87 / 190
第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編
第86話 自己犠牲
しおりを挟む
風間の様子を見た後、小澤は香川と一緒に部屋を出て廊下を歩いていた。
「ところで彼の家族には連絡を?」
香川が思い出したように問いかけた。風間はとっくに成人を迎えているが、それでも今回のような事態になればギルドから家族に連絡をいれる必要があると、香川は考えていたようだ。
「そっちはこれからだな。調べはついてるんだが」
「そうなのですね。以前の話で放置ダンジョンで暮らしていると言っていて気になりましたが、ご両親は健在なようで何よりです」
「ふむ――」
香川の話を聞いた小澤は、短く唸り何か考えを巡らせているようだった。
「健在か、しかしまさかあの風間だったとはな」
小澤がボソリと囁くように口にした。
「何か言いましたか?」
「いや、こっちの話だ」
「そうですか――」
小澤の囁きは香川には聞こえていなかったようだ。そのまま廊下を歩く二人だったが、その途中で香川が難しい顔を見せていた。
「何だ小難しい顔してやがるじゃねぇか。折角の美人が台無しだぞ?」
「からかわないでください。それよりもマスター、彼は本当に合格で良かったのでしょうか?」
そんなことを問いかけてきた香川を見ながら小澤が目を点にさせた。
「なんだ唐突に。既に決定したことだろう? それに風間には特に問題になるような点はないだろう?」
「――確かにそうですが」
そこで口ごもる香川に小澤が更に問う。
「何か不安要素があるのか?」
「――なんとなくですが、彼は自分を犠牲にしてでも人を優先させるタイプに思えます。危険を顧みず相手の為に動く、そんな性格ではいずれまた危ない目に合うかもしれない。非常に危うく思えます」
そういった香川の表情は真剣であり、どことなく思い詰めたようでもあった。
「だとしてもそれが理由で冒険者の資格なしとは言えない。むしろそれは冒険者にとって必要な事と思う連中も多いだろう」
「その結果命を失ってはどうしようもないではありませんか!」
香川が声を張り上げた。いつも見せているクールな印象とは掛け離れた感情的な声だった。
「――まさかお前、まだアイツのことを引き摺っているのか?」
一瞬の間を置いて発せられた小澤の言葉で香川がハッとした顔を見せた。
「申し訳ございません。ギルドの職員として今の発言は不適切でした。頭を冷やすことにします」
そこまで言うと香川が足早に玄関に向かっていった。
「香川。あの事件はお前が悪いわけじゃない。忘れろとは言わないが……」
「勿論わかってます。もう過去のことですから」
そう言い残し香川は先に玄関から出ていった。残された小澤が後頭部を擦って呟く。
「あのバカ、風間にアイツを重ねやがって――確かに奴も無鉄砲なところはあったけどな……」
そう口にした小澤の瞳はどこか淋しげだった――
◆?◆
冒険者ギルドと提携しているという病院で入院することになった。といっても念の為の検査入院だ。そこまで心配することではないだろう。
検査は明日のお昼まで予定されていてそれで問題なければ退院と聞いた。
まぁ今日はもう時間が時間だからな。とりあえず後遺症に残るようなことになってないかの検査は一通り受けたけど、更に細かい検査を翌日にやるということらしい。
病院についてからは秋月が色々と準備して持ってきてくれると言っていた。申し訳なくも合ったけど、配信でお世話になっているのだからと秋月は笑って言ってくれた。
「ふぅ。やっぱり検査は疲れるなぁ」
「ワン♪」
「ピキィ~♪」
「マァ~♪」
一通りの検査が終わって病室に戻ってからは三匹を思いっきり撫で構ってみせた。俺自身も癒されるしモコ、ラム、マールの三匹も嬉しそうだし実にウィンウィンな関係だな。
それにしてもまさか個室に入れさせてもらえるとはね。モコたちもいるから気を使ってくれたのかもしれない。
「風間はいるかい?」
俺がモコたちと戯れていると、コンコンっと個室のドアを叩く音と一緒に聞き覚えのある声が飛び込んできた。
「はい。大丈夫ですよ」
「なら失礼するよ」
「やっほ~お見舞いに来たよ~」
「――銃で撃たれたと聞いたけど……」
「貴重な経験だと思うわ」
俺が返事をすると中に見知った女性四人組が姿を見せた。そう、鬼輝夜のね――
「ところで彼の家族には連絡を?」
香川が思い出したように問いかけた。風間はとっくに成人を迎えているが、それでも今回のような事態になればギルドから家族に連絡をいれる必要があると、香川は考えていたようだ。
「そっちはこれからだな。調べはついてるんだが」
「そうなのですね。以前の話で放置ダンジョンで暮らしていると言っていて気になりましたが、ご両親は健在なようで何よりです」
「ふむ――」
香川の話を聞いた小澤は、短く唸り何か考えを巡らせているようだった。
「健在か、しかしまさかあの風間だったとはな」
小澤がボソリと囁くように口にした。
「何か言いましたか?」
「いや、こっちの話だ」
「そうですか――」
小澤の囁きは香川には聞こえていなかったようだ。そのまま廊下を歩く二人だったが、その途中で香川が難しい顔を見せていた。
「何だ小難しい顔してやがるじゃねぇか。折角の美人が台無しだぞ?」
「からかわないでください。それよりもマスター、彼は本当に合格で良かったのでしょうか?」
そんなことを問いかけてきた香川を見ながら小澤が目を点にさせた。
「なんだ唐突に。既に決定したことだろう? それに風間には特に問題になるような点はないだろう?」
「――確かにそうですが」
そこで口ごもる香川に小澤が更に問う。
「何か不安要素があるのか?」
「――なんとなくですが、彼は自分を犠牲にしてでも人を優先させるタイプに思えます。危険を顧みず相手の為に動く、そんな性格ではいずれまた危ない目に合うかもしれない。非常に危うく思えます」
そういった香川の表情は真剣であり、どことなく思い詰めたようでもあった。
「だとしてもそれが理由で冒険者の資格なしとは言えない。むしろそれは冒険者にとって必要な事と思う連中も多いだろう」
「その結果命を失ってはどうしようもないではありませんか!」
香川が声を張り上げた。いつも見せているクールな印象とは掛け離れた感情的な声だった。
「――まさかお前、まだアイツのことを引き摺っているのか?」
一瞬の間を置いて発せられた小澤の言葉で香川がハッとした顔を見せた。
「申し訳ございません。ギルドの職員として今の発言は不適切でした。頭を冷やすことにします」
そこまで言うと香川が足早に玄関に向かっていった。
「香川。あの事件はお前が悪いわけじゃない。忘れろとは言わないが……」
「勿論わかってます。もう過去のことですから」
そう言い残し香川は先に玄関から出ていった。残された小澤が後頭部を擦って呟く。
「あのバカ、風間にアイツを重ねやがって――確かに奴も無鉄砲なところはあったけどな……」
そう口にした小澤の瞳はどこか淋しげだった――
◆?◆
冒険者ギルドと提携しているという病院で入院することになった。といっても念の為の検査入院だ。そこまで心配することではないだろう。
検査は明日のお昼まで予定されていてそれで問題なければ退院と聞いた。
まぁ今日はもう時間が時間だからな。とりあえず後遺症に残るようなことになってないかの検査は一通り受けたけど、更に細かい検査を翌日にやるということらしい。
病院についてからは秋月が色々と準備して持ってきてくれると言っていた。申し訳なくも合ったけど、配信でお世話になっているのだからと秋月は笑って言ってくれた。
「ふぅ。やっぱり検査は疲れるなぁ」
「ワン♪」
「ピキィ~♪」
「マァ~♪」
一通りの検査が終わって病室に戻ってからは三匹を思いっきり撫で構ってみせた。俺自身も癒されるしモコ、ラム、マールの三匹も嬉しそうだし実にウィンウィンな関係だな。
それにしてもまさか個室に入れさせてもらえるとはね。モコたちもいるから気を使ってくれたのかもしれない。
「風間はいるかい?」
俺がモコたちと戯れていると、コンコンっと個室のドアを叩く音と一緒に聞き覚えのある声が飛び込んできた。
「はい。大丈夫ですよ」
「なら失礼するよ」
「やっほ~お見舞いに来たよ~」
「――銃で撃たれたと聞いたけど……」
「貴重な経験だと思うわ」
俺が返事をすると中に見知った女性四人組が姿を見せた。そう、鬼輝夜のね――
239
あなたにおすすめの小説
俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?
今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。
バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。
追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。
シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる