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中編

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「あ~あ。本当こんなクズニートが父親だなんて最低。ママもさっさとこんなゴミと別れて今の彼氏と再婚してくれればいいのに」
「は?」

 娘の姫が突如こんなことをいい出した。元々は帰ってきて早々に俺と洗濯物を一緒にしないでと文句を言われたのがきっかけだった。

 つい俺も感情的になって言い合いになったのだがその際に出てきたのが妻の彼というワードだ。

 しかもこの会話には義父母も参加してきたわけであり。

「本当よね。姫ちゃんの気持ちもわかるわ。こんな穀潰しの甲斐性なしより今の彼の方が素敵だものね」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 何だそれは。知らないぞ。大体そのことをあんたらも知ってたのかよ!」
「貴様! ゴミの分際で何だその口の聞き方は!」

 義父が顔を真っ赤にして怒ってきた。俺が思わずあんた呼ばわりしたのが気に食わなかったんだろうが正直俺にとってはそれどころじゃない。

「どういうことですか説明してください!」
「説明も何もそのまんまの意味よ。娘が職場の上司から食事に誘われてると言っていたからね。私たちで後押ししてやったのさ」
「相手は久美の勤め先の支店長だ。貴様なんかよりずっと稼ぎも上だぞ」
「いいものもごちそうしてくれたし私にも洋服とかプレゼントしてくれたんだよ。センスのない安物しかくれないゴミ男ととは大違い」

 義父母と娘がそんなことを言いながら俺を嘲笑し妻の不倫相手を褒め称えていた。その瞬間、俺の中で何かが切れた気がした。

 目の前にいるこいつらは何だ? こいつら人間じゃない。もう俺にはただの化け物にしかみえなかった。

「この通りもう久美だっていつでも離婚できるよう離婚届にサインもしてるんだ。後はお前だけださっさと書けゴミが!」

 義父母も娘も俺を罵ってきたがもうどうでもよかった。こうなったらもう遠慮する必要はない。

 俺は妻のサインがされた離婚届を一旦預かり早速興信所を探して妻の浮気調査をして貰うことにした。義父母や娘がわざわざ教えてくれたが話だけじゃ後で言った言わないになりかねない。

 何より情けない話だがそれでも心のどこかで嘘であってほしいという気持ちが残っていたのだろう。

 だが依頼後わりとすんなり返ってきた調査結果は完全な黒だった。久美はひと目をはばかるようなこともせず男と関係を持っていた。

 しかも義父母や娘が言っていたように俺を抜かした全員が不倫相手と一緒に食事にいき和気藹々としている様子もしっかり撮れていた。

 そう考えてみれば妻の帰りが遅かったことは勿論のこと娘の帰りも遅かったことがちょくちょくあった。聞くと友だちの家に行っていただけウザいなどと煙たがられていたがまさかこんな理由があったとはな。

 もういい。そっちがその気なら俺も行動に移すだけだ。

 俺は久美から次の休みを聞いた。その上で折角だから義父母も呼べばいいと伝えた。娘の姫にもその日は大事な話があるから家にいてくれと伝えておいた。

「やっと決めたのね。これでダメ親父とおさらば出来てあの素敵な人が私のパパになるんだね」

 娘は目をキラキラさせてそんな事を言っていた。全く何をどう間違えてこんな風になってしまったのか。

 俺の血だって引く娘だ。俺の責任ももしかしたらあるのかもしれないが、正直そんなことで心苦しくなることもなくなるほどに俺の心は冷めきっていた。

「貴方。料理の用意もしてないなんてどういうつもり? 折角パパとママも呼んだのに」

 久美が帰ってくるなり驚いた顔で言った。予定通り義父母を連れてきてくれたようだ。

「ふん。全くだ。これだから仕事も出来なければ家事すらまともにしない無職の引きこもりは」
「本当よ。久美、もうこんな男とさっさと別れてしまいなさい。代わりに私たちがここに住んであげるから」
「え? いやパパもママも何を言って……」
「ははは心配するな。実はもう引っ越す準備は出来ていてな。もうまもなく荷物が届くはずだ」

 義父のこの台詞に久美は戸惑いを隠せない様子だ。俺も呆れてものも言えない。

「そうだよママ~。もういいじゃんこんな生ゴミ捨てちゃえば」
「は? ひ、姫、貴方お父さんになんてことを!」
「もういいよ」

 どうやら久美は色々思考がおいついていないようであり義父母と娘の悪態ぶりに慌てたようだ。

 ま、そうだろうな。妙な話だが今この状況において俺について知ってるのは久美だけだ。だがそんなことは関係ない。

「久美、どうやら義父母も娘も俺を必要としていないらしい。だから今日限りでお前との関係も含めて終わりにしよう。これもあるしな」

 そう言って俺は記入済みの離婚届を机の上に置いた。途端に久美の顔がこわばる。

「ははは! やっと決心したかこのゴミが! だったらさっさとこの部屋から出て行け!」
「今日集まるよう言われたからそんな気がしていたのよ。よかったわね久美。これで貴方も自由になれるわよ」
「ちょ、待って! 二人とも何を言って」
「嫌だママだって言ってたじゃん。さっさとこの無職のゴミ男と別れて新しい人生をスタートさせたいって」
「姫、ちょっと黙ってなさい! あ、貴方嘘よねそんな急に離婚だなんて」
「嘘じゃないよ。本気だ。君の義父母はもとより姫ともお前とも、もうやっていけない」
「待っててば! あ、そうかこの間の話を気にしているのね? だったら私からちゃんと説明するから」
「それだけじゃないよ。久美お前不倫してるだろう?」

 俺がそう告げると久美がぎょっとした顔を見せた。

「そんな何言ってるのよ。私そんなこと」
「隠したって無駄だよ。お前が今の職場の支店長と付き合っていることをご丁重にも君の父母と姫が教えてくれたからね」
「えぇ!」

 久美が驚きわなわなとした目で後ろの三人を見た。何でそんな余計な真似してくれたのよって顔だな。

「久美そんな顔するな。お前にはこんな屑より稼ぎのある立派な相手がいるんだからな。このゴミから離婚してくれると言うんだからありがたい話じゃないか」
「そうよ。でもねあんたは無職の癖に家のこともロクにせず久美に苦労ばっかり掛けてきたんだからね。別れるにしても慰謝料は覚悟しなさいよ」
「は?」

 義父の言い分にもほとほと呆れたが続いた義母の話で更に俺は唖然となった。何だこいつはまさか本気で言ってるのか?

「そのとおりだ! この離婚は貴様がもたらした結果だからな。慰謝料もたっぷりもらわんと!」
「え? 慰謝料貰えるのラッキー。それなら私も新しいスマフォとか買ってもらえるかな?」
「勿論よ。一番高いの買いましょうねぇ」

 この一連の言動にもそれで喜ぶ姫にも心の底から呆れた。何故不倫された俺が慰謝料を支払うという話になるのか。

「何を考えてるのかさっぱりわからんが、慰謝料を支払うのは俺じゃなく久美の方だぞ。あと相手の男にもしっかり請求するけどな」
「「「は?」」」
 
 義父母と娘がキョトンとした顔を見せた。一方妻の久美だけだが青ざめた顔で頭を抱えている。

「ふざけるな! 何で娘の久美が慰謝料を支払わんといかんのだ!」
「当然だろう? 不貞行為を働いたのはお前たちの娘だ。俺は被害者だぞ」

 当たり前だが不倫で慰謝料を支払うのは不倫をした側だ。不倫されたほうが慰謝料支払うなんてそんな馬鹿な話があってたまるか。

「ふざけたこと言ってるんじゃないわよ! そもそも娘が不倫したのはあんたが無職で甲斐性なしだからよ! その責任はどうするのよ!」
「いや、そもそもだからって不倫していいことにはならないが……それ以前に何度も言ってるが俺は無職なんかじゃない」
「はは、まだお前はそんな世迷い言を」
「ほ、本当よ……」

 義父が変わらぬ態度で俺を蔑んできたが久美が血の気の引いた顔で答えてくれた。

「は? 本当って何だ?」
「道夫は本当に在宅で仕事をしているのよ。お金だって稼いでる」
「嫌だ久美までそんな。もうこんなゴミ庇うことないのよ。第一在宅で稼いでると言ったってあれでしょ? アフォイキリニートとかいうので月数千円稼いでる程度なんでしょ?」

 義母が言った。どこで手にした知識か知らんがおそらくアフィリエイトと言いたいのだろうがアフォでイキってるのはお前らの方だろう。

「俺はWEBクリエイターですよ。ついでに言えば企業していてこれでも優秀なクリエイターを何人も抱えてる身です。稼ぎだってその10万倍はありますよ」
「「「はい?」」」

 俺が語った真実に義父母も娘の姫もキョトンっとしていた。

「ば、馬鹿な! 貴様みたいなゴミが月数千万も稼いでるというのか!」
「数億だよ」
「はぁあああぁああ!?」

 何げに計算も出来ないことを暴露している義父だ。しかし気持ちいいぐらいのリアクションだな。

「く、久美、今のは本当なのかい!」
「え、えぇ……」
「嘘でしょ!」

 義母が久美の肩を揺さぶって問いただすと力なく答えていた。姫が驚愕している。

「そういうわけで俺にはしっかり稼ぎがあったんでね。まぁどちらにしても不倫していたのは久美の方だ慰謝料は顧問弁護士を通してしっかり請求させて貰う」
「こ、顧問弁護士だって!」
 
 義父が信じられないといった顔を見せていたがこれだけ売り上げてる会社なわけだし顧問弁護士ぐらい抱えている。しかもかなり優秀な人物をな。

「それとさっきから勝手に引っ越すだ部屋を明け渡せだ言ってるがここはもう売りに出してるんで無理ですよ。久美と姫も来週までには荷物を纏めて出ていってくれよ」
「え? ちょ、待ってよそんな急に……」
「そう言われてももう決まったことだからな」
「あ、あんた何勝手なことしてるのよ! 私たちは許可してないわよ!」
「そうだそうだ。こんな大事なこと勝手に決めるなんて違法だぞ!」

 相変わらずの身勝手な言い分だな。やれやれ仕方ないから俺から真実を伝えてやる。

「このマンションを所有しているのは俺だ。名義だってそうなっている。自分の物をどうしようが俺の勝手だ」
「な、なんだとぉおおおぉおおおお!」

 目玉が飛び出んばかりに義父が驚いていた。まぁこうなることはわかってて準備しておいたんだがな。

 本当は購入後にこの辺りも開発も進んで便利だったんだが仕方ない。こんな連中と過ごしていた部屋とはさっさとおさらばしたかったしな。

 まぁおかげで地価が上がっていて購入金額を遥かに上回る値段で売れたわけだがな。

「くっ、だったら財産分与だ! 離婚したなら久美にも財産を受け取る権利があるはずだ」

 全くしつこい連中だ。とは言え財産分与には触れてくると思っていたよ。

「言っておくが久美にわけられる財産なんてないぞ」
「え? ちょ、ちょっとまってよ! いくらなんでもそれはないじゃない!」

 久美が声を大にして叫んだ。この様子だといざとなったら財産分与をあてにしようと思っていたのかもな。

「そ、そうだぞ! そんな月数億円も収入があって何もないわけないだろう!」
「それはあくまで会社の収入だ。当たり前だが会社の収入と夫婦の財産は別だよ。だがそれ以前に久美お前お金使い込んでるだろう。借金まであるようだし」
「な、何言ってるのそんなわけないじゃない!」

 俺の指摘に久美が反抗してきた。やれやれ俺が何も知らないと思っているのか。

「いやいやだってお前義父母に毎月20万円しか渡してないんだろう?」
「は?」
「ちょ、なによしか・・って!」
「文字通りだよ。俺は久美にお前らの生活費を工面してくれと言われて毎月50万円渡してたんだ」

 俺の説明に義父母は目を白黒させていた。逆に久美は何でそれを知ってるの? といった顔してたがそれも義父母によってバラされたんだよ。

 全くこいつらはさんざん俺を罵倒してきたが不倫にしても渡していた金にしてもこの二人のせいでわかったわけだしそういう意味では感謝しなくもない。

「しかも久美には毎月自由になる金を20万円渡していた。いざという時の足しになればと思っていたが調べてみてわかったよ。お前株やFXやってるだろう? だけどそれら全て失敗して借金だけが膨れ上がったわけだ」

 久美の顔から血の気が失せていく。最初は不倫の証拠を集めるだけが目的だったが調べていく内にぼろぼろととんでもない事実が明かされていったよ。

「お前の使い込んだ金のことを考えれば財産分与なんて残らないことぐらいわかるよな? お前に必要なのは慰謝料の支払いだけだ」
「養育費、そうよ養育費があるじゃない!」

 義母もしつこいな。そもそも養育費は本来娘の姫の為にあるものだぞ。

「勿論わかっているさ。だからこそ俺と久美の共有口座を作ってそこに今後姫の為に必要になる金を預けていたわけだしな。確か元は2000万ぐらい入ってたかな。だからその口座はやるよ」
「お、おおやった! それさえあれば!」

 だからそれは本来姫の養育費だってのに。ま、とは言え久美の顔を見れば今どんな状況かはわかるがまぁいいさ。

「というわけで慰謝料についても含めて後日連絡するからこの離婚届はもっていくぞ」
「ま、待って考え直して」
「久美! その口座はどこだどこにある!」
「お母さんそれ私の養育費なんだよね。私のために使っていいんだよね!」
「私たちにもわけてくれるわよね久美!」

 久美は納得してないようだが義父母と娘が久美に詰め寄ってそれどころじゃないようだ。

 どちらにせよ今更俺の気持ちも変わらないし離婚届をつかみ見苦しく言い合う元家族を残して部屋を出た。
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