辺境貴族の転生忍者は今日もひっそり暮らします。

空地大乃

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第二百八十三話 転生忍者、毒蛇の魔法士と戦う

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 俺の喉に魔法で生まれた蛇が噛み付いてきた。思ったとおり密猟者だった男が笑みを深める。

 どうやらこれで俺を殺せたとそう思い込んだようだが、蛇が噛み付いた俺は土塊となってボロボロと崩れ去った。

「何だと?」
忍法・土人形クレイドールさ」

 別の場所から声をかけると男の顔が俺に向いた。

「貴様も魔法士ということか」

 実際は忍者なんだけどね。エンコウのおかげで土系の忍法も魔法でごまかせる。

「毒蛇魔法――やっぱお前は賞金首の毒蛇のヴェムだったか」

 ダガーが奴を睨めつけた。ヴェム、それがこいつの名前か。

「ふん、わざわざ顔まで変えたというのにバレちまったか」
「変えたって……自らその顔にしたということですか?」
「なんというやつなのじゃ。そこまでして顔を隠したかったというのか」
「ふん。手配書が回ったのだからそれぐらいするさ。お前らとは覚悟が違うんだよ」

 こいつ口調も変わったな。しかし覚悟ね。

「何が覚悟だ。ただ顔を隠してこそこそと犯罪を犯してるだけの薄っぺらい行為が覚悟と言うならこんな有り難みのない言葉もないな」
「へへっ、言うなジン。だがそのとおりだ!」

 ダガーがヴェムに向けてナイフを投げる。一度に八本――あいつは魔法士で身体能力もそこまで高そうに見えない。とても避けられるようには見えないが。

「ブラックマンバ――」

 ヴェムが杖を振り上げると黒い蛇が奴の身に巻き付いた。ダガーの投げたナイフが黒蛇が当たるが、途端にナイフがボロボロに朽ちていく。

「舐めるなよ。俺の毒蛇魔法は無敵だ。お前たちは俺に近づくことさえ出来ない」
「だったら近づかなきゃいいだけだな。忍法・砕炎弾フレイムキャノン!」

 俺の手から放った火球に、ヴェムがギョッとした顔になった。着弾し爆発するとうめき声を上げながら後方に飛ばされていく。

「くっ、貴様! 土魔法だけじゃなかったのか!」
「誰もそんなことは言ってないが?」

 俺が答えると、予想外って表情をヴェムが見せた。もし土の魔法だけだったらこいつはきっと自分の防御が完璧だとそう思っていたんだろう。

 土魔法の場合、大体は土をそのまま利用した魔法が多いからな。それならあの毒が寄せ付けない。
 
 だが火ならそうもいかないだろう。火に毒は効かないからな。

「どうやらお前をさっさと片付けたほうが良さそうだキングコブラ!」

 ヴェムが杖を翳すと最初のよりはるかに巨大な毒蛇が姿を見せ、俺に向かって襲いかかってきた。

「そんな、詠唱破棄であんな魔法まで……」

 デトラの驚く声が聞こえた。確かにこいつは詠唱なしに魔法を使っている。それなりの実力者ってわけだ。

「チッ、流石金貨五百枚の賞金首だけあるね!」

 ダガーの声が聞こえる。金貨五百枚……大金貨で言えば五十枚か。あれ?こい倒せば魔道具の作成に必要な代金の半分が埋まるような……賞金首ってそんなに美味しいのか。

 もしかして賞金首さえ狩ってれば意外と早く大金貨百枚ぐらい稼げたのかも知れない。

 まぁ流石に悪目立ちがすぎるだろうけど。それに今更な話でもある。

「ウキィイ!」

 そんなことを考えていたらエンコウが命じて周囲に控えていた猿たちが蛇に飛びかかった。いやそれは駄目だ!

「止めろエンコウ! その蛇には近づけさせるな!」
「ウホッ? ウキィ! ウキィ!」

 エンコウの号令で猿が蛇を追いかけるのをやめた。ふぅ、危ない危ない。

『ボスは迂闊ですな。良くみなされ。あの巨大な蛇の通ったところが腐食してます。あれは魔法で出来た毒蛇そのものにも毒があるということですな』
「ムキィ!」
『いや! だって本当のことですし!』

 エンコウが不機嫌になったが、実際エンサイの言うとおりだ。それにブラックマンバの魔法でも触れたナイフが朽ちていった。魔法で出来た蛇そのものが毒で出来ているということだろう。

「いい加減にしてください! 植物魔法火ノ木!」

 声がしたので見てみるとデトラが声を張り上げ魔法を行使していた。ヴェムの側に途中で見つけた火ノ木が燃えた状態で生える。

 そして火に塗れた果実をばらまいた。

「な! ただ植物を生やすだけじゃなかったのか!」
「これも植物ですよ!」

 あいつデトラを舐めてたな。植物そのものなら毒で腐るだろうが、デトラの扱う植物には特殊な物も多い。今行使した火ノ木もそうだ。

 しかし、今日手に入れたばかりなのに早速使いこなすとはね。

「まさかこれまで使う羽目になるとはな! 毒蛇魔法ヒュドラ!」

 ヴェムが更に魔法を行使。奴の全身から無数の蛇が生まれ襲いかかっていく。チッあんなものまで、て、ヤバいマガミが!

「マガミちゃん!」
「ガウ――」
「させぬのじゃ!」

 マガミに多数の毒蛇が迫る。だが、マガミから下りた姫様が盾になり毒蛇を一身に受けた。

「カグヤ!」
「カグヤちゃん!」

 くそ! 

忍法・大火吹ナパームブレス
 
 印を結び、俺は口から巨大な炎を吐き出し奴の魔法を焼いた。

「な、馬鹿な、俺のキングコブラを焼き尽くしただと!」

 俺は急いで姫様の下へ向かう。くそ無茶しやがって!

「こ、こうなったら奥の手――」
「どきやがれぇえええ!」
「ぐぼおぉおおおお!」

 邪魔なヴェムを殴り飛ばして姫様の下へ急いだ。

「カグヤちゃん――」
「カグヤ!」
「おおよしよし、無事で良かったのじゃマガミ~」
「――ッ!?」
「あ、コケた」

 姫様は存外無事だった。それどころかマガミをモフりまくってた。おかげでダガーの言う通り俺は派手にずっこけてしまった。くそ! 恥ずかしい!

「カグヤちゃん、大丈夫なの?」
「問題ないのじゃ。妾に毒は効かないのじゃ!」
「マジかよ。お前も結構凄いんだな」

 くっ、鼻を擦りながら立ち上がり思いだす。つい慌ててしまったがそもそも姫様には毒や呪いの類は効かなんだった……いやとはいえ、噛まれていたからそっちの怪我が心配だったがあの魔法、毒を与えることに特化していて毒以外の殺傷力は低かったようだな。

「それにしてもジン。随分と慌てていたようじゃないかぁ。そんなに心配だったのかぁ?」

 くっ、にやけた顔でダガーも妙なことを。俺はただ姫様の身が心配だっただけだっつの――
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