る、じゃ」
 
 姫様はマガミから降りてエンコウの怪我を治療した。エンコウはすぐに元気になった。

「ウホホッ!」
「よし、エンコウは無理せず彼女を守ってやってくれ。マガミは露払いを頼む」
「ガウガウ!」

 マガミも張り切っている。さて、勝負を決めるか。

「ウホホホホッ! 殺す!」

 ゴクーが俺に迫り、手にはめた鉄の爪で攻撃してきた。振り下ろした爪で地面が抉れ横薙ぎにすると木々が切れ数本纏めて倒されていく。

「ガッハッハ! どうだ!」

 どうだと言われてもな。確かに力はなかなかのものだ。猿になってるだけに動きもそれなりには速い。だけどまぁ――

「はっ!」
「グホッ!」

 チャクラを掌に集めて掌底を叩き込む。通波の術だ。忍術の一つだがそれで弾かれたように反対側へ飛んでいった。そんなに強くやってないんだがな。

「ははっ、魔獣使いの俺の力を喰らうがいい!」

 向こうではマグ相手にサゴジョが魔法を行使していた。無数の火の鳥がマグに襲いかかる。

「――ピグミー」

 マグの足元にもこもことした茶色い毛が特徴の精霊が姿を見せた。つぶらな瞳でこれまた可愛らしい。

 そしてマグの正面の土が盛り上がり壁となって炎を受け止める。

「チッ、土魔法の使い手か!」
「……何を言ってる?」

 マグが壁の上に飛び乗り、お返しとばかりに巨大な火球をサゴジョに放つ。

「な、何ぃいいぃ!」

 驚きすぎだろ。火球はサゴジョの目の前に着弾し激しい爆発でふっ飛ばされた。その拍子にフードがめくれる。

「……ぷぅ、くくっ」

 するとマグが口を押さえて必死に笑いをこらえ始めた。フードがめくれるとそこには河童がいた。いや違った河童みたいに真ん中がまん丸く禿げた男がいた。

 こ、これはなかなかの破壊力だな。真ん中だけ見事に禿げてる。

「き、貴様笑ったな! この俺の頭を見て笑ったな! もう許せん! エンサイ! お前も手伝え!」
『ウキィ!』

 ローブを纏い杖を持った猿も火の魔法を使ってきた。あれがサゴジョの従魔ってわけだ。

「くそ! くそ! 何故当たらん!」

 ちなみに俺の方はさっきからゴクーが攻撃を仕掛けて来てるが、マグの戦いを見ながら全て躱してる。こいつは攻撃が単調すぎるし攻めのバリエーションも少ない。目を瞑っていても躱せるレベルだ。話にならない。

「ガウガウガウガウ!」
「「「「「ギャァアァアアア!」」」」」

 残りの盗賊もマガミに軽くあしらわれていた。まぁ相手がわるかったな。

「……もういい。十分わかった」

 マグの肩に今度は羽の生えた小さな女の子が現れる。かと思えば竜巻が発生しサゴジョとエンサイをふっとばした。竜巻の影響で髪がパラパラと落ちてくる。

 そしてそれに合わせる形で俺もゴクーに拳と蹴りを数十発叩き込み、最後に後ろに回り込んで腕を回し跳躍する。

「忍極楽!」

 そのまま地面に叩きつけた。極楽発破の元となる忍術だ。これでもこいつぐらいなら十分倒せる。

 飛び起きて手を払いつつゴクーを見たが白目を剥いて完全に伸びていた。これでもうしばらく目も覚まさないだろう。
 
 マグの方も同じだ。サゴジョもエンサイも完全に気絶している。
 
 マガミに目を向けると、そっちの盗賊たちもほぼ片付いていて、一人は仰向けになったマガミによってくるくると回されてもてあそばれていた。

 ご愁傷さまだな。さて、エンコウ以外の三猿や猿たちも姫様によって治療されたようだしこの件も解決ってところかなっと。
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