辺境貴族の転生忍者は今日もひっそり暮らします。

空地大乃

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幕間

第二百七十三話 転生忍者、とここ掘れ――

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「チッ、何が兄ちゃんだ! 俺はお前の弟じゃねぇぞ!」

 違う、そんなことは言ってない。揃いも揃って本当聞き間違うよなぁ~。

「あまり時間がないでござる。つべこべ言わず纏めてかかってくるでござるよ」
「「「「「「「「舐めやがって! ぶっ殺してやる!」」」」」」」」

 そして盗賊共が一斉に掛かってきたわけだが――

「つ、つぇえ――」
 
 それだけ言い残し、盗賊の頭がパタンっと倒れそのまま意識を失った。他の盗賊も仲良くおねんねしてる。

 しかし、全く大したことなかったな。これならあのサイユウ団の方が遥かに手応えがあった。

 さて、こいつらどうしようかな。俺は温泉にいきたいし、ここからわざわざ運ぶのも面倒だ。

 そういえば近くに川があったな。よし!
 適当な木を切り倒して筏を作った。川まで盗賊共を運び、手足を縛ったままぽいぽいっと筏に放り投げる。

 固定しておいた縄を切ったらそのまま流れていった。この川ならそのうち人の目に着くところまで流れていくだろう。盗賊だとわかるようにしておいたし、縛った縄は忍者式の縛り方だ。あの程度の盗賊じゃ絶対に解けない。

 だからもし途中で転覆したら、まぁその時は運が悪かったと諦めて貰うほかないな。正直盗賊相手にそこまで気にしていられない。
 
 さて、盗賊も片付いたし今度こそ温泉だ。だけどその前にっと。

 マシムが教えてくれた盾の木を途中で切っていく。構造も竹に近い。中もしっかり空洞だ。これなら使えそうかな。
 
 温泉の前に到着した。さてこっからが本番だ。先ず俺は忍法・繊維錬成の術で盾の木をばらした後再構築した。
 
 これで盾の木の管が出来た。術で強度も上げた。これで問題ないだろう。

 後は温泉だな。

「忍法・土竜!」

 温泉に飛び込み、忍法で土竜のごとく地面を掘り進んだ。作成した管も引っ張りながらこのままどんどんと突き進む。

 そして暫く進み――屋敷の下までたどり着いた。
 よし、これで下準備は出来たぞ。




「庭を掘るのですか?」

 次の日、俺はスワローに庭を掘ってみたいと伝えた。当然だがスワローは不思議そうな顔をしている。

「実はマガミが、庭を見ながらずっと吠えてたんだ」
「ガウガウ!」

 マガミが俺の発言に合わせて吠える。事前にマガミには伝えてあるからな。ここ掘れガウガウってとこだ。

「わかりました。旦那様に確認してまいります」

 そしてスワローが父上に許可を取り、掘っていいということになった。

「何じゃジン。何をするつもりなのじゃ?」
「庭を掘るんだ」
「……何故庭を?」

 さて、庭を掘ろうと準備していたら姫様とマグが近くまで不思議そうに小首をかしげた。

「マガミが何を訴えてるんだよ」
「ガウガウ!」
「おお! なるほどここほれワンワンってことじゃな!」

 いや、ワンワンじゃなくてガウガウ。

「ふむ、庭を掘るとはまた妙なことを始めるもんだなジンも」

 兄貴も見に来ていた。以前なら頭ごなしに反対していただろうな。今はむしろ興味ありってとこに思えるが。

「それで、一体何をするつもりなのだ?」
「庭を掘りたいだなんて、ジンったらまたなにかするつもりなのね? うふふ――」

 何か父上と母上まで見に来てしまった。手の空いた使用人も興味深そうにしているし、まさかここまで注目されるとは。

 そんな中俺は庭を掘っていくことにする。エンコウやマガミも手伝ってくれた。

「仕方ないな、私も手伝おう」
「兄貴が? 無理しなくていいぞ。力はそんなに強くないんだし」
「馬鹿にするなよ弟よ。最近私は体も鍛え始めたのだ。腕立て伏せも何と十回も出来るようになったのだぞ!」

 あ、はい……

「……私も手伝う」
「妾は応援するのじゃ! 頑張るのじゃ~!」

 マグはもこもことした精霊を呼び出して魔法で地面を掘ってくれた。兄貴は一応スコップ片手に掘ってくれたが数回で腰を痛めてリタイアした。兄貴よ……

「フレ~フレ~なのじゃ!」

 姫様は宣言どおり応援してくれている。その様子を母上が微笑ましそうに見ていた。

 さて、俺もエンコウの力ってことにして魔法という体の忍法で庭を掘る速度を速めた。といっても俺は最初から管が出てくる位置を想定して陣取っている。

 そのうちに見えた! 忍法で上手く管を隠蔽しながら閉じていた蓋を外す。すると勢いよくお湯が掘った穴に溜まっていった。

「……これって?」
「おお! 温泉が出ましたよ! 温泉です!」
「ガウガウ!」
「キキィ!」

 マグもお湯には気がついたみたいだな。マガミやエンコウと一緒にまるで庭から温泉が出たみたいに騒いでみせた。実際は山から引っ張ってきたんだけど、流石にそれをそのまま言うと大事になる。

 いくら魔法が使えると思われているとは言え、あの山からここまで引っ張ってくるのは流石にただ事じゃないと思われるかもだし面倒なことはさけたいからね。

 姫様のこともあるし、俺としては波風を立てずひっそりと暮らしていきたいというのが本音なのだ。

「何と! まさか庭に温泉が出るとは!」
「貴方! これで家でもお湯に浸かれるのですね!」
「う、うむ、これは一大事だ。すぐに職人を手配して準備を始めないと」
 
 とは言え、やっぱり温泉だけでも結構な騒ぎになった。

「ふむ、温泉とはな。魔法の勉強で疲れた頭には最適だ。でかしたぞ弟よ!」
「何とこれで妾も毎日風呂に入れるのじゃな! よくやったのじゃマガミ」
「アンッ!」

 兄貴に褒められると何かむず痒くなる。そして姫様はマガミを褒めて頭を撫でていた。一応マガミが見つけてくれたってことにしてるからな。

「……ジン。これ本当に庭から掘れたお湯?」
「え? そ、そうだよ。当然じゃないか」

 ふと、マグがそんな質問をしてきた。一応ごまかしたらマグがジッと勘ぐってそうな目を見せてくる。

 全くマグはわりと勘が鋭いな。

「あ、そういえばそのもこもこしたのは何ていうんだ?」
「……これ? これは土の精霊ピグミーのピグみん」
「へぇ、じゃあこないだ見た下半身が魚みたいのは?」
「……水の精霊ニンフのニンちん」
「そっか皆可愛いよな」
「……ふふっ、ジン、わかってる」
 
 マグが笑顔になった。よかった話が上手いことそれた。

 さて、こうして我が家にも無事風呂が設置されることとなった。更に父上に町にも引いたらどうかな? と聞いてみたけど父上は既にその気だったようで、屋敷から町まで引く準備を進めてくれた。

 これで街の皆もお風呂に入れるな。父上も町の名所になると期待しているようだし、俺も手軽に風呂に入れるようになってやっぱ嬉しいもんな姫様も喜んでいたし。
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